寝取られ吸血鬼と氷の美少女 〜推しと浮気している幼馴染がエサにしか見えない〜

くじけ

第1話 俺の彼女は幼馴染


『私、大きくなったら悠月ゆづきとケッコンするっ!』


『僕も結愛ゆあとケッコンする!』


『じゃあ約束ね! 指切りげーんまーんうーそついーたら......』



 あの頃は純粋だった。

 でも成長すれば分かってくる、約束というのはいつも絶対ではないんだと━━。



*      *      *



 現在高校一年生の俺、佐田悠月さたゆづきはどこにでもいる冴えない顔の高校生。

 だがそんな俺にもたった1人の大切な彼女が居る━━。



「おはよーゆず。早く学校行こっ」


「ああ、じゃあ行こっか結愛ゆあ



 俺、《佐田悠月さたゆづき》と手を繋いで隣を歩いている黒髪の美少女、《野上結愛のがみゆあ》は幼稚園からの幼馴染で佐田家と野上家は家が隣同士だ。



「結愛、朝ごはんはちゃんと食べたか?」


「うん。朝はスクランブルエッグとトースト焼いて食べたよ」


「そっか、朝は家に誰も居ないから一人で朝食作ってるんだもんなぁ......結愛は偉いよ」


「そんなことないよ。料理を色々作れるようになればゆずと結婚した時存分に振る舞えるしさ」


「ありがとう、なんか照れるなソレ。俺も今度結愛の為に朝料理作るからさ」



 結愛の両親は昔から共働きで忙しく、結愛1人で家にいることが多かったのでよくウチに呼んで夕飯を一緒に食べたり、二人で俺の部屋で夜遅くまでゲームをしたり遊んでいた。


 そんな中でも印象に残っている思い出は、俺達がまだ小学生高学年の頃ウチで遅くまで一緒にゲームをしていた時に結愛のお母さんが仕事から帰ってきて俺の母親に謝りながら駄々をこねる結愛を無理やり引っ張って帰った事があった。

 その時の結愛は何故かいつもと違って聞き分け良い子ではなく、『大好きなゆずともっと遊びたい!』と言いながらずっと泣きじゃくってなかなか帰らず結愛のお母さんも流石に困惑していた。


 でも......その時の『大好き』と言ってくれた結愛の言葉で、当時子供だった俺の心の中の結愛に対する気持ちがハッキリしたんだ━━。


 そこからの俺は思春期も重なって結愛の事を考えるとだんだんと恥ずかしくなり、中学に上がって少し経った頃には俺の部屋に結愛を呼ぶことが少なくなっていった。



 だが中学3年の夏、それを察した結愛がとうとう俺の部屋に乗り込んで来た━━。



「ねぇ......前から思ってたけど私のこと避けてるよね?」



 結愛の真剣な顔に俺は思わず目を逸らしながらもなんとか口を開く━━。



「いや......そんな事ないよ」


「嘘だ! ゆずって嘘つく時必ず右下に視線向けるの分かってるんだから。私のこと嫌いになった? もし嫌なことがあるならハッキリ言ってほしいよ......」



 パッチリとした二重瞼を少し潤ませながら今にも泣きそうな顔を俺に向ける結愛の表情に俺は思わず息が詰まる。

 

 嫌なところなんて一つもない......むしろその逆だ。

 中学でも噂になるくらいのルックスが良い上、運動もできて人気者の結愛は誰からも愛される存在......正直冴えないこの俺には勿体無いくらいの幼馴染なんだ。



「嫌いなところなんて一つも......」


「じゃあなんで......?」


「それは......」



 でも......そんな劣等感と同時に幼い頃から結愛と長く過ごした時間、そしてそんな彼女を思う気持ちは誰にも負けたくないという思いも確かに俺の中にある。

 正直、今まで俺は幼馴染という関係が崩れるのが怖いって思ってた......でも本当はそれに甘んじて結愛がいつでも俺のそばに居てくれるっていう根拠のない妙な自信があっただけの情けない話だ。


 けどもう結愛の事でいつまでも自分を誤魔化したくない━━。

 


「結愛......聞いてくれ」


「なにっ......?」



 俺の声に少しピクッとなる結愛。

 そんな何気ない挙動の一つ一つが愛おしく思える......。



「俺は結愛の事を嫌いで避けていたんじゃない、これは本当だ......」



 俺は一旦呼吸を整え、緊張で少し乾いた口を再び開く━━。



「今までずっと嫌われないように隠してきたけどもうやめるよ。俺......







 結愛の事がずっと昔から好きだったんだ━━」




「えっ......」



 俺の精一杯の告白に結愛は大きい目をさらに見開く。

 俺は告白した緊張と振られるんじゃないかという恐怖で少し体が震えて息が上手くできなくなる......。

 今の俺には結愛の『えっ』というリアクションがマイナスなイメージしか思い浮かばなかったが━━。





「言うの......遅かったよぉ......」



 結愛は涙を浮かべながら俺をギュッと抱きしめた。



「それって......」


「ばかぁ......。私だってゆずの事大好きだよ......幼稚園の頃からずーーーっと!」


「ホント......?」


「嘘つくわけないよ......! やっと言ってくれた......っ......! 私、ゆずに嫌われた訳じゃなかったんだ......! 良かったぁ......」



 結愛は肩を震わせながら少しうわずんだ声で答える。


 結愛......泣いてるのか......。



「俺が結愛の事を嫌う訳ないだろ? 今まで誤解させてごめんな......」


「ううん、大丈夫......。今......嬉しくて」


「そっか......。結愛......改めて言わせてくれ、俺と付き合ってほしい。結愛を必ず幸せにする」


「ありがとうゆず......。こんな私だけどこれからもよろしくお願いします━━」



 俺は結愛を力一杯抱きしめた。

 華奢だけど柔らかさを感じるその体と、サラサラの長い黒髪からほのかに鼻をくすぐる結愛の香りがより一層彼女を強く抱きしめさせる。



「ゆず......浮気したら許さないからね?」


「そんなの当たり前だろ? 絶対に俺は裏切らないよ」



 今思い返せばこの時が俺の人生で一番幸せな瞬間だったのかもしれない━━。

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