自称ロマンスの神様がどう見ても武者修行中の空手家なんだけど、藁にもすがりたい気分だから一応お願いだけしてみた。

黒巻雷鳴

♯1

 それは、3月が始まったばかりの頃でした。

 昼下がりの交差点はまだ寒くて、ときたま吹く風にコートを羽織る人も身を震わせる、そんな季節。

 春はまだ遠い──それなのに、袖がボロボロにやぶけて両腕が露出している白い道着姿の大男が1人、何食わぬ顔で信号待ちをしています。

 こいつ……絶対やべぇ奴に違いない。

 あたしは信号機が青になるのを待ちながら、自分の行き先だけに神経を集中させました。こういった輩は、視線を合わせたら最後です。

 あっ、こっち見た。

 押し寄せる人混みのなか、野郎はまばたきもせずにこちらへ向かって来やがります。

 よし、逃げよう。

 行き先とは真逆の方角へきびすを返した直後、ゴツい手に片腕を掴まれてしまいました。


「ひっ?! ヒィィィィィィィィッ!!」

「貴様……恋をしているな?」


 それが、〝自称ロマンスの神様〟とのファースト・コンタクトでした。




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