発(た)つ少年、待つ少女

第30話

「悠一郎…一寸、来なさい」

「はい、父上…」


 もう、十数年も前になる―


 悠庵が、未だ「悠一郎」という、幼名ようみょうで呼ばれていた、十二の頃―


 開業医の父に呼ばれた居間で、彼は…一人の小さな娘に、引き合わされた。


「この子は…さえ。

 一度に両親ふたおやを亡くし、うちに奉公に来たが…


 実に、利口だ。

 しかし、学が無い…


 いたく、不憫に思う……」


「……」


「其処で、私は…考えたのだ。


 この、さえに…学ばせてやろうと……

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