第14話 第1章ー⑬
「ぬうっ?!」
影に切っ先が触れそうになった瞬間、エイシャの影からデカくてどろっとした手が出現し、俺の刀を掴んできた。また生成系の魔法か? しかし、一体何時魔法なんて…
「『惜しかったですね。が、貴方がこうする事は私には見えていましたよ』」
「くっ!?」
大きい手に刀をガッツリ掴まれてしまい、力ずくで抜こうとするものの中々抜けない。マズい。刀があの手に飲み込まれそうだ。上限解放を四段階まで解放して力だけならこんな片手だけの奴に負けるわけかない。
まるで底なし沼だ。動かせば動かす程刀が飲まれていく。かといって、動かなくてもジワジワと手が刀を伝ってこっちに向かってくる。なにをされるかわからない恐怖が俺に襲い掛かってくる。
「ちっ!」
仕方なく刀を一度手放し、一旦距離を置く。あの刀、
「『どうしました? 貴方のターンはこれで終わりでしょうか?』」
気がつけば、バラバラだったエイシャの身体が殆ど元に戻っていた。相変わらず余裕の煽りっぷりである。
「…なんで魔法が使える。呪文すら唱えさせる隙もなかった筈だが」
乱れた呼吸を少し整え、エイシャに向かって問いかける。空気は薄いがまだなんとかなる。それよりも、いつ奴は魔法を使っていたんだ?
俺が仕掛ける前に仕掛けておいたのか? いや、あれだけ動いていたんだ。どっかで罠が起動していたはず。
なのに、俺が陰を攻撃するタイミングで発動した。奴の口振りからして、狙って発動させたんだ。だとしたら、俺が陰を狙う直前。
しかし、あの状況でどうやって魔法を発動させたというのだ。俺の分析が外れたのか。
「『さて? 何時魔法を使用したのでしょうね?』」
「…」
俺の問いかけに、エイシャははぐらかしてくる。本当に喋りたくないのか。いや、単純にただ煽ってるだけかもしれないが。
それより、問題はここからだな。致し方ないとはいえ、手離してしまったのは痛い。業炎刀がないと本来の力が発揮出来ない。その業炎刀はあの手と一緒に地面に消えようとしていた。
諦めてもう一度生成出来る機会を伺うべきか、それともなんとか奪取するべきか悩んでいた。
「…ふう」
その結果、俺は後者を選んだ。生成している時間があまりにも惜しいし、そんな時間も隙も与えてくれる程奴も優しくはないはずだ。
なんたって奴は弱点を知られてしまった。俺の刀を奪ったのも戦力の低下を狙っての作戦だろう。あわよくば俺諸共狙ってた可能性もあるが。
「【
「『…まだ抵抗なさる気で?』」
「当たり前だ! こっちには負けられねー理由があんだよ!!」
上限を全解放。本来ならこの段階まで来るのに慣れるにはかなり時間が掛かるのだが、多少の無茶を承知の上で早めに力を解き放った。
「ゔっ?!」
さっきまで軽かった筈の身体が、急に重くなったように感じる。いきなり魔力の重さがのしかかり、一瞬油断して態勢が崩れそうになる。
逆効果だったようにも感じるが、今必要なのは素早さじゃない。あの手から刀を取り返す為の力が欲しい。
「はあ…はあ…いくぞ!」
息を切らしながらも俺は、手のひらをエイシャに向けていた。
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