艦装少女-フリートレス-異世界に着任しました!?
来賀 玲
第0航海日誌:夕立、着任しました!
プロローグ:かつて戦場だった静かな海より
────静かな、静かな静かな、水の底。
冷たい、暗い、でももうそれも慣れたような
私は、役目を終えたモノ。
鋼鉄の身体はその全てが錆に覆われて、もはや深海の生き物の巣としての役目としての機能しかない鉄屑。
私の名前は……なんだっけ?
でも役割は覚えている。『駆逐艦』だ。
この連装砲で、この魚雷で、爆雷で、対空機銃で戦う軍艦。
海の脅威を駆逐し、艦隊の他の艦を守るためのもの。
戦艦ほど砲は大きくないし、直接撃ち合うのは装甲も厚くて砲が大きい戦艦の役目。
空母みたいに航空機を運んで、手の届かない場所から一方的に攻撃できはしない。
でも、それ以外にもなんでもできる。
便利屋で、過酷な戦場には必ずいる。
そう、私は駆逐艦。
このアイアンボトムサウンドで戦い、沈んだ駆逐艦だ。
……そうだ、何故か名前を知っているこの場所は、
私以外も沈んでたはず。私は、沈められたけど一発デカいの撃ち込んだぐらいしかしてなかったはず。
まって。それはおかしい。
あの戦いは酷い。停電した酒場で喧嘩したような戦いだった。
私は、私の主観はもっと戦った。
一発ラッキーヒットは、敵の視点。
今は敵じゃない。
なんで今は敵じゃないって知ってる??
そうだ、ここの名前も、
このアイアンボトムサウンドも、
そう呼ばれたのは、後世だったはず。
何故知っているのか?私はその名を知らずに沈んだ。
沈んだ?
まるで当人みたいな言い方だ……
私は、彼女じゃないじゃないですか。
そうだ、やっと思い出した。
私は、鉄底海峡に沈んだ『駆逐艦』の名前を与えられたんだ。
新しく現れた『人類の敵』の戦うため、人を海の脅威から守る為。
「───
主機ボイラー火入れ、暖機運転開始。要は目を覚ませって事ですね。はいはい、人使い荒いってーんですよ。
冷たくくらい水底から、あの光の海面へ
頭もハッキリしてくる。
私はいったいなんなのか?
私は、見た目は女の子。
そして中身は『戦闘艦艇』。
女の子の姿の、
そう言う兵器だった。
地球を、そこに住む人々を守る為、
機械工学もバイオ工学も、果てはオカルトの力すら注ぎ込んで生まれたらしい私達。
人は、私達をこう呼んだ。
────
そして、今目を覚ます私もその一人。
私の名前は、
「はじめまして、提督!
只今着任し──────」
まで、喋った私こと夕立ですが、問題が発生しました。
一応、身長160cmぐらいある私を飲み込めそうなおっきなお口に、
バクン!
………………って食われたんですけどー。
「いやいやいやいや!?!
どんな状況ぉ〜〜〜〜〜!?!?!」
でっかいお口に食べられたので、いやぁ正直クッソ嫌なんですけど……ヌタヌタしてる上の方の粘膜に両手を食い込ませて、ベロンベロンしてくるなんかイボイボウネウネまみれの触手の舌が目の前に!げぇ〜!!マジ気持ち悪いんですけどぉ〜!?!って思いながら足を踏みつけて口を上げやがれこのヤローって踏ん張るわけですよ。ここまで一息!!
「なんだコイツ!?!
いや、その割にはなーんか……!!アイツらこんな口の中ピンク色でしたっけ〜……???オラッ!物理的にも舐めてんじゃねーですよッ!!」
私の身長、プラス腕の長さまで広げてやった所で、でかい口の顎の骨が外れてくれました……ケッ!!骨無しが!!
「あー、手ぇベトベトするぅ〜……なんなんですかこの謎生物〜」
ようやく口の中から解放されて、臭い口臭の残り香ある新鮮な空気を吸えました。ふー。
グワー!!グワー!!!
ふとみれば、このわけ分からんクリーチャー、でかいミミズからまた別の小さいミミズ触手が生える気持ち悪いやつで。
あー、なんかこう年齢制限付きのゲームとかの常連の見た目〜。
ただその割に顎が外れて苦しんでいるようなので、嫌だけど私はそいつの気色悪い尻尾 (オケツ?)を掴みます。
「あなたは運が良いですね〜?
