第8話樹海にて〜後編1
「なんでですか?」
手を掴んだ自分に彼女は、冷たい声で答える。
それを言われて目が泳ぐ。これ以上の具体的な理由を考えてなかった。だが、一瞬でその答えは出てきた。
「分からないからだ。」
「分からない?」
「そうだ。キミが、どうして死を望むか分からないからだ。」
「それを知って、どうするつもりですか?」
「考えたいんだ!」
「考える?」
「キミが死以外を選択できる方法を、キミを救う方法を!」
そう、俺のしたいことはこれだ。相手のこととか、気持ちとか偽善とかどうで良いい!言いたきゃ言え!どうせ、小難しい事を考えたってこの状況を悪化させるだけだ。だったら、今思ってることを言うしかねぇだろ!
「この話をどう思うかは君の問題だ。この話を信じるもよし、不審者と思うも良しだ。」
彼女は考えるように顔を反らすら。それから反らした顔を戻した時、彼女は「信じたい」と伝えたいように瞳を覗く。
「わかりました。あなたを信じます。」
よかった。俺のことを信じてくれて。
「じゃあ、戻ろう。」
戻る為に振り返ったとき、木々が枯れて、空は赤く染まる。
「!?」
嫌な予感がする。背筋には凍り、痛みしか感じないような違和感を感じ彼女をみーなに?アイツ
彼女の背後にいたのはピクトグラムの人影のシルエットが複数のねじれたツタを集合させて作ったような、何かがいた。
「?どうしたんですか?」
見えない彼女は首を傾けるが、そんな姿は目の焦点を端にしか合わない。その生物が彼女に手を伸ばし、手を掴もうとする。
「あっ!」
パチンと生物の伸ばした手は地面に落ちる。
「やれやれ、一人で飛び出すなんて、ボク事を考えて貰いたい。」
視点を地面へ逸らすとヤタガラスがしゃがんでいた。
「早く!喋らず彼女を連れてけ!!」
俺はヤタガラスに背を向ける。
大丈夫。あいつならきっと
そう思い彼女の手を引く。
「所で、もし良かったらだけど、このままだとずぶ濡れになるから今自分が泊まっている宿に移動してもいい?」
彼女は、何も言わない。
「あっ、大丈夫。キミと俺の寝る所は別にするから。・・・・君を無茶苦茶にしないから。」
「いいですよ。」
俺達は車に乗る。その時彼女は小さくボソッ言ったつもりだろうが、俺の耳に聞こえた言葉は
「別に、無茶苦茶にすれば良いのに。」
そのか細い一言が宿に着くまで耳から離れなかった。
☆☆☆
宿の扉を開ける。すると、あいも変わらずバタバタ音を鳴らさながら女将が「おかえりなさいませ。」と来る。俺の顔を見るやいなや、隣の女性を見て目を見開き口を開いて困惑する。
「すみません。この子を泊めでもいいですか?お金は、俺が後で払うんで。」
苦笑い気味に俺が答えると女将は彼女の顔を凝視する。理由を察した女将は快く俺達を入れてくれる。
「いいですよ。ささっ、一階の居間にお座りください。後、お姉さんは濡れてますのでタオルをタダで用意させて貰いますね。」
女将が優しく差し出したタオルを一礼して彼女は受け取る。
「では、居間でおくつろぎ下さい。」
俺達が居間に向かう前に女将が耳元で告げる。
「彼女を、居間に座らせて、テレビを付けましたら居間から出てもらえますか?」
俺は無言で頷き、居間に向かう。
「少し、ここでテレビでも観る?」
「良いです、観たくないですので。」
ピンクの髪を垂らし、うつむきながら彼女はぼそっと答える。
「了解。少しトイレに行かせてもらうね。」
トイレに行くふりをして居間から出る。すると、居間の数メートル前に女将が立っていた。
「それで、話は何ですか?」
「大したことではありません。彼女の宿泊代はタダで良いですよって言いたかったんですよ。」
「良いんですか?」
俺の問に女将はニチャリと笑う。
「私は、死にそうな人を連れて来る人にはそういう対応をしてます。ですので、お気になさらないでください。」
そう言って女将は台所へと向かうのだった。
☆☆☆☆
「さてと。」
俺は、ふぅ~と気合を入れ直し居間の戸を開ける。俯いてた彼女と視点が合う。あいも変わらずに目の光はなく、こちらをどんな想いで見てるのか読み取れない。
「ええっと、今更だけど・・・・自己紹介するね。俺の名前はひろき、木野ひろき。よろしくね。」
「私は、朝比奈 織莉子です。」
「そっか。よろしくね。朝比奈さん。」
そこで、一旦会話が途切れ、台所から何かを切る音がする。おい、ここで会話が途切れるってなんなんだよ。これで終わって良いのか?陰キャみたいに黙るよりかもっと会話できることあるだろ?『いい天気ですね?』とか、『好きな食べ物は?』とかなんとか言えるだろ?なんでそんなものが言葉として、出てこない!?
