episode13~弱虫~
episode13~弱虫~
『今年も残り少なくなってきましたけど…』
『…ックリスマスは大事な人と…』
『年賀状でお世話になっ…』
『……ッ…さえあれば大晦日の大掃除も…』
リビングで寝転がり、テレビのチャンネルをコロコロ変える。
家には誰もいない。
久々に大学をサボった。
キョウと出会ったから、少しずつサボり癖が減っていたのに……
サボらなくても、すぐに冬休みが来るというのに…
ここ数日は外出もあまりしてない。
河川敷もキョウとのあの日の夜から行ってない。
あれから何日がたったのだろう。
暇だ…。
テレビは今の時期に合った話題やイベントのCMや特番ばかり。
『…の一年を振り返って…』
『今年はこれが最後!!フリーダイヤル…』
『来年の目標は…』
特に何かを見るわけではなく、ひたすらに変える。
戻った…だけだ。
…フラれただけだ。
毎日会いたいという私の願いはキョウの願いではなかった…
それだけだ。
身体の関係でなければ、私自身は求められない存在…
それだけだ。
タエコサン…スキデス。
ふと一つのCMでリモコンを持つ手が止まった。
『…やり残したことはありませんか?』
やり残したこと?
『会いたい人はいませんか?』
『明日の昨日である今日はもう去年こと…』
『走り続ける毎日に忘れ物はありませんか?』
『あなたはまだ走れるはず。』
『不安なのは、やり残した証。涙が出るのは、まだやれる証。』
『その先に大事な人が笑顔であなたを待っています』
なんてことない30秒の短いCM。
最後は、とある交通会社の名前を挙げて終わった。
年末年始は故郷に帰ろうという意図のCMだった。
家族に会うことが今年のやり残した事とも取れるし、やり残したことを家族に会って元気になってから頑張れとも取れるCMだった。
なんてことない。
里帰りはうちの交通会社を使ってね…というそれだけだ。
なのに今の私は
ただ涙が流れた。
その言葉は自分に向けられたものなんじゃないかと思うほどに、胸に突き刺さったのだ。
「うっ…うぅ…う~~。」
いつでも待っていただけの私。
この一年…いや…数ヶ月を振り返って…
やり残したことは何?
会いたいと言われた初めての出逢い。
毎日くれるメール。
たくさん話をしてくれて
たくさん話を聞いてくれた。
酔っ払っても泣いても怒っても突き放しても
辛抱強く待って、抱きしめてくれた。
初めての電話も向こうから。
初めて河川敷でない外へ連れ出したのもキョウ。
初めて自分の不安な気持ちや汚い考えを正直に伝えた。
それが出来たのもキョウが優しいから…。
初めてのキスもキョウから教えてもらった。
何もしないで待ってるだけでキョウはいつだって私の傍にいてくれた。
私は待ってた。
ただそれだけ。
『不安なのは、やり残した証。涙が出るのは、まだやれる証。』
『あなたはまだ走れるはず。』
「…キョウォ…。」
止まらない嗚咽が誰もいないリビングでグズグズと鳴っている。
強く拳を握った。
私は…
どうしたらいいのか
わかんない。
戻っただけなんて嘘。
数ヶ月前なら、何もしないモノグサな自分がこんなにも情けないなんて欠片にも思わなかったのに…
今は何もしてこなかった自分が悲しくて仕方ない。
『俺は清水です!!恭一です。キョウでいいですよ!!』
戻っただけなんて嘘。
私はもう彼の笑顔を知っている。
どうしたらいいの?
メールする?
電話する?
河川敷に行く?
怖い…
怖い。
テレビの電源を切り、仰向けに寝転がった。
目元を両腕でおさえて、目を瞑る。
その瞼の向こう側は今でも、いつでもキョウだ。
笑ってたり
焦ったり
とぼけたり
照れたり
真剣だったり…
そして最後の泣き顔を思い出す。
私はどうしたらいいの?
体を投げて、キョウを思い出す。
私は
弱虫だ。
ただ…
それだけなんだ…
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