私は優しい〜ので〜……!」
持ち上げて、私の身体ごとブンブン大回転。
砲丸投げ、あるいは、
ジャイアントスウィングだゴラァッッ!?!
「キャッチアンドリリースッッ!!!!」
ブン、と夜空の向こうへぶん投げました。
夜空の星となったデカミミズクリーチャーに、手を合わせて南無阿弥陀仏。最後に中指を立てて供養してOK!
あー、すっきりした!!
こういうこと内心で思うのも差別的で気になりますけど、まぁいいか。
くたばれ下等生物!!
「フン!
いや〜、酷い目に会いましたよ〜、私。
こんなクソ建造されたのって、何年か前のマンハッタン以来か。その前の轟沈した戦場が納得いくだけあってアレも酷かったですねぇ。
はは……にしたって、アレはまぁ、まだマンハッタンって場所だから良かったなーって話でしたよねぇ〜、はははは……
嘘でしょ?
私、建造中危ないおクスリでも打たれたんです???」
さてここで問題です。
私の目の前には何が映っているでしょうか?
1、土星みたいな輪っか月のクソでかい月。
2、燃える城跡の中をうごめくさっきのデカミミズクリーチャーの群れと、なんか悪魔みたいな見た目の化け物。
3、空中に、地面に光る線と幾何学模様と見たことあるようで無い文字で構成された『魔法陣』とそこから炎やら電気を出す変なブレザーみたいな姿の人々……人々??
「………………な〜んでしたっけぇ〜???昔から伝統ある使い古されたweb小説の設定。
そうそう、剣と魔法のファンタジー?
あるいは、そうそう!やろう系ファンタジー!
小説家をやろうっていう、もう何十年か続いてるサイトのヤツだ。
ははは、アレの光景じゃ無いですか、全部!」
答え:全部
輪っかのあるでかい月、多分悪魔か魔物、あと戦う魔法使いの皆様!!
「なんじゃあ、こりゃァァァァッ!?!?!!!」
キシャー!ピギィ!?
後ろから襲いかかってきた悪魔みたいなヤツの頭蓋骨を裏拳で砕いて叫ぶ。
どういう状況なんですかねぇ!?
驚いて力加減ミスっちゃったじゃあないですか!?
死ぬんじゃねぇです!!捕虜なら全部ゲロってから死んでください!!!
は??ここどこ!?
おい悪魔ぁ!!悪魔さーん!!教えてー!!
あ、悪魔さん無事?顔に穴空いてるけど……ダメみたいですね。脈がねぇです。雑魚がよ。
「…………嘘でしょ?
ここ、地球じゃないじゃないですか!!
少なくとも地元の
ヤーロッパとかいうんですっけ!?!
欧州とあのサイトの名前混ぜたヤツ!!!
まぁ2年前のステイツの東海岸より酷い場所なのは確かですけど!!!アレはマジクソ1000%でしたよ!!2回轟沈3回建造された身にもなってみろバーカ!!!
んなぁこた、ど〜〜〜〜〜だっていーんですよ!!!
なんだココは!??
最終決戦の時よりひでぇ場所じゃねーですか!?!」
叫ぶしか無いですわ。口動かしてないと頭も回らない!!
というか、発狂しそう!!
なんで私がここにいるんだ!??
味方は!?私を建造した『提督』に当たる士官はどこだ!??
「どういう状況なんですかぁ!?!
誰か説明してくださいよぉ!!!」
まさか、死んだら転生ってヤツですか?あ、この場合転移が適切ですか??
そうだ、私は自沈してる!!
────最後の記憶。派手な自沈より2年前、海の底の『裂け目』からやってくる私達の敵である異形の敵、
名前を『D.E.E.P.』。ディープって読みますよ?
そいつらと戦って、長く苦しく悲しく怒りしか湧かないあのクソ野郎共との戦争に、我々はついに勝ったんですよ!!!
そして片足片目に色々「無いなった」私は、
満身創痍の大破状態で、それでも生き残ったのです!
