第6話 : お昼休みはウキウキクッキング♪








 どうも、なぜか魔法のあるファンタジー異世界に着任した駆逐艦装少女の夕立、




「え─────────ッッ!?!!

 こんなちっちゃい子が提督なのかよォ!?!?」


「ブハハハハ!!マジでちっさくて可愛いじゃないの〜!!!」


「てかなんだこのチビ、死んでないか?」



 その他にもワラワラ、14隻もいる異世界着任した愉快な艦装少女フリートレス達と、



「‪……‬‪……‬」



 チーン、って擬音が似合うぐらいにグッタリした様子で起き上がれない、フォロン提督です。



 あれから、

 私達が昨日戦った件で怒られた朝の時から時間が進んで、今は昼なんです。


 あれから、

 そうあれからずっと‪……‬ずっと、提督は魔法の集中レッスンでした。


 合流した人達を任せて、私とアークロイヤルさんも魔法の授業に使われる必要があったので途中で参加しましたが‪……‬


 スパルタでしたよ、アレは。




「そんなわけで、昨日何かしらあったせいで提督になられたフォロン氏がこの方です。

 魔法を使う人の魔導士を育てるこの学園でも、なんと割と指折りな実力者です」



「持ち上げないで。持ち上げた分やること増えて今死んでる」



 なんかごめんなさいねー、


 そんな弱々しい提督を、むんずと掴んで持ち上げる一隻ひとり



「‪……‬‪……‬」


 怪訝な顔の、サウスダコタさんです。

 なお身長、190cmか180cmか忘れたぐらいの人です。


「‪……‬えっと、何?」


「なぁ、フォロンって言ったよなぁ?

 この際軍属じゃないとか現地人だとかはどうでもいいけどよぉ‪……‬


 ちゃんと食べてるかお前ぇ?骨も含めて軽すぎるぞフォロン提督ぅ??」



 と、ゆさゆさ高い高いしながら言うダコタさんでした。



「いや実はねぇ、ここからが本題なんだけど、

 私、家もないし親もいないし、私が兄弟姉妹の最年長なんだよね。

 こんな身体なのも、あんまり食べられないせいだよ。

 今朝は夕立が釣りで見た目は酷いけど中々美味しい魚釣ってくれたけど。


 まともな食事は久々だったかも」



「と言うわけなんですよ」



「マジかよォ!!

 てか今お昼だぞ多分たぶぅん!?

 アタシらも腹へってっけどまず提督がなんか食わなきゃいけなくねぇかァ!?」


「えー、てことはお昼なしぃ?

 もー、私建造されてから美味しかったけどグミしか食べてないよ〜?」


 と、サウスダコタさんに持ち上げられた提督の頬を不満を言いながら突くワシントンちゃんでした。



「ったく、この大所帯で飯にも事欠くチビが提督とは運が無いナ。

 おい、チビ提督。お前魔法使えるんだったら、今すぐ無から飯でも作ってミロ」


 そして、同じぐらいチビなプリンツ・オイゲン氏がそんなことを言います。


「無茶言わないでよ。それ錬金術でも高等な上に失敗続きの禁術の『黄金錬成』だよ、おチビさん」


「あ?出来ないのカ、無能魔法使いのチビ提督」


「夕立、私この口の悪いチビ嫌い」


「すみませんね。オイゲンさんは太平洋の我々にも噂が響くレベルに口が悪いんです」


「ああ、悪かったなチビ。

 お前が運悪く引き当てた重巡洋艦装少女ヘビークルーザーフリートレスの一体は、口が悪いお前よりちょっと大きいだけの、お前とおんなじクソ女だ」


「何それ、無駄にデカいオッパイに回った栄養の残りの脳みそが罵倒用に回したわけ?」


「元気なクソ提督だ。人間でチビの癖にフリートレス相手に喧嘩でもやんのカ?受けるゾ?」


「やる気?飯が無から作れない代わりに覚えた魔法をそっちのお昼にしてあげようか?コラ?」



 わーお、スッゴイ睨み合い!

 にしてもフォロン提督おっかねー!!

