役のないキミが好き

藤原くう

第1話

 あたしには、ヒトに貼られているラベルが視える。


 首筋に貼ってあるシップを想像してほしい。


 あたしに視えてるのはアレそっくり。


 それには文字が書かれてる。


 カースト上位の子には『悪役令嬢』、そんな彼女にお世辞を言ってる子は『コバンザメ』で、そんな二人にいじめられている子は『ぼっち』ってな感じ。


 視えるようになって、すぐピンときた。


 TRPGとかMMOでいう、役割ロールってやつなんだよ。ほら、勇者とか白魔導士しろまどうしとか踊り子とか。そんなもの貼ってる人は見たことがないんだけどね。


 あたしは今、『貼られてる』って言った。シップみたいだって。


 だからね、例えば――。


 悪役令嬢ちゃんのグループへと近づいてく。


 ボッチちゃんは悪役令嬢ちゃんにカツアゲされてた。この昨今そんなことがまかり通るのかって思うかもだけれど、神秘のベールに包まれたお嬢さま高校だとフツーだと思う。JKだって鬱憤うっぷんがたまるんだ……お金持ちだとなおさら。


 ま、そういうことだから、悪役令嬢ちゃんとコバンザメちゃんは、略奪りゃくだつした財布からお札を抜きとってて、ボッチちゃんはグスグス泣いてる。


 だれもあたしのことなんて気にしてない。


 決まりきった行動しかしない彼女たちに、あたしは近づく。


 生暖かいラベルをはがして、ボッチちゃんと悪役令嬢ちゃんのものを入れ替える。


 そしたら、どうなるか。


 今まで泣いていたボッチちゃんが立ちあがり、悪役令嬢ちゃんをひっぱたく。


「なに、私の財布をパクってんのよ!」


 腹から出る声は、元ボッチちゃんのものとは考えられないくらいしっかりしてる。


 ぽかりぽかり。


 元ボッチちゃんは、元悪役令嬢ちゃんを殴り、コバンザメちゃんもそれに続く。


「…………」


 あたしはそれを見ていた。


 役者が変わっただけの同じ演劇ショーを。


 委員長のロールを演じている委員長ちゃんがやってくるまで、ずっと。






 やっとのことで委員長ちゃんを振りきり、学校を後にする。


 たぶん、一部始終を知りたいんだろうけどさ、そんなの本人たちから聞けばいいことじゃん。


 それとも傍観ぼうかんしてたあたしをしかるつもりなのかなあ。


「めんどくさ……」


 あくびをしながら、あたしは校門を抜ける。


 うちのガッコは、街の中にある。お嬢さま学校ということもあって、まあそれなりに人気なんじゃない? 倍率は2を超えてるし、歩いてるだけで声をかけられるくらいだし。


 憧れの視線を、ねちっこい視線を受けるたびにあたしは思うんだよ。


 いじめが横行してるような場所だぞ、こんなとこに憧れんなよってね。いじめだけじゃなくて、せんせーといかがわしいことをしてるやつらだっているわけだし。あ、これは委員長ちゃんには内緒ね。


 他人の役割をとっかえひっかえしてるあたしが言えたもんじゃないけどさ。


「……最悪だよホントに」


 ため息混じりの言葉は、夕暮れまぐれの街の喧騒けんそうにぐちゃぐちゃに引きかれていった。

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