悪逆貴族の領地革命《スローライフ》~不毛の大地に追放された転生者は、チート植物を生み出す『生命の魔導書』でゼロから最強国家を建国する~

KAZU@灰の世界連載中

第1話 悪逆貴族に転生す。

「セカイ!! お前を処刑する!!」


 王都の大聖堂の祭壇で、激怒する父に俺はそう宣言された。

 多くの神官が見守る中、父は真っ黒な魔導書を構える。


 すると突如、黒い霧に包まれ現れたのはプロレスラーも真っ青な巨大な体格の黒い騎士だった。

 その騎士が俺に向かって殺意を込めた剣を向ける。


 一体どうしてこうなった……。





「大地君、大地君。これも頼むよ。できる……よね?」

「…………喜んで!」


 休暇を取ってゴルフに行く上司の仕事を無理やり頼まれ、僕は思ってもいないのにニコッと笑ってその仕事を受け取った。

 そして今日も一人、深夜まで一人残業するのだった。


「疲れた……でも、お腹をすかせてる人達のためにも頑張らないと!!」


 僕は、明日食べる物にも困る超が付く貧乏だった。

 学生時代はバイトして、家族を食わせ、部活も青春もできなかった。

 それでも死ぬ気で勉強を頑張り、奨学金でそこそこの大学を出た。


 そして今は、農林水産省に勤務する……まぁ他から見ればエリートに見えるだろう。

 だが実態は、最高学府出身の上司やら後輩やらに死ぬまでこき使われるだけの働きアリで、借金を返す毎日だ。


 それでも僕は、この仕事に誇りがある。

 今やっている仕事は、未来の僕のような腹をすかした子供を減らすことができる仕事だ。

 僕が頑張れば誰かが助かる。


「ふぅ…………一旦帰るか」


 気づけば深夜を超えて、日曜の朝9時……僕は、職場を後にし、眩しく輝く夏の太陽に目を細める。


 目の前には、今からプールにでも遊びに行く家族連れだろうか。

 気づけばすでに若くなく、子供がいてもおかしくない年なのにいまだ童貞――彼女の一人もいない。

 幸せそうな家族を見て、ため息をつきながら6畳一間の狭い我が家に帰宅しようとした。

 そのときだった。


「――!?」 


 目の前の道路に、子供が飛び出していく。

 親は、気づいていない。トラックが迫っている。


「危ない!!」


 僕は思わず体が動いた。

 あぁ……またやってしまった。

 誰かのためにまた僕は自分を犠牲にしてしまった。


 ドン!!


 そして僕は死んだ。あっけない人生。何のための人生だったのか。


 誰かのため、誰かのためと……自分の人生を最後まで生きずに死んだ。

 

 血が流れ、朦朧とする意識の中思った。


 もしも次があるのなら。

 

 次こそは、自分の……自分のための人生を生きてやる。

 

 そして、大空大地という人間は死んだ。





 だったのだが。


「…………なんだ今のは」


 俺――セカイ・ヴァン・ノクターンは目覚めた。

 この世界の王国――ファルムス王国の侯爵家の次男として。

 

「今のは……俺の……前世の記憶? 青空大地……日本の?」

「おはようございます。セカイ様」


 俺がベッドの上で混乱していると、ドアを開けて入ってきたのは銀髪の少女だった。

 白雪のような白い肌と白を基調とした制服、落ち着いた目で俺を見る。


 レイナ・クリスティア。

 俺の付き人……まぁ秘書のようなものだ。

 するとレイナが近づいてきて、俺の額に、自分の額をくっつける。


「熱は落ち着いたようですね。三日三晩のたうち回る姿は滑稽でしたが、快復されてよかったです。では、ご支度を。すぐに向かいますよ」

「…………どこに?」

「はぁ~~」


 糞デカため息を吐かれた。

 あれ? 俺、侯爵家の貴族で、こいつ付き人だよな?

 混濁する記憶の中、そんな疑問すら考える余地もなく、メイド達が次々と入ってきて俺は気づけば馬車に乗せられていた。


 向かった先は、王都。

 そしてアイギス教会本部の大聖堂。

 多くの神官と、メタボ気味でとてもイライラしている父が待っていた。


「おそいぞ、セカイ!!」

「申し訳ありません」


 ふん! っと腕を組みながら待ちきれないという様子。

 我が父――クロノス・ヴァン・ノクターン侯爵だ。


「では、セカイ様の魔導書授与式を執り行わせていただきます」

「……そういえばそうだった」


 今日は、魔導書授与式だった。

 この世界の人間は、16歳になれば魔法を使うための魔導書を女神アイギスから受け取る。

 今日はその日だった。


「では、セカイ様。前に」

「あぁ」


 そして、女神アイギスの像の前に立つ。神官が何やら願っている。

 すると空から金色の光が降ってきた。幻想的で、美しい。

 その光は徐々にかたどっていき、女神のシルエットになる。そしてその女神は、手に緑色の本を持っていた。


『――生命の魔導書を授けます。今度こそ、頑張ってください……セカイ……そして、青空大地さん』

「青空大地……生命の魔導書?」


 それは魔導書だった。

 見たことがない程に深い緑色の魔導書。

 女神は、俺にその魔導書を授けてどこかに消えてしまった。


 そのときだった。


「ふざけるなぁぁぁ!!」


 父が立ち上がった。

 

「やはりそうだ! やはりそうだったんだ!!」


 興奮する父は、手を前にかざす。

 するとどこからともなく真っ黒な魔導書が現れた。

 

