第3話

ヒナが私を殺すまであと一年。

私は乙女ゲーで見慣れた世界だからか、すでにこの世界に順応していた。

まぁ、実際今私が成っているエルジェは最初にチラッと紹介される程度なのだけれど。


ヒナにとってこの世でもっとも大きな存在だったエルジェは、ヒナに愛されたが故に殺されてしまう。


「お姉様お姉様!見てください!」


ヒナが元気よく庭園からこちらまで走り、庭園の奥の方でティータイムを楽しんでいた私のもとへと駆け寄ってくる。

ふわふわと美しい黒髪を揺らす少女。そして、シェルティア公爵家特有の美しい瞳。


「素敵なピンクの薔薇ね。」


ヒナは私にその薔薇をプレゼントしてくれるようだった。

ヒナがつけている純白のレースの手袋にピンクの薔薇が美しく映えていた。

これほどまでにエルジェを愛しているヒナは自分自身の手でエルジェを殺すのだ。

“エルジェのために”


最初のプロローグで殺されてしまうヒナの姉のエルジェ。二人はシェルティア公爵家の公女様として生活していた。

ヒナは誰よりも姉のことを深く、深く愛していた。

そんなヒナがなぜエルジェを殺すのか。

簡単な理由だ。ヒナよりもエルジェのが優れていたから。

ヒナよりも何倍もシェルティア公爵家の血を濃く受け継いだエルジェは公女としてそれは辛い日々を送っていた。

ヒナは姉を救いたかった。だから自分自身の手で姉を殺すのだ。

自分自身の罪に溺れて狂い始めるヒナを救ってくれる攻略対象たち。


........さて、私が生き残るにはどうしたものか。

私が死ぬ原因はこの血筋のせいなのだ。私自身の手ではどうしようもないというのが妥当なところだろうか。

ヒナよりも何倍も濃くシェルティア公爵家の血を受け継いでしまったせいで。

私が覗いたティーカップのなかの紅茶は私の瞳を反射し、濃い紫色と紅色が混ざりあった瞳がゆらゆらと水面みなもに揺れていた。

ヒナは公女様として辛い日々を送る私を救おうとしてくれる。ヒナが進んで殺すわけではなく、半分は姉に頼まれて。

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