第8話 【MOVIE2】love life
間切をリビングに待たせて、寝室をカーテンでぶった切って作った俺の部屋(自称)。
その中にはタンスや棚もあるので実質2畳ぐらいだろうか、その狭いスペースに俺と間切は座り込んだ。
「ちょっと、聞いてんの?」
「……えっ、ああ。」
香水だろうか? 甘い香りが漂ってきて、俺は惑ってしまう。
近くで見れば見るほど思うけど、間切はめちゃくちゃかわいい。
……顔だけなら。
「あんたのパソコン出して。あたしのパソコンから、あたしがいつも使ってる録画ソフトのインストーラと編集ソフト、プラグインごと移すから」
「ほらよ」
間切は自分のノートパソコンを取り出すとUSBケーブルを自分のパソコンと俺のパソコン両方に刺しこんだ。
「インストール完了っと。で、あんたどんな動画つくりたいわけ?」
「まだ何も考えてねーけど?」
「はぁ? 動画の内容も考えてないのに動画の作り方を教えろなんて言ってきたわけ?」
あ……。
やり方ばかりに気をとられて動画の内容なんて完全に蚊帳の外だった。
「……悪い、完全に忘れてた。参考までに聞くが、どんな動画が良いと思う?」
「そんなの自分で考えなさいよ。と言いたいところだけど、しいて言えばせっかくの炎上を利用できる動画じゃない?」
炎上を利用した動画ね……。
「まぁ考えとくよ。せっかくだしやり方だけでも教えてくれ。」
「教えてくださいでしょ?」
うぜえ。イラつくが、今はプライドを捨てる。
「……教えてください。」
「しょーがないわねー。お願いされちゃ仕方ないわ。」
「OBS点けて。」
「……は?」
オービーエス?
なんだそのサドな卒業生の略みたいなの。
「あんたのデスクトップにアイコン出てるでしょ。」
ほんとだ、殺風景で何にも無かったデスクトップに【OBS stand】という円形のアイコンが増えている。
俺はそのアイコンをクリックすると灰色のウインドウが表示された。
「これは何なんだ?」
「正式名 obs stand。配信や録画が出来るソフトでUIがシンプル。画質音質も超良くてよくある製作者のロゴも入らない。その上、ソフト自体にミキサーが入ってるから面倒なライン入力の設定もいらないからあんたみたいなバカにはピッタリのソフトよ。」
「よく分からんけど、そのバカ向けソフトをいつも使ってるお前って一体……」
<ゴッ>
俺はまた、間切の肘打ちを喰らった。
「で、これどうやって使うんだ?」
「左側にシーンってあるでしょ?そこで右クリックして適当に名前つけて作って。」
言われるがままシーンを作成すると、間切が手を伸ばしてきた。
「はい、これウェブカメ。貸すから。」
と、間切が言うと、ガラスの筒が入った機械を手渡された。
「なんだよこれ」
「ウェブカメラ。パソコンに接続して使うカメラのこと。せっかくだし今から動画を一本撮ってみなさいよ。」
は?
まだ何も考えてないって言ったじゃん!
「……何を撮れっていうんだよ」
「何か面白い動画」
それって学校の奴らがよくやってる「何か面白いことやって!」と同じノリじゃねえか!
「無茶言うんじゃねえよ」
「……はぁ。なら、あんた何かすごい特技とかないの?」
「無い。……事もないけど。」
「じゃあそれやって。」
「……やっても良いけど、何見せられても絶対に引かないって誓ってくれ。」
「引かないわよ。 これでいい?」
「絶対に、絶対だかんな?」
「はいはい、引かないわよ! 分かったから早くやって。」
俺は間切に渡されたウェブカメを自分のパソコンに接続するとシーンにウェブカメを指定し、とある音源を検索して、再生と同時に録画開始を押した。
“オウイェー! 一進一退!”
俺はラブライフ!のノープラントガールズをフルで踊ってみせた。
「ふぅ。これ踊ると疲れるぜ。」
「……今の、なに……?」
間切がゴミを見るような目を向けてきた。
「ラブライフ!のノープラントガールズだけど?」
「……キッモ。」
だから、イヤだったんだよ!
これ見せて引かれなかったことねえもん。
「引かないって約束だっただろ!」
「今の見せられて引かない人なんているの……?」
「だったら最初から引かないなんて言うんじゃねえ!」
「……一応、撮った動画はyoutubeにアップするとこまでやりたかったんだけど。どうする?」
どうするってなんだよ……。
「あんなの投稿して学校の“上位ヒエラルキー”共に見られでもしてみろ、奴らにバカにされ続ける日々になるぞ……。」
「それはあんただと断定出来た場合の話でしょ?」
「……つまりどういうことだってばよ」
「顔にモザイクつけちゃえばいいじゃない。」
「モザイク? それってテレビのインタビューとかについてるあれか?」
「そうよ」
「……あんなの出来るのか?」
「出来るわよ。教えるからeviUtl開いて。」
「eviUtlって何?」
「動画編集ソフトのこと。他にも、プレミアとかビデスタもあるけど、お金もかかるし、まずはeviUtlでやるわよ」
「やっと動画編集か。ずっとやってみたかったんだよな」
「で、それどうやってつけんの?」
「……いい加減学習してくんない? デスクトップにアイコンあるでしょ?バカなの?死ぬの?」
ほんとだ、デスクトップにeviUtlというアイコンが追加されてる。
「悪かったな。」
アイコンをクリックして起動すると灰色な画面が表示された。
「そこにさっきの動画Dドラッグ&(アンド)Dドロップ(ドラッグ&ドロップ)して」
「俺は華の16歳、薬に堕ちたりなんかしないぞ。」
「はぁ? 何言ってんのあんた、Dドラッグ&(アンド)Dドロップも知らないわけ?」
「……悪い、何のことか全くわかんない。」
「さっきの動画を左クリックを長押ししながらeviUtlの上に持ってきて離して。」
言われるがまま、動画をDドラッグ&(アンド)Dドロップすると先ほどの俺の姿が静止画で映った。
どうやら無事取り込めたらしい。
「……はぁ。どうやったらそういう思考になるわけ?」
間切はため息をつくとジト目で俺を睨んできた。
「ちゃんと出来てるじゃん。何がダメなの?」
「貸して」
突然、間切が身体を俺の方に乗り出してきた。
「ちょっ!?」
近い!近い!
あまいかおりがより強まって、俺の鼻を掠める。近くで見ると、尚更のこと、間切はかわいい。
きめ細かいスベスベ肌が、つやつやピンクの唇が、ドキッとさせてきやがった。
「いい? eviUtlで動画の編集をする時は拡張編集から取り込まないといけないの。」
わかった!わかったから!
その宛ててる肌を離せ!
「か、拡張編集ね。オーケー。覚えた、完璧だぜ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます