Grow Impatient
Last episode~Grow Impatient~
久々の河川敷で、二人は向かい合った。
「…よっ。」
「…どうも。」
二人の間によそよそしい空気が流れる。
先に言葉を発したのは珠恵子だった。
「イヴなのに…筋トレ?暇なの?」
「…珠恵子さんこそ。」
「…」
「…」
会話が続かない。
振り出しに戻る。
珠恵子は恭一に会いたくて勢いできたのに、いざ本人を目の前にしたら緊張してしまった。
でも緊張と我慢は別物だ。
そう言い聞かせて、深呼吸する。
恭一は気まずく感じている。
久々の珠恵子との対面に初めは素直に喜んだが、今はこうした空気になったことで後悔をした。
やっぱりもう会わない方がお互いのためだと…。
「…珠恵子さん。俺、もう帰りま…」
「―ッッキョウは!!」
珠恵子はやっと声を出せた。
でも恭一はどう反応したらいいのかわからなかった。
しかし戸惑いながらも、帰ろうと背を向けた体をもう一度、珠恵子に直した。
「私のことがす、す…き…なの?」
「…」
「…そう……なんだよ…ね?」
自分から好きだと言うのが怖くて先に確認してしまったと自分でもずるいと珠恵子はそう思った。
こうやって諦めようとしてるのに、まだ心を乱すことを聞いてくる珠恵子をずるいと恭一は思った。
恭一から返事が貰えない…。
このまま会話を終わらしたらダメだ…。
珠恵子は深呼吸をした。
“我慢”するな!!
“諦め”るな!!!
「わ…私は…昔を言い訳に…周りを…曲げて見るようになって…“周り”を“諦めた”。自分を必死で守るようになった。」
「…」
「キョウは…昔を言い訳しないで、一生懸命、向き合って……周りの人と…ちゃんと接してる。…でも…」
いつかの夜のこと…キョウを都合のいい関係の人間にしようとしてたと告白した時、キョウは…笑ってた。
『このまま…黙って利用してもよかったのに…。俺はそれでもよかったっすよ?』
そう…。
その優しさの裏は自己犠牲だった。
「でも…キョウは…“自分”を“諦め”てる。」
「…?」
「私は…キョウに…そうなってほしくない。」
「そうなってって……なんのこと?」
「自分を守ることに、夢中で、周りを信じる…のが、嫌になった私には、キョウの、その、優しさがすっっごく嬉しくて、救われたけど…。」
「…」
「私はキョウにも…幸せに、なってほしいって…だから…」
ここに来るまで走っている間はすっきりするくらい考えがまとまったのに、言葉にする度にわけがわからなくなる。
でも恭一は嫌がることなく、急かすことなく、じっ…と一つ一つの言葉を待っている。
そういう人なのだ…。
珠恵子は知っている。
「だから私も…強くなりたい…。」
もう恭一にそうやって待って“我慢”してほしくない。
「どうすれば…強くなるのか…どういうのが強いってことなのか…まだわかんないけど…」
恭一は何かの決意かのようにボクシングを始めたように…
自分も始めたい。
「学校…サボるのも…やめる!!
お酒もやめる!!
ちゃんと周りの人とも向き合う!!
周りを拒否することで自分を守るんじゃなくて…
自分から信じるように
人から信じられるように
ちゃんと誰かとの繋がりを大切にする!!
それで、それで…」
支離滅裂
まさにそんな感じ。
でも言葉を途切らせたくなかった。
何が言いたいのかなんて…1つなのに…。
珠恵子はわかっていた。
「キョウが自分に優しく出来ないなら…
その分、私も自分よりも…
キョウを大事にする!!
キョウが優しくしてくれる以上に私はあなたに返すから!!
そうなるように…
キョウを守れるように…
キョウが我が儘になっても大丈夫ように…
キョウを受け止めれるように…
だから!!
強くなるから!!
ダメ人間、頑張って卒業するから!!
だから…――ッッ」
私と一緒にいて!!!
それは言えなかった。
結局それは自分の我が儘なのだと珠恵子は口を止めた。
恭一は珠恵子の意図がわからない。
何故そんなに彼女は泣きそうになっているのだ?
何故こんなことを久々の再会で言っているのだ?
俺は自分を諦めてる?
「なんでダメなんですか?」
「…え?」
「自分よりも人に優しくしたいから…してるんです。それっていけないんですか?」
何故この話をされているのかというは置いといて、恭一は本当に疑問に思った。
「いけないって…それは…ーッッ!!」
「自分に優しくないとこで周りは困りませんし、迷惑かけてないですから…別にダメではないですよね?俺も別に構いませんし…なんで珠恵子さんは強くなりたいんですか?」
本当にわからないという顔の恭一が珠恵子に問う。
珠恵子は何も言えない。
強くなってキョウを守るなんて、自分一人のエゴなのだ。
そして恭一はそんな必要はないと突き放す。
あぁ…それじゃあダメなのだ…
それじゃあ…
珠恵子は涙が溢れた。
走って恭一のところまで近付き、胸ぐらをつかんだ。
だってそれじゃあ
「それじゃあ私が困んのよ!!!!」
えぇ!!!逆ギレ!!!???
