愛のないスピード婚のはずが、夫の執着から逃れられません!

kyōko

第1話 10年前の破局劇


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**10年前の衝撃――王太子ジュリアンと天才少女カタリナ、婚約解消の真実とは?**


今から10年前、当時16歳だった「天才少女」カタリナと、王太子ジュリアン(18)による電撃婚約発表は、王国中を大きく揺るがせた。しかし、その華々しい幕開けからわずか2週間後、二人の関係に不穏な噂が立ち始めた。「婚約破棄の危機」とささやかれるようになったのだ。


そして、それが現実のものとなるのは、婚約発表からわずか29日後のことだった。卒業式前日に行われた二人の話し合いの末、正式に婚約解消が決定。衝撃的な展開は、午後6時から行われた卒業式パーティで全校生徒の前で明らかにされた。


ジュリアン王太子はその場で、隣国のエディス姫との新たな婚約を発表する一方、カタリナとの破局について驚くほど冷静に「もう愛する気持ちがなくなってしまいました」と告白。そのあまりにも率直すぎる発言に、集まった学生たちは息を呑んだが、すぐさま「国を担う者の品格としていかがなものか」との厳しい問いかけが飛んだ。しかしジュリアンは「軽率でした。これから改めたいと思います」とだけ答え、破局に至った原因を「自分の至らなさ」と強調した。


この事件は王国中に衝撃を与え、今でも語り継がれることとなった。若き王太子としての責任感が問われ、国民の信頼は一気に揺らいだ。しかし、この10年前の出来事が、今、新たな局面を迎えようとしている。その発端となるのは、留学していたカタリナがついに帰国するからだ。ジュリアン王太子とカタリナ、そしてエディス王太子妃を巡る過去の騒動が、彼女の帰国によって再び注目を集め、現代にどのような影響を及ぼすのかが話題になっている。


果たして彼女の存在が王室にどのような波紋を広げるのか、その真相が今、少しずつ明らかになろうとしている。


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タブロイド紙を手に取りながら、エディスは10年前のその日の情景を鮮明に思い出していた。



ジュリアンの隣に立ち、新たな婚約者として紹介された卒業パーティ。


多くの人の前で、カタリナとの婚約破棄が公表され、報道陣の関心は二人に集中していた。

その場の主役はジュリアンとカタリナであり、エディスはあくまで脇役だったが、それでもジュリアンは彼女を気にかけ続けていた。



卒業式パーティが終盤に差し掛かり、エディスは会場の華やかな雰囲気に少し疲れを感じ始めていた。

その時、ジュリアンが静かに彼女の名を呼び、バルコニーへと誘った。

エディスは少し緊張しつつも、彼の後に続いた。



夜風が心地よく頬を撫でる中、星空の下でジュリアンはエディスの方を真剣に見つめ、ゆっくりと口を開いた。「もうすぐ君は、僕の人生で最も大切な女性になる。だから、どうしても伝えておきたいことがある」


エディスは内心の動揺を隠しながら、冷静にジュリアンの話に耳を傾けた。

感情に流されることはない彼女だったが、この瞬間は特に、感情に振り回されることを避けたかった。


「カタリナとのことは、僕がまだ王太子として未熟で、国を担う覚悟が足りなかったからだと痛感している。でも、君との婚約を機に、このままではいけないと強く思うようになった。君を守り、この国を導くために、これからはしっかりと役割を果たしていきたい」


ジュリアンの言葉は誠実であり、その内なる葛藤が痛いほど伝わってきた。

エディスはその言葉を静かに受け止めながら、彼がまだ18歳でありながら、急激に大人にならざるを得なかったことを思い知らされた。

彼には人生を謳歌すべき若さがあるはずなのに、重圧が、その自由を奪っているのだ。


「そして何よりも、君が安心して僕と一緒に歩んでいけるように、全力を尽くすつもりだ」


エディスは、ジュリアンがこの若さで背負う責任の重さに同情しながらも、彼が自分に求めているのは愛ではなく、同じ重荷を共に支え合う同志としての支えであることを冷静に理解した。

しかし、彼に伝えなければならない重要なことがまだ残っていた。


エディスは一瞬ためらいながらも、決意を固めて口を開いた。「殿下、私にはひとつ、言わなければならないことがあります。子供は持ちなくないんです」


ジュリアンは一瞬驚いたようだったが、すぐにその表情は穏やかに戻った。「エディス、それが君の選択なら、僕はそれを尊重するよ」


エディスはその言葉に安心し、微笑んだ。

「殿下、ありがとうございます。私もあなたの選択を尊重します。私たちには愛情よりも強い絆があるから、これからもあなたを支えながら一緒に進んでいけますね」淡々とした口調で、しかし心からの言葉をジュリアンに返した。


エディスにとって、ジュリアンとの結婚は自国に戻れない現実から逃れる手段であり、彼の隣に立つことで安定を得る道でもあった。


今、ジュリアンは王太子として世間の厳しい視線に晒されており、その重圧を支えることが自分の役目だと自覚していた。



ジュリアンがエディスの手を取ったとき、その手には愛を求める温もりよりも、共に進む同志への信頼が込められていた。「ありがとう、エディス。君となら、僕は僕であり続けられると思う」


エディスは微かに頷き、冷静な目で彼を見つめ返した。


この婚約に愛はなくとも、それで構わなかった。

ジュリアンと共に歩む道は、彼女にとっても必要な安定の一歩だったのだから。




あの日の婚約破棄を経て、愛ではなく責任と信頼で結ばれた二人の結婚生活は、こうして10年を迎えようとしていた。

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