 あのオイゲンさんと、見事なディスり合いしてる!!フリートレスに喧嘩売るなんて、度胸がすごいのかなんなのか‪……‬!



「ははは!見てくださいよリシュリュー!

 あの大西洋1の口悪オイゲンに口で対抗できてるだなんて!」


「ただのお子ちゃまと、お子ちゃまみたいなヤツ同士の喧嘩じゃ無いのよル・ファンタスク。


 ま、見てて面白いけど!がんばれお子ちゃま提督ー!!」


 色々態度に問題あるEUFの艦二人に認められるレベルですか、提督。


「お子ちゃまで悪かったね!!

 あ‪……‬」


 と、ぐぎゅーとお腹が鳴る提督です。


「‪……‬お子ちゃまみたいなお腹鳴らしてたら、お子ちゃま呼ばわりも否定できないな‪……‬ハァ」


「で?そのお子ちゃま提督に聞きたいが、お前の昼はどうすんだ?」


「どうしようかなぁ。私一人なら、我慢するか『いじめ』を利用するか出来るけど‪……‬『風の手よ、優しく掴め』」


 ふと、ヒュンと飛んできた何かに魔法の杖を向ける提督です。

 見ると、渦巻く小さな竜巻が飛んできた何か‪……‬卵を空中でキャッチしてます。



「え?」



 と、振り向いた瞬間何か無数の飛翔物が。


 全部卵だ!!



 しかし、提督が魔法の杖を振るうと小さな竜巻が卵を優しく絡め取って、大体全部をそのまま優しく地面へ。




「チィッ!!!生意気なんですわよ下民が!!!

 姫様に冤罪をかけた癖に!!!」



 遠くからそんな声と、多分生の卵やら生ごみやら投げてきます。


「ありがとう貴族様ー!!」


 そう叫んだ提督は、全部風の魔法で優しく受け止めて、そして地面に置いたそれらを即座に分け始めます。


 あ、ついでになんか炎の魔法まで飛んできましたけど、ノールック小声詠唱で土の壁を作って防いじゃいました。



 全員わかったはずです。フォロン提督の立場と、このフォロンという名の人間の心の強さ。


 そして、凄腕の魔法使いは伊達じゃ無いという事。




「みんな!!優しい貴族様がご飯の元投げてくれたよ!!

 まだ食べられるの結構多いから、洗ってなんか作ろう!!!」



 思わず、あのEURフランクの2隻すら拍手します。



「お前な、クソムカつくチビだが認めておくぞ。

 間違いなく、凄腕の魔法使いダ。そこは文句は言えないナ」


「まぁね。

 正直、魔法の才能あって良かったよ。

 ほら‪……‬普通なら心にくるイジメもお腹を満たせる‪……‬!」



 ふふふ、と笑いながら、何やら地面から土を盛り上げさせ、炎を産んで、圧倒いう間に窯に変身。


 ついでに、どこからか鍋まで取り出すフォロン提督‪……‬



「‪……‬物理法則も何もあったものじゃないかもですね」



 思わず、そう呟く高雄さん。

 うんうん、と14隻のフリートレス全員頷きます。





「‪……‬君の目印って、投げられる生ごみと卵だと思っていたんだがね」


 ふと、そんな声を聞いた方向に向くと‪……‬


「あ、昨日の‪……‬フォロン提督が活躍している後ろでずっと見てた癖毛な3枚目な人!」


「事実陳列罪って没落貴族といえども最後のプライドが壊れるからね!?!」


 そう、名前忘れてたけど、確か貴族の人!なんか嫌味っぽさないというか、幸薄そうな人。


「あーもうその顔で分かるとも!フォロン君の召喚獣君!!どうせこのマトゥ・サンディルマン伯爵のことを忘れているんだろう!?」


「ええ、私の名前のように」


「そこはごめんなさい!レディに失礼だったね!!

 ‪……‬あ、失礼ながら僕はマトゥ・サンディルマンだ。

 名前をもう一度伺っても?」



 なんかこの人面白いな!

