第38話 詩と日常の彩り
千草と香織が詩のクラブに参加するようになって数週間が経ち、二人は大学生活にさらに充実感を感じていた。詩を書くことで仲間たちと気持ちを共有し合い、詩を通じて自分自身と向き合う時間が、二人の心に彩りを与えていた。
ある日の放課後、千草と香織は大学のキャンパスを歩きながら、詩のクラブでの活動について話していた。
「詩のクラブに入ってから、なんだか毎日の出来事が詩に見えるようになってきたよ」
香織が少し笑いながら言った。
「わかる!日常の何気ない出来事も、詩の一部になってる気がするよね」
千草も頷き、嬉しそうに答えた。
「この前、夕焼けを見ながらふと詩を書きたくなったの。日が沈む様子がまるで一つの物語みたいで、言葉にしないと消えてしまいそうな気がして…」
千草の言葉に香織はうなずきながら、「私もそういう瞬間が増えたよ。今までただ通り過ぎてた風景や人の表情に、新しい発見がある気がするんだ」と続けた。
詩を書くことが、二人にとって日常の一部になっていた。些細な瞬間が心を動かし、その気持ちを詩として残しておきたくなる。その感覚が二人の大学生活を豊かにしていた。
その日の夜、千草は家に帰り、ノートを開いて一つの詩を書いた。詩のクラブでの活動や、日常で感じる瞬間を思い浮かべながら、心の中に湧き上がる気持ちを言葉にしていった。
「日常の詩」
足元に広がる小さな花
誰にも気づかれずに
ひっそりと咲いている
夕焼けが空を染める時
一日の終わりが、静かに訪れる
風が頬を撫でていくたびに
私の心は少しずつ色を変える
何気ない日常が、いつしか詩になる
その詩は私だけのもの
けれど、誰かと共有できる日を夢見ている
千草が書き終えると、詩を読み返しながら、日常がいかに豊かで貴重なものであるかを改めて感じた。この詩には、彼女が日々感じている感情が柔らかく込められていた。
次の日、千草はこの詩を詩のクラブで発表しようと決めた。そして、クラブの集まりで詩を読み上げると、メンバーたちは静かにその詩の世界に耳を傾け、彼女の感じている日常の美しさに共感した。
「千草さんの詩、すごく素敵だね。何気ない日常の瞬間が詩に昇華されている感じがするよ」
佐藤が感心しながら感想を述べた。
「そうだね。普段見過ごしてしまうようなことにも、こんなに詩的な魅力があるなんて気づかされたよ」
他のメンバーも次々に共感を示した。
千草は少し照れながらも、自分の詩が誰かの心に響いたことに嬉しさを感じた。
その後、香織も自分の詩を発表した。彼女が書いた詩は、日常の何気ない出会いや風景を切り取ったものだった。
「すれ違い」
すれ違う人々の中に
時々、ふと目が合う瞬間がある
何も話さず、ただその瞬間だけ
お互いの存在を感じる
その一瞬が、私の心に小さな波紋を残す
やがて、その波紋は消えていくけれど
私の中に、何かが少しだけ変わっている
日常の中で出会う、ほんの一瞬の奇跡
それが私を豊かにしてくれる
香織の詩もまた、日常に潜む美しさを捉えたものだった。彼女が感じたすれ違いの中の一瞬の出会い、そのかすかな出来事が彼女の心に与えた影響を見事に表現していた。
「香織さんの詩も素敵だね。一瞬の出会いが心に残る感覚、よくわかるな」
千草は、香織の詩に共感しながら感想を述べた。
「ありがとう!毎日忙しく過ぎていく中でも、ふとした瞬間に何かが心に残ることってあるよね。それが詩になると、なんだかとても特別なものに感じるんだ」
香織も微笑んで答えた。
詩のクラブでの活動を通じて、千草と香織は日常の中で感じる小さな美しさや、人とのかすかな繋がりにさらに敏感になっていった。それらの瞬間が詩となり、詩を共有することで他者の心にも影響を与え合う。そんな日々が二人にとって大切なものになっていた。
詩を書くことが、ただの趣味ではなく、心の中にある感情を紡ぎ、日常を彩るものとして根付いていた。詩がもたらす豊かさを感じながら、二人はこれからも詩を書き続ける決意を新たにした。
その日の帰り道、千草と香織は夕焼け空の下でふと立ち止まり、目の前に広がる景色に見とれていた。
「ねえ、香織ちゃん。この夕焼けも詩みたいだね」
千草がぽつりと呟くと、香織も微笑みながら同意した。
「うん、どんな風に言葉にしたらいいかなって、つい考えちゃうよね。でも、こうして感じるままに心に残すのも、詩の一つかもしれないね」
千草は、詩を書くことが心の中にある感情を映し出し、日常をさらに深く味わうための手段だと感じていた。詩が彼女たちの生活に息づいていることに、深い喜びを覚えた。
「これからも、一緒に詩を書き続けようね」
千草が優しく言うと、香織も頷きながら「うん、ずっと一緒にね」と答えた。
詩が二人の心を繋げ、日常を彩り、未来へと導く力を持っていることを信じながら、彼女たちは夕焼けの中を歩き続けた。
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