「お前は儂の息子ではない!! なんだその緑の魔導書は!! 我がノクターン家は、代々闇魔法の使い手しか生まれてこなかった!!」


 そういう父が持つ黒い魔導書に対して、俺が神々から授けられたのは、緑の魔導書だった。

 誰も見たことがない程に、その緑は深緑の色をしていて、間違いなく黒ではない。


「やはりお前はあの女が他の男と作った子供だ!! この儂を、な、な、な……舐め負って!! あの女!! 生きていれば市中引き回しにして、魔物に食わせてやったのに!!」


 父の怒りは頂点に達しているようだ。

 なるほど、俺は托卵された子か。昔からよくもこんなデブから俺のようなイケメンが生まれたものだと思っていたが。

 やったな、母さん。


 しかし、父の怒りももっともだと思うが、それは今は亡き俺の母にいって欲しい。

 俺も被害者なのだが。


「お前はノクターン家にいらぬ!! この場で儂自ら処刑してくれるわ!! ダークナイト!!」


 直後、父の持つ黒い魔導書から黒い煙が噴き出し、その煙から骸骨の騎士が現れる。

 俺の体格に二倍はあるだろうか、その手にはさらに黒い剣が握られていた。

 あんなのに切られたら間違いなく死ぬ。


「死ね、セカイ!!」

「クロノス様! ご提案があります!」


 すると、後ろから銀髪美少女が俺を守るように割って入った。

 俺の秘書であり、付き人のレイナ・クリスティアだ。


「先日、国王陛下より賜った依頼があります。不毛の大地の開拓。そこの領主をセカイ様にお任せしてはどうでしょうか」

「………む?」


 すると黒い騎士は無散してしまった。

 レイナの言葉に耳を傾けている。

 どうやら俺を助けようとしてくれているらしい、さすが俺の付き人である。


「はい。侯爵家としてファルムス王が正式に依頼しただけに半端なものでは難しく、誰を派遣するか検討中でしたが、セカイ様であればすべての問題をクリアできるかと」

「……しかしなぁ」

「あの地は草も生えず、魔物も強力です。クロノス様が自ら子殺しの汚名を被る必要もなく、この無能であれば命を落とすことでしょう」


 あれ? 今、付き人に無能って言われた?

 すると父は、レイナの懸命な説得に、納得したようで俺に背を向けた。


「ふん! では、セカイよ。クロノス・ヴァン・ノクターンが命ずる。不毛の大地の領主となり、あの土地を開拓せよ。開拓を投げ出せば、即刻処刑するが開拓した土地はお前の物だ! その身命を賭して、我が国に利益をもたらせ!!」

「…………わかりました」


 ひとまず俺の命は助かるようで、父は背を向けて帰っていった。

 魔導書授与式は解散し、俺はレイナとともに外に出された。


「一体何をしてるんですか。私が助けに入らなければそのまま死ぬおつもりでしたか? 口から出まかせはお得意なはずなのに、いつも変ですが、今朝から一段と変です」

「あーなんか、ぼーっとしてた」


 正直まだ記憶が混濁して、頭が働いていない。

 レイナが助けに入ってくれなければ俺は死んでいただろう。

 まだ夢にいるような感覚なんだ。


「はぁ~」


 糞デカため息を吐くレイナ。

 これが主人に対する態度かと思うが、レイナにとっては普通である。


「咄嗟すぎてあれぐらいしか思いつきませんでした。申し訳ありません、不毛の大地行きになってしまい……」

「いや、助けてくれてありがとう」

「…………どこか頭でも打ちましたか? セカイ様が感謝の言葉など?」

「それぐらいするだろ」

「顔以外すべての要素がクズのセカイ様の辞書に感謝という項目があったことに驚きを隠せません。感動すら覚えます」


 こんなやり取りをしていると、記憶がどんどん鮮明になってくる。

 幼少期からずっと育った幼馴染のような関係性のレイナ……とはいえいいのかこれ。我、貴族ぞ。まぁ僻地に追放されたが。


 俺はレイナを見る。


 レイナ・クリスティア。

 銀色の髪と、青い瞳。白く簡素だが上品な服を着て、それよりももっと白い白雪のような肌を持つ少女だ。

 年は俺と同じ16歳。


 ずっと昔に俺が気まぐれで拾った奴隷に落ちた敗戦国の女。

 あの頃はボロボロだったので、俺の隣に立つなら美しくなれ、賢くなれ、気高くあれ。

 と言い続けたら、ほんとに超絶美少女に進化し、国一番の学校を主席卒業しやがった。

 さらに気高すぎて、毒舌キャラにクラスチェンジ。一部では氷姫なんて呼ばれているらしい。


「それで、その魔導書は? 私でも見たことも聞いたこともない程に深い緑色をしていますが」

「あぁ、女神が『生命の魔導書』っていってたな」

「…………生命。聞いたことがありませんね」


 俺の魔導書は――生命の魔導書――というらしい。

 確か俺の父の魔導書の名前は、黒騎士の魔導書で闇系統の騎士を召喚できるはずだ。

 俺はもう一度魔導書を開いてみる。

 

「白紙だ……でも」


 魔法が記されているはずのページは全て白紙。

 ただし、最後のページの裏表紙には、何かが書かれていた。


===========================

――生命の魔導書――

魔力:10/10

回復量:1魔力/1分

魔法一覧

・〈種子生成〉

・〈成長促進〉

・〈植物操作〉

・〈生命祝福〉


解放された植物一覧

Tier4〈開放済み〉

Tier3〈未開放〉

Tier2〈未開放〉

Tier1〈未開放〉

===========================


 それは、まるで前世の記憶にあるステータス画面のようなものだった。

 そして最後の一行には。


「ん? えーっと『魔石を下の穴に入れてね。ガチャ回せるよ。10連ガチャでR以上確定!!』……」


 俺はそれを見て思った。


「ソシャゲかよ」

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