勝った後、また人類同士の不毛な争いなんて嫌だった私達生き残りの大破したまま死に損なった私達『イカれた平和主義者』のフリートレスどもは、
第3次クロスロード作戦を実行。
各国の私達の資料全部消して持ち寄って、私達ごとビキニ環礁で、人類の生み出した太陽の力こと水素式核融合爆弾使って吹き飛ばしたんだった!!!
西暦2324年 陽元元号:
7月25日
仲間と共に堂々自沈す!
あばよ、世界!!平和に暮らせよです!!
地獄で次の出番がないこと祈ってますぜベイベー!
「────だったってのに、
なんで私は……またこな訳分からん場所で建造されたんで?」
そこがおかしいんですよ、しかも違う世界って何で?
「いやそもそも死後の転移とか転生なら、普通女神様的サムシングがお迎えに来てなんか言うんじゃないんですかね???」
キシャァッ!!!
「おめーじゃねーです、寝てろブサイク!!!」
あ、喋れたかもしれない悪魔みたいな見た目のやつの首ボキッとへし折っちゃった……あー、反対にボキッと元に戻したら治りま……せんよねー……
「はー……どういうことですかこれ」
ガタン、
「ん?」
どーすっかなー、と思っていたら聞こえてきました物音が。
左の、多分机?だったんじゃないですかね。もうほぼ廃材ですけど。
ただ、机の下のスペースに、頭を抱えた女の子がいたんですよ。目と目が合いました。
格好が、あの魔法使ってる人達みたいな、やだブレザータイプの学生服とか結構オシャレ♪
じゃねーんですよ、怯えてんですよ素手で化け物殺し回ってる女の子をよぉ!!
「あ……オッス、どうもです」
気さくな挨拶がサ◯ヤ人なのはどうなの私??
「……『なんて』?」
あ、陽元語じゃない!!
「あー…………こっちの言語なら通じます?」
「え、あ、うん……」
「どうもはじめまして。
私、敵じゃないですよ!信じて欲しいんですけど、どうすりゃ良いんでしょう?」
「……あ、あなたは……あなたは、私が呼んだ……!」
?
おーい、会話もしかして通じてないパターン??
「呼んだって?ちょっとよく分からないですね?」
「せ、正確には!
私が、あの機械を別次元から呼び出したの!!」
あの機械……?
その子の指先の向こうに視線を……
ワァァァァァァァァァァァ!??!?!
ハァァァァァァァァァァ!?!?????!!?
どういう事態だバカヤロぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!?!?!
「建造ドックじゃねーですかッ!?!
なんで壁に突き刺さって火に炙られてんですか!?!」
言葉通りの状態でレンガの壁に刺さってた長い筒、
割れた液晶とバチバチスパークしてるのは、フリートレス建造のための装置、
全長3mの、建造ドック!!
「いや、まさか!?!」
さっきの女の子!!
見ればもう片方の手には……
魔法の杖じゃなくてぇェェェェェェェッッ!?!?!!?!
ああ、私の国の同盟国、ユニオンステイツアメリア……ステイツ生まれの我々フリートレス運用のための特殊なヤツ……!!
それを……!!
ああああああああああああああああ!?!?!
見事に左の手のひらを液晶にベタづけぇしてんじゃないですかァァァァァァァァッッ!!!!!
指紋も静脈も脈拍もその他諸々バイオ情報スキャン済み必須!!てかそんな感じの表示見えてんですよッッ!!!
………………
もうそう言う事だし諦めておこう。
うん、夕立諦める。
「…………失礼しました、
私はこの少女に敬礼をしなければいけない。
それしか出来ないのだ。
「え、えっと、急に何?」
「ご説明をさせて頂きます。
その手の機械は、アドミライザー。
我々フリートレスの建造、指揮、運用をする権限を持つ、我々フリートレスより上位の人間である者の証明。
今も言いました『提督』と呼ばれる権限を持つ者の証です」
姿勢を正し、改めてこのヤバい事実に向き直る私。
「提督、
これよりあなたの指揮の元、行動します!!
何なりと命令を。
いえ、やっぱりその前に状況の説明をお願いします!!
私、結構混乱しておりますので!!!」
夕立、異世界に着任しました。
今日初めて会った現地の女の子が提督ですが。
とにかく、
***
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