第4話 伝説のたこ焼き師
翔太は、紙に書かれた「次の町で待て」という言葉を信じ、旅を続けていた。彼が向かったのは、少し離れた静かな港町だった。ここは昔ながらの風情が残る場所で、観光客もほとんど訪れない。町を歩きながら、翔太は「微細たこ焼き」の謎がこの町に何か関係しているのかと考え込んでいた。
町に着いた翔太は、まずは人に聞き込みをすることにした。地元の人たちに「微細たこ焼き」について尋ねてみたが、誰もそんなものは聞いたことがないという返事ばかりだった。もしかして、また振り出しに戻ってしまったのか――そう思い始めたその時、ふと町の外れに古びた一軒の店が目に入った。
看板には、かすれてほとんど読めない文字で「たこ焼き」と書かれている。翔太は引き寄せられるように、その店に入った。
店内は驚くほど静かで、古びた家具が所狭しと並んでいた。カウンターの向こう側には、年配の男性が一人、静かに座っていた。その風貌は、まるで長年たこ焼きを焼き続けてきた職人のようだった。翔太は思い切って話しかけた。
「すみません、ここで微細たこ焼きのことを知っている人がいると聞いたんですが…」
すると、その男性は静かに顔を上げ、じっと翔太を見つめた。その視線には、何かを見抜くような鋭さがあった。しばらく沈黙が続いたが、やがて男は重い口を開いた。
「微細たこ焼きか…。それを知っているのは、もうほとんどいないだろう。だが、確かに存在した。いや、今も存在するのかもしれん。」
「本当にあるんですか?」翔太は思わず身を乗り出した。
男はゆっくりと頷きながら、過去の話を語り始めた。
「かつて、伝説のたこ焼き師がいた。その男は、普通のたこ焼きでは飽き足らず、限界まで小さなたこ焼きを作ることに挑戦した。彼はたこ焼きという食べ物を超え、まるで芸術品のような存在にしようとしたのだ。その結果が、アリよりも小さなたこ焼き、つまり『微細たこ焼き』だった。」
「伝説のたこ焼き師…?」翔太は興奮しつつも、どこか現実離れした話に疑念を抱いた。
「そうだ。だが、その微細たこ焼きはただの食べ物じゃなかった。食べた者に不思議な影響を与えたという話もある。それが何かは誰も知らない。だが、確かなのは、そのたこ焼きを作る技術はもう失われたということだ。」
「それじゃあ、もう手に入らないってことですか?」翔太の胸に不安が募る。
男は首を振った。「いや、全てが失われたわけじゃない。まだその技術を受け継いでいる者がいる。だが、見つけるのは簡単じゃないだろう。彼は自分の存在を隠している。『最後のたこ焼き師』としてな。」
翔太は息を飲んだ。最後のたこ焼き師――その言葉が頭に深く刻み込まれた。
「その人に会えば、微細たこ焼きを作ってもらえるかもしれないんですね?」
男は微笑を浮かべ、謎めいた言葉を返した。「さあな…。ただ、彼を探すのはお前の旅の目的に相応しい挑戦だろう。だが、覚えておけ。微細たこ焼きは、ただのたこ焼きじゃない。それを手にした時、お前の人生は変わるかもしれん。」
その言葉に深い意味があることを感じながらも、翔太は礼を言い店を後にした。彼の頭の中には、「最後のたこ焼き師」を探し出し、その微細たこ焼きにたどり着くという新たな目的が芽生えていた。
次の一歩はどこへ進むべきか、翔太の心は揺れていたが、旅を続ける決意は固かった。微細たこ焼きの秘密が明らかになる日が、少しずつ近づいていることを感じながら、翔太は静かに町を後にした。
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