恭一はびっくりして目を見開いた。
「…え?なんで?」
なんで?か。
恭一がわからないのも無理はない。
珠恵子はまだ伝えていないから。
伝えたいたったひとつをまだ言えてないから。
「好きだから!!!」
「…え?」
「私はキョウと一緒にいたいの!!!」
「えっ…ちょっとまっ…」
「だからそんなこと言われたら、私がキョウといる理由なくなっちゃうじゃない!!!」
「…それは」
「キョウが自分を犠牲にする度、泣きたくなるじゃない!!!」
「珠恵子さん」
「言っとくけど!!好きって友達としてってことじゃないからね!!勘違いしないでよ!!!!」
「ーッッ!!!!」
「すごい私はキョウといてドキドキすんだからね!!でもキョウじゃないとドキドキも落ち着かないんだから!!!」
「~ッッ!!!」
「重いなんて思ったんでしょ!!うるさいわね!!しょうがないでしょ!!嫌なのよ!!」
「…何が」
「不安になるのよ!!私は体だけじゃなくて私自身だって必要とされたいの!!」
「な!!」
「私だけ好きみたいなんて嫌なのよ!!」
「…いや…あの…俺なんかのこと…」
「そうやって自分を低く見てんのが私、嫌なの!!!信じらんないってなら!!キョウの好きなとこ言ってくから!!伝えるから」
「えっと」
「まず、優しいとこでしょ!!」
「ちょっと…」
「大きな手でしょ?素直なとこでしょ?笑って下がる目尻でしょ?話し聞くときの相槌打たない癖でしょ?まめなメールに、低い声に、真剣な時とか、パンチ避ける動きに…」
信じて
私を
自分を
あなたは誰かに好きになられても何も可笑しくない。
充分素敵な人間だって…
そして私も…
珠恵子はふと言葉を止めた。
「…めんどくさいって思った?」
「…いや…その…」
初めて酔っ払って本音で喋った夜と同じような会話になった。
それに気付いたのは二人ともだった。
あの時は珠恵子もすぐに諦めてもういいなんて、また周りを突き放したけど…、言葉を止めなかった。
「面倒だからって、関係ないから!私はまだ言うからね!!」
「あ…と…」
「私はキョウの体も心も全部ほしいし、キョウにも私の体と心を求めてほしいんだから!!!」
キョウの顔が真っ赤に染まる。
しかしそんなもので珠恵子は満足しない。
「こんな我が儘になったの、キョウのせいだから。責任とってよね!!」
「…珠恵子さん。あの…」
「何!?まだ信じられない!?じゃあ、まだ続き言うよ。あと意外に強引なとこも好き!!気弱でヘタレのとこも好き!!手袋代わりの軍手も好き!!泣き顔も好き!!笑った顔が…」
恭一は珠恵子を抱き締めた。
「わかりました!!わかりましたから!!ちょっと珠恵子さん落ち着いてください!!」
「……今、適当に過ごそうとしてない?」
「や…違いますって!!」
身体を離す。
恭一は笑っている。
「我が儘の責任とってほしいのは…俺も一緒ですからね?」
そっと手を繋ぐ。
珠恵子にはまだ言いたいことがある。
でも今はただその手を握り返すだけ。
「どっか…行きましょうか?」
「どこよ?」
「どこでも。あなたの好きなとこへ。」
「…なにそれ」
「ははは。すみません。」
「…てかまだ私の話し終わってないんだけど?誤魔化してない?」
「違います。ちゃんと話していきましょう。これから…」
まだ珠恵子はモノグサなダメ人間を卒業できたわけじゃない。
恭一は自分に自信を持てたわけじゃない。
何もまだ解決してない。
こんなにも望みはたくさんなのに、ゴールはまだ先だ。
でもゴールに近づいても、また相手に必要とすることが増えてゴールが遠退くのかもしれない。
望みは絶えない。
それは共に生きていく理由となる。
「…キョウ。なんかプレゼントほしい?」
「え…なんでですか?」
「今日はイヴだし。」
「あ…そっか。珠恵子さん、メリークリスマス。」
「…メリークリスマス。」
二人はやっぱりゆっくり進むしかない。
“二人らしく”
さぁ次は何を望むようになり、何が待ってるのだろう。
それは変わらず笑顔であることを願う。
「珠恵子さん…好きです。」
「…知ってるよ。」
「本当ですか?俺も珠恵子さんの好きなとこ言いましょか?」
「いいって!!!」
「モノグサのくせに若干の暴走癖があるとことか…」
「いいって!!!…
……嘘。
全部聞きたいです。」
だんだん我慢できなくなる
私の
我が儘を
聞いてほしい。
-fin-
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