勇者しか抜けない伝説の剣を抜いたら盗人扱いされてしまった少年は、なぜか人類の敵であるはずの魔女に助けられました。

夜兎ましろ

第1話 剣を抜いただけ

「はあ……っ、はあ……っ、ようやく着いたか」


 乱れた黒髪。

 土や砂で汚れた衣服。

 疲労困憊で今にもその場に倒れ込みそうな表情をしている15歳の少年――アイル・フレアルージュはデスバリード帝国の首都、アルトリアにいた。


 彼がこの都市に来たのにはもちろん理由がある。

 それは――


「金……金を稼がないと……」


 そう、金を稼ぐためである。


 彼は約5年ほど前に父と母の両方を失った。

 死別してしまったというわけではない。5年前のある日の朝、目を覚まし、リビングに行くと、いつもは朝食の準備をして待ってくれているはずの父と母の姿がなかったのだ。


 今まで父と母がアイルだけを残して家を出ることなど無かった。

 だからこそ、当時のアイルは焦り、パニックになり、その場で泣き崩れた。

 それから約5年経った今、家もなく、職もなく、その日を生き延びれるのかもわからない状況が続いている。


 そんな彼はデスバリード帝国の首都であるアルトリアが今、どんなに貧しい人間にでも職を与えてくれるという噂を耳にしたのだ。

 それで、彼はアルトリアに長時間掛けてやってきたのだ。


 アルトリアに辿り着いたのは良いのだが、すでに時間が深夜になっており、こんな時間から職を探しても迷惑がられるだけだろう。

 そう思い、アイルは朝になってから職探しを開始することにした。


「もう宿も埋まってるだろうなぁ……って、そもそも泊まる金がないんだった」


 泊まるための金がないので、宿は諦めるべきだろう。


「とりあえず近くの公園で野宿するか」


 宿を諦め近くの公園へと向かおうとしたその時だった。

 街中で何かが光ったような気がしたアイルはその光が見えたほうへと向かって行く。


「これ、本当にあったんだ」


 光の正体はなんと地面に突き刺さっている剣に街灯の光が反射したものだった。

 アイルはアルトリアで職を得られるという噂を聞いたときに、もう一つの噂も耳にしていた。


 それは、アルトリアの街中には勇者しか抜けないと言われている伝説の剣があるという噂。

 しかも、その剣を抜いた者には多額の金を与えるらしいのだ。

 その噂が本当ならこの剣を偶然でもなんでも抜くことが出来たら、現状の辛い日常からすぐに抜け出すことが出来るかもしれない。


 その考えが頭の中をよぎった瞬間、アイルの手は剣を掴んでいた。


「これを抜くことが出来れば、俺の人生も良くなるはずっ!」


 力を込め、今出せる最大の力で思い切りその剣を引き抜こうとする。


「ふんっ、んあああああああっ!!!」


 すると、アイルはなんと見事にその剣を引き抜くことに成功したのだ。


「え、本当に? よ、よっしゃあああああ!!!」


 アイルは嬉しさのあまりその場で飛び跳ね、ガッツポーズをとった。が、そんな歓喜に満ちた表情が次の瞬間には焦りの表情に変わってしまうのだった。


 剣を引き抜いてからわずか数十秒後、すべての街灯が赤く光り出し、それと共に街中に大音量のサイレン音が鳴り響き始めたのだ。




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