 マトゥさんですか、覚えてあげましょう。



「私は夕立。駆逐艦装少女デストロイフリートレスの夕立です」


「こりゃどうも。

 にしてもフォロン君、壮観だね!ここにいる子皆が君と契約してるのかい?」


「‪……‬正確にいうと、私はこの板の中の人工精霊っぽい存在の大淀おおよどと契約をしているのが正しいっぽいんだけどね、伯爵さん」


 と、マトゥさんの質問に提督は提督専用端末アドミライザーの画面で無表情ピースしている大淀の姿を見せて言います。


「おかげで、夕立以外のフリートレスっていう彼女ら種族が作られるたびに契約魔法の繋がりが増えるんだって。

 エリアテ先生に「悪いことばかりではないが、お前の実力が伴わないと宝の持ち腐れになるやり方だ」ってくどくど色々ありがたい教えを貰ったよ。


 あれだね、伯爵さんも禁術使う羽目になって、精霊以外と契約する時は多人数になるようなのはお勧めしないね。


 特に口が悪いちっこいのとかいたら目も当てられない」



「悪かったナ、お前と同じ口が悪いちっこいので!」



「くぅ〜、早くも漫才できるような相手まで〜!!

 正直羨ましいぜ、君の才能!もう召喚した相手と打ち解けている!


 まぁ、そんな君の才能でも手に入らない物を実は持ってきたんだよ、僕はね」



 ふふと笑って、マトゥ氏は何やら瓶詰めの茶色い何かが入ったものを取り出します‪……‬


「あ!サンディルマン家秘伝のスープの素!!」


「ふはは!秘伝の調合を煮詰めたスープを粉末にしたものだ!!

 後、赤マンドラゴラも持ってきたぞ!」



 と、もう片方の手には、2頭身の恐ろしい顔の真っ赤な人型のニンジンのような物体が!!



「赤マンドラゴラ〜!?!

 しかもなんて良いサイズ!!!」


「赤マンドラゴラってなんですか提督?」


「知らない?あれ植物型のモンスターなんだけど、薬にはならないけどとにかく美味しいんだよね。

 そのままなんかソースにつけて食べてもシャキッとしてて‪……‬煮込んで出汁を吸って程よく柔らかいやつが、」


「美味しいんだよな〜、それが!!

 ほら、僕も没落とはいえ伯爵だからね?

 こうやって、いつか本当の領地を買い戻しても栽培ができるようなやつを育てているのさ、ってあ!!」



「へー、これが食材なのですか?ちょっと失礼」


 ふと、近くにいたダイドーさんが、好奇心でその人型ニンジンっぽいのの両脇に当たる部分を持ち上げました。




「「耳を塞げぇーッ!!!!」」



「え?」



 なんかすんごい嫌な予感と、大声の指示!


 素直に従った私と数隻。そして目の前の人型ニンジンの怖い顔の目の当たりが『カッ』と見開かれます!!





「ほげほげぎぇぴぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ──────────ッッッッッッッ!!」





 それは、悪魔の鳴き声でした。


 耳塞いでこの音量というべき、爆音!!


 耳を塞がなかった面々が意識を手放し、爆心地のダイドーさんはなんといえば良いのか、気絶と覚醒をすごい短い感覚で繰り返すかのように立ったままビクビクしてます。



(───聞こえる!?今、習いたての精神感応魔法で喋ってるんだけど!!)




 と、直後耳とは別の場所から聞こえる提督の声!



(そっちの声とかは聞けないけど!!

 誰でも良いから、赤マンドラゴラの頭の葉っぱを引っ張って!!!

 そうすれば声が止まるの!!)



 マジで!?

 あ、でもダメだ!!今耳を塞ぐ手を離したら、ダイドーさんみたいになる!!

 くそぅ、ここが異世界なのを忘れていた!!!


 食材一つで、私たちの世界とルールが違う!!!




 ボン!!!



 ふと、そんな音と突然の衝撃波が、私達を襲います。


「何‪……‬?」


「待ってください!音が!!」


 そう、ちょうど近くにいた隼鷹さんがいう通り、あのとんでもない叫び声が気がつけばなくなっています。



「‪……‬‪……‬あれ!?島風ちゃんは!?」


 ふと後ろからの高雄さんの声に、周りを見渡す私達です。


 島風さんが‪……‬いない?