「あの」
「はい。」
「木野さんは、何のお仕事をしてるのですか?」
「え?」
彼女の唐突な質問に言葉が詰まる。
「今は、何もしてない。日本一周をしてるので。」
「日本一周・・・・何処から始めたのですか?」
さっきから声のトーンは変わらない。抑揚なく、ボソッと呟く彼女。そんな彼女に対して俺は、
「愛知から。」
「大変でしたか?」
「まぁ、でも、それ以上に楽しいかな。」
彼女は、少し驚いたように目を開く。
「楽しい、ですか?」
「まぁ、昔に比べたら楽しいよ。」
「昔?」
「働いてた頃。あの頃に比べたら、金銭関係で頭を抱えることは多いけど、それだけかな。」
「良いですね。そう言えて。」
彼女は何処か苦しそうに、呟く。
「朝比奈さんは、何をしてるの?」
「私は・・・・・アイドルをやってます。」
「アイドル!?」
俺は、目の前に会わないだろうと思ってた人が現れて、立ち上がる。いや、あり得ないでしょ?自殺しようとして助けた人がアイドルなんて、それは、立ち上がるのも無理ないじゃん。
「はい。そんなに驚くことですか?」
「まぁ・・・・うん。今までにアイドルの友人は居なかったからさ。真新しい発見だよ。」
少し驚いている自分をなんとか理性で静止し、彼女へ気さくに対応する。
「そうですか。」
そうつぶやく彼女は何処か嬉しそうな顔を浮かべてた。それは、知ってもらえたことへの笑みなのか、別の意味の笑みなのか。ても、その笑みは可愛い人への『かわいい』とは違い、美しく、今でも枯れてしまいそうな何か人を魅了する儚さを表現してるような笑みだった。
「じゃあ、自殺を選んだ理由ってアイドル活動が嫌になったから?」
俺は、笑みの理由を探りたくなった。あんな笑みを浮かべる人間が、アイドルの話で見せた笑みが彼女を、苦しめてる原因なのか、それとも、違うのか。だが、その答えは
「違います!!私は、アイドル活動が、みんなと入れたあの時が嫌いではないんです!」
その目はさっきまで意気消沈してためとは違い、闘志に燃え、闇夜に燃やす焚き火のようにほんのり、温もりを覚えさせるような水色の、いいや、透き通るクリスタルのような瞳で、目を捉える。
「なら、なおさら理解できないなぁ。どうして、死ぬような真似を?」
彼女はゆっくり視線を下へそらし、重く口を開ける。
「私が、みんなの所に要らないから、申し訳ないからです。」
「要らない?みんな?申し訳ない?」
「はい。私たちは、3人でアイドルを行っています。このアイドルグループはしってますか?」
彼女は、自分達のグループの写真で魅せる。
「チームAxZ・・・・・ごめん。あんまりアイドルなんて詳しくないんだ。」
俺の中のアイドルは韓流とか◯◯48系のやつで止まってて正直他のアイドルは知らない。強いてなら日曜の早い時間とかでやってるアニメで歌ってるのを「ふ〜ん」程度でしか聴かない。くそ、こうなるなら知っておくべきだった。
「まぁ、そうですよね。知らない、ですよね。」
朝比奈さんは顔が曇り始めだす・・・・あっ、ヤバいヤツ。
「まぁ、まぁ!この記事見るとスタジアムとか、ドームでもライブやってるんだよね?めちゃくちゃすごいじゃん!!」
早口で答えると彼女の機嫌は直る。自殺しようとしてる人だから、下手に神経を逆撫ですると返って加速させるから、気をつけないとな。
