6-3
「はあ」
自室の椅子に腰かけながら、ジムは深いため息をついた。
かつてない、重要な選択をしなければならなくなった。
このまま今の団体に出続ければ、ランキングは上がって行くだろう。他団体に出ることも可能な契約だ。だが、そもそもがメジャーなところではなく、いつ潰れてもおかしくない。The Bestに行けば、知名度が上がるのは確実だ。かつてレリンがそうであったように、売り出し方も向こうが考えてくれる。
光が当たる場所に行きたければ、選択は簡単だ。ただ、簡単でない問題もある。まずは現在決まっている試合をやめて、今後についての契約も破棄しなければならない。そこには違約金がかかるし、名誉も傷つくだろう。
自分は、どうなりたいのか。
トップになりたいと思っても、何がトップなのかは明白でない。とりあえず王者を目指すのか。一番層の厚いところで無敗でいるのか。
それとも、一番目立つのか。一番有名なのか。一番稼ぐのか。
強さを認められてのことではない。クレメンスの努力のおかげで、チャンスが巡ってきたのだ。
クレメンスの兄貴分。それが求められている肩書だった。このままいけば、いずれクレメンスがThe Bestとの対抗戦に出てくるなんてこともあるのかもしれない。その時のパイプ役としても期待されているのだと、ジムは推測している。
レリンはかつて、一試合だけThe Bestに参戦した。へんてこなキャラをさせられた挙句、使い捨てでも問題ないと慰留すらされなかったのだ。
自分だって、The Bestが絶対に手放したくない選手ではないことをジムは自覚している。The Bestに行くということは、The Bestを辞めた後のことまで考えるということでもある。
ジムは立ち上がり、部屋を出た。リビングに行くと、クレメンスが新聞を読んでいた。
「珍しいな」
ジムがそう言うと、クレメンスは新聞をテーブルに置いた。
「いや、ほとんどわからない」
「じゃあなんで見ていたんだ」
「目を慣らしていけば、読めるようになる気がした。おかしいか」
「いや、そんなことはない。俺もそうだった。子どもの頃はよくわからず読むふりをしていた。じいちゃんの真似をしてな」
そう言ってジムは新聞を手にして、逆さに持って開いてみせた。
「そんなものか」
「だいたい今、紙の新聞をかうやつなんてほとんどいない。それでも買うのは、大人の真似ごとをずっと続けているだけのことだ」
「そうなんだな。……で、何を悩んでいるんだ」
クレメンスは、逆さの新聞をじっと眺めた。
「俺は、契約を破るべきかってことさ」
ジムはゆっくりと、新聞から顔を出す。
「なるほど。前科持ちになるってことか。それは確かに悩む」
「そうだな」
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