「───音やんだかな?」



 ふと、ボンとまた衝撃波という名の暴風を引き連れて、島風さんがすぐ近くにスーパーヒーロー着地みたいな姿勢でズザザーと地面を滑って止まります。

 膝擦りむきません?それ。



「島風ぇ!?何してんだぁ!?」


「簡単な事だよダコタさん。

 音より速く走れば、音は聞こえない」


 と、ブランと頭の葉っぱを引っ張る形で持たれているマンドラゴラを見せて笑う島風さん。


「‪……‬音より速く?秒で街から山まで行けるって言われてる音より?」


「フォロン提督だっけ?そういえばちゃんと名乗ってなかったけど。


 ボクは島風。最速のフリートレス。


 多分街から山まで秒も貰えるなら3往復できるし、海の上ならもっと速いよ?」



 なんてウィンク。流石陽元艦1のイケ女艦だ。黄色い声援しても良いぐらい。



「意義ありだぜ、同志島風。

 この私、タシュケントの方が速い」


「半分だけそこの酒飲みのアカ駆逐艦に同意しますけど、

 最速はこの私、ル・ファンタスクなんですけど?

 今から証明してあげましょうかぁ?極東の田舎者が」



 と、そういえば聞きしに及ぶ最速の駆逐艦がこの場には後2隻いましたっけね。


 ふと、マンドラゴラを肩に背負って、島風さんが二人を見ます。



「それで?ちゃんと考えた?」


「は?」「何?」



「いやだからさ‪……‬

 ボクより速いっていうくせに、音速突破してこのニンジンの化け物の声を回避するっていうアイディアが浮かばなかった言い訳をさ?


 あ、浮かんでた?

 ボクの方が速くて、反応できなかっただけか!」



 ブッツン


 久々に聞こえた堪忍袋の尾が切れる音。



 煽る笑顔の島風。身を低くするタシュケント。

 阿修羅の顔のル・ファンタスク。


 3隻、一斉にスタート!



「させないっての!」


「あっ!!」


 なんて事させる気がないので、まず島風さんの足を払っておきました私です。


「痛って!!

 何すんだよ夕立さんさぁ!?!」


「何すんだはこっちのセリフですってーの!!

 この雄叫びニンジン止めたのは手柄ですが、それで味方煽って喧嘩かけっこ大会開催とかアホですか島風さんは、相変わらず!」


「んだよ、良いじゃんかよどうせすぐ終わるんだから!!

 もう言ってやるから邪魔は‪……‬あれ?」



 ようやく、なんで私が足を蹴ったのかを、固定されて動かない足を動かそうとして気づく島風さん。



「『暴力封印ランペイジ・ロッキング』♪」


「うわ、きょ!!

 卑怯だろそれは!?!」


「あははははッ!!どうしたい同志島風ぇ??

 かけっこで決着つけるんじゃなかったのかぁい??」


「プークスクス!!自分より足の遅い駆逐艦にしてやられた気分はどうですぅ??あっはっはっは!!」


 なんて、残りの最速の二人が島風さんに煽るために近づいたので。


「こんな気分なんじゃないですかね?」


「「痛ッ!?」」


 ガス、ガス、とその二人の脚を蹴ります。


「「あ」」


「じゃ、喧嘩両成敗ってことで」



「あー!?ちょ待てよ夕立さぁん!?!」


「同志ぃ!?!これは酷いんじゃないのかなぁ!??」


「なんで私までこのアホ二人と同じ扱いなんですかぁ!?待遇の改善を求めますからねぇ!!」



「ぎゃーぎゃーぎゃーうるせぇんですよ。

 女3人集まって『姦しい』ってんだから」



 早速背後で、3人とも、脚固定されてる状態で喧嘩してるし。



「‪……‬時にフォロン君。14も使い魔がいるとこうも騒がしいんだね」


「おすすめしないよ、没落伯爵さん」



「すみませんね提督。


 で?他に血の気に任せてああやって喧嘩したい人は?」



 あそこの3隻と私と、後今マンドラゴラの雄叫びのせいで気絶していたダイドーさんを介抱していたアークロイヤルさん以外‪……‬えっと数えると8隻は大人しくしている感じですね。



「全く、騒がしくにゃったわねぇ」



 ふと、そんな私たちに近づく‪……‬ネコちゃーん!?

