魔女の夢

バットエンド厨

第1話

伊地知日向はその日も好きだった幼馴染の夢を見た。


白い部屋でベットに座って楽しく遊んだ幼い記憶。暇だとつぶやく彼女を喜ばせるために物語を作って笑わせたりもした。

時には自慢話をしたりもした。なんだかんだいって楽しい時間だった。


だがそんな楽しい時間は長くは続かない。その日、彼女は死に僕は夢から覚める。



 視界がぼやけて、その後、教室からのクスクスと小さな笑い声が聞きとる。やっば完全に寝てた。これが五月病か。


「おはよう、伊地知。私の授業で寝るなんていい度胸だな!」

 そういって鬼の形相で笑うながらこちらを睨んでくる現代文の教諭、通称『鬼のキューピット』を見て、僕は自分の過ちに気づき心身が震える。


 やばい、黒板にはなんて書かれてる。

 先ほどまでの眠気は一瞬で飛び、いち早くこれからやらされることを確認する。


1.羅生門の感想文

2.ラブレター作成 [差出人:好きな人or部活の誰か]○

3.前の席の人に起こしてもらう


 うわー、やっぱりだ。

 この授業で寝て、選択肢2以外が選ばれるなんて見たことなかった。そりゃわかりきったことだ。こんな面白いことにクラスの連中が調子に乗らないわけがない。やばい今から憂鬱だ。


「で!伊地知、どっちがいい?」

「先生、それ聞きます?…僕好きな人いないので部活で」

 僕の選択にちょっと残念そうなクラス一同。前回、眠った違うクラスの大林はラブレターを通り越して、文化祭だったという事もあり、公開告白をしていたのでその影響だろう。


「ヒュー、先生。伊地知君の部活仲間は現在、同じ一年の美和詩織さんしかいませええん」

 場の雰囲気が穏やかになりムードが静まり返った。その時、クラスの最初の犠牲者、初見正光(はつみ まさみつ)が波紋を生む発言をしてしまった。

 クラス中がコソコソと確認をとるように小言で話す。


 こいつまじで余計な事言いやがって、僕が睨むと正光の野郎は口を塞ぎながらニヤニヤとこちらを笑っていた。


「はい、静かにね。それと伊地知君は今後寝ない様にそれじゃあ続きをするわよ」

 まるで何事もなかったかのように授業の続きをする教諭。そして先ほどまで騒ぎようが嘘のように静まり返りクラス一同。


 これがこの授業のルールだ。授業中に眠った生徒は三択の罰をクラス内投票で行い判決。その後、眠る生徒又は騒ぐ生徒が出なければ眠った生徒は罰を行わなければならない。




◆◆


 結局その後、予想通り眠る人はおらず、休憩時間はそんなんじゃないと言っても永遠に揶揄われ、授業、掃除が終わり部活動に行く前にも永遠にラブレターの進捗状況を聞かれては揶揄われた。


 図書室…入りにくいな。でも、まぁ美和さんが噂を知らない事を信じよう。僕は思い切ってドアを開ける。


 ガラガラガラ


「あら、誰かと思ったら今日私にラブレターをくれる予定の和也君じゃない。どうしたのクリスマスの日は好きな子がいるって聞いたけど。もしかして私の聞き間違いだったかしら」

 冗談をいってるように聞こえるが違う。あの顔を見ればわかる。いつも表情筋が死んでるんじゃないかというくらい表情を動かさないのに今日はいつも以上に動かない明らかに怒っている。しかも読んでる小説が明らかに…


 廊下で立っているのも邪魔なので黙って図書室に入って、いつも通り美和さんの前の席に座る。


 終わったな。はぁ、もう美和さん怒ってるし今更怒る内容が一つや二つ増えたところで変わらないか。

 床に置いた鞄から四つ折りにした明らかに手で千切ったとわかるルーズリーフを渡す。


「なにこれ」

「ラブレター」

 まるで信じられないものを見るかのような眼でこちらを見る。

 

 これはあれだ。怒りを通りこして呆れるという奴だ。フィクションだけの物かと思ったが現実でもこんなことがあるんだなぁ。

 僕はこれから新しく作られる一生思い出に残りそうな出来事から逃げるかのようにくだらない考えにふけていた。


「もういいわ」

 あ、読むのね。てっきり読む気も失せたという意味かと思ったのに読むんだ。しかも結構真剣に読んでるし…



詩織へ


 忘れてしまったと思いますが雪の降るその日、君と出会った事は今でも僕は鮮明に覚えています。

 雪の降る外で妖精のように幻想的で独りぼっちだった君、けど道行く人が貴方の事を見てました。勿論僕もその一人です。ただ他の人と違ったことは僕は君に話しかけたことです。


 それ以降、僕が暇そうな君のもとへ押しかける様になりました。本を読んだり、一緒に勉強するなんてこともありました。とても楽しい時間でした。もし君が僕の事を忘れても僕は君への気持ちは変わりません。だから最後に一言、言わせてください。


今まで本当にありがとう。


和也より



「これじゃラブレターじゅなくて感謝状ね。後、貴方と出会った日の事なら覚えてるわ。数カ月前のことだもの」

 そう言って、ルーズリーフをもとのように四つ折りにし、自身のカバンの中にしまう。


「あの読み終わったなら返し…」

「無理、今日私が貴方のせいでどれだけ揶揄われたか。これでお相子にしてあげるから」

 そういって彼女は先ほど読んでいた。本の続きを読み返した。

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魔女の夢 バットエンド厨 @bonjin_1729

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