第5話 Wデートって何するの?
胡桃は、雫の文面を見て自分の頭浮かんだ言葉を打ち込んだ。指先が打ち込む言葉が、上手く伝わるようにと祈って。
「……送信!」
「ん? えっ、めっちゃ良い」
その雫の反応を見て、胡桃はふふんっと上機嫌になる。返事については、心臓が暴れ出しそうなほどドキドキをしている。それに、言いたいことをまとめただけ。ただそれだけ。
――私の友達が、
****
片付けをしつつ、スマホが鳴るのをソワソワとした気分で待つ。それは、雫も同様なようだ。
ブーッと震えるたび、肩を振るわせてすぐに画面をタップして確認する。
これを毎回繰り返しつつも、ちゃんと手は片付けを進めていく。そして、何度目かの通知音で待ちに待った返事がきたようだ。
「胡桃!」
明るい顔と声で雫は、胡桃のことを呼んだ。少し離れたところにいた胡桃を、ものすごいスピードで手招きする。
その顔と声で、なんとなくを察する。胡桃は、パタパタと雫の方に駆け寄った。
「返事、なんて?」
「いいよって」
ほわほわと赤くした頬をして、雫は自分のスマホ画面を見つめる。胡桃は、その雫の顔をみて微笑んだ。その小さな笑い声に、雫は少しムッとさせる。
「幸せだぁ」
「えっ? 胡桃が?」
「うん。雫が幸せなのは、私も幸せ」
雫は、そんな胡桃のことをギュッと抱きしめた。そして、嬉しそうな声を上げる。
「〜〜! 私もだよ!」
そんなことをしてるうちに、胡桃のスマホが音を鳴らす。ふたりは、その音にパッと離れて胡桃のスマホ画面を覗く。
「見せてっ」
ドキドキとした胡桃よりも、雫の方が声が弾んで楽しそうだ。震える指で、パスコードを解除して開く。
――もちろん! 今日? どこにしよう?
短文が並んでいて、男の子のメッセージらしい。胡桃は、スマホを持ったまま固まっている。
雫は、胡桃の肩をトントンと叩いた。その衝撃に、ハッとさせて瞬きをした。
「今日……?」
「善は急げだよ!」
ゆっくりとした動きで、胡桃の顔が雫に向いた。そして口をぱくぱくと動かして声にならない言葉を話す。
「ん?」
「今日??」
徐々に、白い胡桃の頬が染まっていく。先ほどまで現実味がなかったものが、一気に手の中に落ちたようだ。何度かそのやり取りをして、胡桃が再度スマホに視線を落とす。
「ど、どうしよう? ……心の準備がぁ」
胡桃はスマホを胸に当てて、目を瞑って上を向いた。上を向いたまま、赤い顔を緩く振った。
そして、大きく肩で息を吸った。
「はっ! 善は急げ、だね!」
「うんうん!」
そのひと動作で、切り替えたようだ。胡桃は、文字打ちをし始める。向こうは休憩時間なようで、胡桃と悠とのやりとりが続く。
――私たちも、今日だいじょうぶ!
――了解! じゃあ、迎えに行くね!
ぽんぽんとやりとりをして、迎えにきてもらう事になった。もちろん、そのやり取りを雫も見守っていた。
どこか雫は、他人事のようにしている。
「良かったね!」
「いや、雫もだよ?」
胡桃は、そんな雫に釘を刺した。雫は、コクコクと頷いた。
****
放課後、さっと胡桃と雫はメイク直しをしていた。優しい色味のリップを塗り直し、パウダーをふる。
ティッシュで、油分をオフした。
ばっちりとはいかなくとも、今できる最善策だ。
「よし!」
ドキドキとしながら、胡桃と雫は外に出た。すうっと大きく深呼吸をとって、ふたりを待つ。ふたりから、少しピリッとした空気感を感じる。
「……胡桃」
「うん、なぁに」
雫は隣に並ぶ胡桃にしか聞こえない声で、こそっと伝える。こちらに向かって、手を振ってくる
雫がごくりと喉を鳴らす。
「……緊張がっ」
「それは、私もっ」
そう言いつつ、雫も胡桃も柔らかな笑みを浮かべている。そして、ふわふわと手を振り返した。
誠の明るい声が聞こえてきた。
「ごめんね、待った?」
「ううん! あのいつものところにする?」
「あ、それがいいね」
誠と雫は、こそあど言葉だけで伝わっているようだ。2人で意気投合をして、歩き始めてしまう。
私の目の前に悠が、立った。ふわりと香るフローラル系のかおりを感じる。
「連絡、ありがとう。……ふたり行っちゃうから、行こうか」
「うん! 放課後が、楽しみだった!」
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