 昨日見た喋るネコちゃーん!!


「ネコちゃーん!!?」


「ネコちゃぁーんッ!?!!」


「ネコちゃーん!?!」




『ネコちゃーん♡』




「ネコちゃーん、じゃなくてケットシーなのにゃ!

 もぉ、他の世界にはネコの貴族はいないわけにゃの?」



 ピンクの毛並みの可愛いネコちゃん。

 提督と同じブレザーみたいなお洋服が似合うネコちゃん。

 なんかおっきなバケットをフワフワな前脚おててで持ってる二足歩行ネコちゃん。


 ネコちゃん!!


 もうメロメロです!!ネコちゃん可愛いやったー!

 ちょっとサワサワさせてプリーズ!!! (×14)



「ちょっと夕立!!後それ以外!!一応チェリーナ先輩は、ケットシーの王族だからね!?

 しかもすっごいお世話になってる人なんだから、失礼な事はしないの!!」



『失礼しました!!提督!!

 並びにチェリーナ姫様、大変失礼致しました!!』



 全員姿勢正せ!!ここで理性を失っては、二度とネコちゃん先輩様本人とか、そのお仲間の国に招かれない可能性がある!!!


 ケットシーの王族!!

 つまり、喋るネコちゃん達の国がある!!!

 ‪……‬ここで仲良くなっておけば、ネコちゃん天国に生きたままいけるという事だ!!!!



「逆に怖いぐらい統率が取れてるにゃ‪……‬」


「あー‪……‬それだけ先輩が『魔性の女』って事なんでしょうきっと」


「まったくもぉ!まるでそこら辺の知性のないネコみたいだにゃ。

 そうそう、本題になるこれも野良猫の理性を無くすには最適だったにゃものね」



 と、ネコちゃん先輩じゃなかったチェリーナ様がお取り出したるわ‪……‬



「に、肉!?!」



 肉だー!!

 というか、でっかい羽根むしり済みチキン丸ごと!!


 まさに、肉!!!




「さて、ちょうどお昼の時間もまだあるにゃ。

 マトゥ、秘伝のスープの素はあるわね!?

 フォロンも、いつも通りアホな貴族から食べられる物は巻き上げた!!


 鍋は錬成するわ!!炎魔法の用意はいいのにゃ!?


 お昼ご飯を作るわよー!!!」




『おー!!!』



 なんてこった!!ナイスすぎるネコちゃんお姫様!!!!

 ご飯作りの用意もできるなんて!!!







「もうここまで大雑把なスープなら、作り方なんて入れて煮て終わりでいいが‪……‬まずは鶏だけは下処理をしようか」



 そういう重巡洋艦のザラさん。メシが美味しいロマリアの出身です。


 手際よく、チェリーナ姫様の持ってきた鳥を解体して、血合とか内臓を即座に取り除き、提督が魔法で作った鍋へ‪……‬


「おっと。提督、すまないが水の魔法を使ってもらえるかな?

 鳥を最後に一回洗おう」


「はいはい。ついでに『即死魔法』使うね」


 ファッ!?!


「提督なんかザラさんに恨みでも!?」


「いやいや、消毒だよ!?!病魔っていう微生物とか寄生虫の卵とかを殺すんだよ!」


「今時、即死魔法なんて赤ん坊でも対策している古い魔法だぞ?

