第53話

 その胸ポケットには、携帯端末が……


 着信しない…


 未だ、着信は無い…


 着信、しないでくれ……!


「…淡海君?」

「あ…済みません……」


 和嶋に促され、哲はヴィオラを手にする―


「あれっ…?

 弦、張り替えたんだな?」


 真っ先に、作野が気付いた。


「…あっ…ああ、うん……」


 新品の弦からはじかれる…一音の狂いも無い音色……


「………」


〝君が毀れても…ヴィオラごと、死ぬ迄面倒見て上げる……〟


 あの言葉には、斯様な含みも有ったのだ―


 希望は、哲のヴィオラを分解し…丹念に修復して、哲に手渡した。


「……!」


「ふ…色々、勉強したんだよ?

 君の為に…全て」

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