「それで、他の二人は?まさか、喧嘩して『解散しましょう!!』的なよくアイドルアニメとか漫画である展開になった感じ?」
「いえ、そこまでピリピリした感じではないんです。ただ、みんなと一緒にいることが、ファンの人の声援が申し訳なく思えたんです。」
「申し訳なく思えた?」
彼女はコクリと頷く。
「咲ちゃんと水葉ちゃんとアイドルをやってるんです。かれこれ、高校生の時からかな。」
「え?今何歳」
「24です。」
「まじ!?俺もだよ!!」
「ホントですか!?24歳で日本一周ですか!?」
「うん。」
そこで一旦会話が途切れ咳払いを彼女はする。
「戻しますね。高校生の時から今日まで一緒に三人で頑張ってきました。でも、最近ダンスのハードルも上がってきたんです。」
「歳的な衰え?」
「違いますよ。東京ドームで踊るために、難しいダンスを覚えなければ、メディアにも取り上げてもらえませんし、私たちの人気にも繋がりません。ほら、テレビとかだとクイズ番組とか意外にも運動絡みの番組でも観ませんか?」
言われてみると、最近だとテレビは旅先の飲み屋であれば見るが、それでも、運動とかダンス関係も見るな。
「よく見るね。」
「私たちは新しいダンスとか、目を引くことをしなければいけません。ましては、クイズ番組だけとかだと旬はすぐ過ぎます。」
「ダンスをするのは世間の目を長く引く為・・・・そして、そのダンスが難しくて、習得するのに朝比奈さんだけ時間が掛かる。といったところ?」
「はい。他のみんなは表向きでは気にしてないと言ってくれてます。だけど、陰で何を言っているのか怖くて・・・・・ファンの人からも「同じものの繰り返し」とか、「飽きた」とか、私が咲ちゃんや水葉ちゃんよりも習得が遅いせいで、新しい技に挑めない。」
「さっき言ってた旬の理屈からすれば新しい技を披露できなければ旬も早く過ぎる。にわかだけどアイドルは歌って踊るのが華みたいなところもあるからね。」
「それで、私は段々申し訳なく思えて、居なくなればいいって。」
「自分がこの世からいなくなればミスの全てが清算できる。それに、アイドルしか選択がないから死ぬしかないって感じかな?」
彼女は「なんでそこまで分かるんですか?」と言いたいように瞳を凝視し、息を少し飲んでいた。
「俺もちゃんと働いてた頃に君と同じ思いをしてたからさ。1から100まで同じかわからないけど、似た思いはしたよ。」
「ひろきさんもですか?」
「まぁね。君はちゃんと言われたことはメモしてる?」
「はい。」
「メモ帳を忘れることは?」
「ありません。」
「レッスンのトレーナーとかに怒鳴られることは?」
「無いです。」
「みんなに詰められることは?」
「むしろ心配してくれます。」
「なら俺よりマシだよ。俺の方が今思うとひどかったからさ。」
俺は、自虐的な笑みを浮かべ彼女に馬鹿にするように話す。
「あの、もしよければ具体的に話してもらっても大丈夫ですか?」
俺は、少し考えてから彼女に視点を戻す。
「良いよ。少し長い昔話をさせてもらうね。」
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