 もう病魔ぐらいしか効果ないんだよ」



「すげぇ、魔法便利!!」


 いうや否や、ザラさんに向かってマトゥさんが何か防御してそうな魔法を唱えて、チェリーナ姫様が可愛く杖で多分即死魔法を鶏肉に。そして同時に水道の蛇口程度の水を提督が生み出して、そこを慣れた手つきでザラさんが鶏を洗います。



「‪……‬これ鶏っぽいけど鶏じゃないな?」


「え?」


「ちょっと肉質が硬めなのもあるが、思ったより細身だね。

 ふむ‪……‬だが美味そうだ」


「これはね、ムカシドリっていうのにゃ。

 鳥みたいだけど鳥じゃない、でも鳥に近い生き物で、狩りの標的にはピッタリの生き物にゃ」


「数も多くてさー、すぐゴミ捨て場漁ってウンコ撒き散らす厄介なやつだけど。


 マジで貧乏だったり今すぐ肉がいる魔法使いは、攻撃用の魔法の試しに撃つ練習にしたりして狩るんだ」


「正直増えすぎても迷惑だが、一時期の不作が起こった時は減りすぎちゃってね‪……‬

 だから、今は狩る時はシーズンを決めたり、半分畜産にしたりする鳥なのさ」



「ほぉ‪……‬まさに魔法の世界の食材というわけか」



 岩を魔法で削ったらしいまな板で、簡単な机が割りのそこら辺の切り株の上でサクサク捌くザラさんもすごいいい手際。


 切ったら、お鍋。そして水。


「水は洗う分は属性魔法でも良いけど、腹に貯めたい場合錬成で実態のある水にしないといけないんだよ」


「ああ、消えちゃうんでしたっけ。普通に魔法で出した水って」


「結構難しいルールと手順があってさ。

 あれ、手順といえば‪……‬ザラだっけ?なんで最初に鍋でお湯温めないの?」


「良い質問だな、提督。水から温めた方が、実は灰汁が出やすいんだ。

 ああ、そういえばこのニンジンみたいなマンドラゴラとかも、根菜なら水のうちに入れた方がいいか。


 同時にまな板を水と即死魔法で洗って、赤マンドラゴラとやらを‪……‬いやほとんどニンジンだなコレも手際よく刻んで‪……‬



「でかいし手伝いますよ」


「ありがとう、日本の駆逐艦ちゃん?」


 この人も顔いい上に素でイケメンなこと言うんだな。


 ま、そんなのでお腹膨れないので、ニンジンマンドラゴラを愛用ナイフで刻んで‪……‬鍋へ!


 さて、提督が作った竈門と、サウスダコタさんがチョップで割った薪をくべて安定した火の上にお鍋をば。



「他の野菜の切れ端どうしますか?」


「他のは‪……‬温まってきた辺りに入れよう」



 じっくりコトコト、鍋を煮ます。

 対流的なのが見え始めた辺りで‪……‬おぉ、出てきた出てきた灰汁がいっぱい。



「火加減は弱めにしよう。

 じっくり煮込んで‪……‬と言ってもそうも言ってられないかな」



 周りの仲間のフリートレス一同、もはやお腹空きすぎて静かに座って遠くを見ています。



「仕方ない、あく取りは入念にするが、そろそろ薬味になりそうな屑野菜を入れるか!!」


「フォロン、卵をといちゃって!」


「了解!」



 薬味投入。ちょい煮。しなしなのお野菜。

 秘伝のスープの素!お塩!お胡椒!!



「じゃあまず一回め」


 溶き卵を、チョッチ入れて‪……‬一回温め待ち。


 コレを繰り返したら‪……‬




「できたー!!」



 適当な鶏肉っぽいヤツとお野菜卵スープ!!



「うぉーできたー!?!」



 はい、お待たせ皆さん!!

 早速、木のお皿とスプーンを用意して実食です!!



「うめー!!」


「おいちー!!」


 ステイツの戦艦二隻ふたりは、もう夢中で食べてます。




「シンプルな味わいね。肉が思ったより柔らかいのも良いかもとは個人的に思うわね」


「でもスープなんてコレぐらいで良いって感じじゃないですリシュリュー?

 うーん、そうそうこう言うの!安い素材って言い方は酷いですけど、高級すぎないこのぐらいの美味しさが好きなんですよね?」


 フランク艦、味の評価はまぁ良いんでしょうけど随分と食レポが細かい‪……‬





「ああ、味がある‪……‬!」


「うぅ‪……‬ヴィクトリアの家庭料理からかけ離れてて最高‪……‬!!」


 そして、ヴィクトリア艦お二方とも普段拷問みたいな料理でも食べてらっしゃる???




「‪……‬‪……‬うん」


「‪……‬‪……‬ん」



 まぁ、ゲルマンのお二方は静かに良い顔で食べてくれているので気に入ってはいるみたいですね。




「良い味のスープの素だな。コンソメに近いおかげか鳥に合うね」


「いやぁ、調整は塩と胡椒だけのシンプルなのも成功したようだなぁ同志ザラ?」



 あ、そういえばタシュケントさんって一応ノーシア艦ですけど、本人もそんな名前つけられるだけ合って製造場所はザラさんと同じロマリアの研究所でしたっけね。



「大体みなさん好評なようで」


「なんだまだ食べてなかったのかい、夕立さん?

 早くしないと僕か意外と大食いな高雄さんが食べ尽くしちゃうぞ?」


「ぶへ!?そ、そそそそんな事ないよぉ!?!」


「あ、夕立さん。このお二人もう二杯目ですよ?

 早く食べないと無くなっちゃいますよぉ」


「やっべ!ありがとです隼鷹さん!!」


「僕はぁ?」


「煽り魔にお礼なし!ほらもう島風さんたら男の子みたいに口につけてるし!」


 なんてオカンですか私は!

 私も食べとかないと‪……‬ああー、良いお味のスープ!!




「‪……‬で結局鍋にもう少ししかないし」



 あれよあれよと、もう鍋に何杯か分残るのみです。



「食ったー!!美味いぜ提督ぅ!!」


「おにゃかいっぱいでもう眠いー!!」


「君たち体デカいだけ合って1番食べてるね」


 なんて、ちょっと膨れてるダコタ&ワシントンの大食いコンビのお腹をくすぐる提督です。

 二人ともなんか楽しそうだし。


 なんか手慣れてるなぁ、ああ言うタイプの扱い‪……‬フォロン提督一応長女だからです?


 まぁいいか。


「さて、お腹も膨れましたし!

 じゃ、隼鷹さん。そろそろ話しても良いんじゃないですかね?」


 そんなことより、前置きが長くなりすぎましたけどそろそろ質問コーナーですね。



「‪……‬まぁ、そうですよね。

 とは言いますけど、私も実は何が起きてるかは予想でしかなくって‪ですね‪……‬」


「でも何か知ってんでしょ?」


「夕立、なんの話?」


「提督。実は‪……‬いや実はって言い方も変ですかね‪……‬」


 まぁ、実は昨日からずっと考えてたことなんですよ。


「‪……‬フォロン提督が、提督になられた状況。大分混乱していますが不可解な点が多いと私は昨日から思っていたんです」


「‪……‬‪……‬もしかして、夕立を建造したあの機械の、出てきた場所、ってコト?」


 提督も、心当たりがあるようですね。


「提督、まず聞きたかったんですけど、


 昨日提督とあのドーリナ姫様が使った禁術の方の召喚魔法、どうやって召喚するタイプでした?


 もしかしてですけど、地面に魔法陣的なのを描くタイプでした?」



 ずっと、気になっていた質問を投げかける。


「そうだよ。

 そして、私がそれ使った時、夕立が来た方角は‪……‬


 ‪多分、あの建造する機械は空から来た。

 使った瞬間、降ってきて突き刺さったんだ、あのボロボロの壁にさ」



「‪……‬でしょうね」



 昨日の光景、私が見た突き刺さった壁の建造用の機械。


 考えても見たら、あの壁はボロボロだけどそう言う魔法的な模様はなかった。


 まるで‪……‬空中で爆発した破片が刺さったような。



「‪……‬‪……‬やっぱり」



 そして、どうやら事の真相を知っていそうな隼鷹さんが、何か合点がいったようにつぶやいたんです。



「‪隼鷹さん、何が合ったんです?

 なんで私達が異世界に来たのか、知ってるんですね?」


「‪……‬‪……‬知ってると言うより、予想というべきか」






「その話をするのは、もう少し後にしてもらおうか」





 ふと、気が付けばあのすごい美形のエルフの先生が鍋の前に立っていました。



「エリアテ副学長!?!」



「スープを貰おう。私も午後お前達の直接指導と、面倒な事態の収拾には少し力がいる」



 そういって、何か呟いてまだ温かいスープと具が勝手に宙に浮かんで、エリアテ先生さんの持ってたお皿の上‪……‬というか中に落ちていくのです。息を吸うように魔法使うなぁ。


「面倒な事態、ですか?」


「‪……‬とりあえず、誰か忘れているぞ?」



 ふと、そう言って指差す先に現れる大きな影。

 あれは‪……‬!



「なんだコイツはァ!?」


「敵!?!」



「ステイツ艦二人とも落ち着いて!!

 こちらこう見えて提督のご学友です!!」


 そこにいたのは、いわゆるオークのギオーラさん。

 サイズがでかいけど提督のようにブレザー型の学生服を着ている、同じく魔導士の卵の‪……‬



「みんな‪……‬俺‪……‬」



 そんなギオーラさんの背後から、背中に乗ってひょこっと顔をだす目隠れ黒髪の小さな子。

 なんか背中に鳥のような黒い翼の生えてる、私と違ってマトモな黒いセーラー服の子が、


 ひょこ、ひょこ、ひょこ‪……‬


 7人ぐらい、オークの大きな身体の背後から顔を出す。



「‪……‬この世界の存在の魔力じゃない」


「ああ‪……‬闇っぽい力を感じる‪……‬!」


「匂いもちょっとちがうにゃ」


 提督以下、学生とはいえ魔導士達が呟きます。



「あのー、マスターのお友達さん?

 流石に言い方が酷くないです?私達そんな敵対的じゃないんだけどなー」



 なんて言って、この目隠れさん達のサイズを大きくして前髪も整えたみたいな女の方もギオーラさんの背後から出てきます。


「マスター?まさか!」


「‪みんな‪……‬ごめん。やってしまった‪……‬!」


「───あまり褒められたものではないが、ギオーラもハメられたようだ。

 どうもフォロン、お前達のやった事の影響は悪い方向に進んでいるぞ?」



 何がどうなったのか?

 いや多分、ギオーラさんも昨日の会話で、提督と同じく許されている他世界の存在と契約ができなかったタイプ。


 そして、多分会話からあの謎の翼付きマトモなセーラー服軍団は、許されてない世界の存在だってこと。



「悪い方向って言い方も酷いなー?

 そこの、面白い格好の危ない女みたいなナニカの皆さんのおかげでこっちも大変だってのに」



「私達が面白い格好の危ない女なのは認めますけど、

 じゃあ私達は何をしたっていうんですか?」



 面白い格好の危ない女な自覚はあるけど、何をしたかの自覚すらない巻き込まれ系なんですよこっちは?





「やめろ。

 今小競り合いやら何かを始めたところで、解決まで時間も手間もかかるのには変わりがない」



 ふと、エリアテ先生さんがそう呟いて、スープを一口丁寧に飲む。



「昼食を済ませ、済んだら昼の休みの間は少し休め。

 皆、後でたっぷりお互い話す時間をくれてやる」




「‪……‬‪……‬‪……‬」



 チラリと、臨戦態勢の友軍フリートレスを見る。


 ただ、確かに戦う理由なんてちょっと言葉のトゲに過剰に反応したという、こちらのヤンキー精神からの理屈でしかない。



「‪……‬‪……‬‪……‬まあ、後で諸々聞きましょ皆さん。

 なんか私が仕切るようでアレですけど、異論はないですよね?」



「‪……‬‪……‬‪……‬ま、食後だし。許すわ、そいつらの舐めた態度」


「‪……‬‪……‬リシュリューがそういうなら従いますね」



 1番血気盛んなフランク艦二隻がそういうので、抜刀しかけたヴィクトリア艦の御二方も矛を収めます。あこれ比喩表現ですからね?



 他の皆も、とりあえず緊張解除。

 はぁ‪……‬‪……‬




「‪……‬あ、ところでなんですけど?」



 ふと、例の黒髪の翼生えたセーラー服の人が手を挙げる。




「スープの残り、自分らの分もある?」




 ‪……‬‪……‬



 こればかりは誠心誠意頭を下げてごめんなさいしておきました。





          ***

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