第4話 仕事開始!

 「マネージャーさん、次こっち確認お願いします!」

 「はい、今行きます…!」


 撮影スタジオには20人くらいの人がいて、皆が皆、自分の仕事で忙しそうだった。私もようやく覚えたメンバーの名前と顔を必死に思い出しながら、言われるがままに動いていく。マネージャーはスケジュール管理が大きな仕事だと思っていたけど、他にも色々とやらなければならないことがあるようだ。

 例えば、メンバーの写真確認。撮影した画像をメディアに使用してよいか、都度確認を取らされる。「確認お願いします」とだけ言われて、数枚の、時には数百枚の画像を見せられる。それもすぐに確認しろと言わんばかりに、画像を渡してきた人は確認が終わるまでずっとそばで突っ立っている。正直OKとNGの基準がわからないから…というか、どれもかっこいいかは、ほぼほぼOKにしてしまう。リーダーの額にてんとう虫が止まっていた画像だけはNGにしたが。


 メンバーが撮影している間にも、会社から支給されたスマートフォン(らしきもの)に立て続けに電話がかかってくる。


 「新曲のMV撮影、制作の予定が押しているのでリスケ可能ですか?」

 「新しい衣装デザインにトラブルがあり、納品が遅れます」

 「今度のイベントの出演ですが、ギャランティーの話できますか?

 「雑誌の特集で急にページが増えました。追加でコメントお願いできますか?」

 「楽曲の権利関係で問題が発生しています、早急に対応が必要です」

 「衣装のサイズが合わないメンバーがいるので、すぐに修正が必要です」


 立っているだけで、次々と仕事がやってくる。文字通り、目が回りそうだ。


 あれ…?この余裕のない感じ、前世と被っている。



 「みーもりさん」


 目を上げると、コンサートで黄色いマイクを持っていた男性が目の前に立っていた。


 「木野さん…!」

 「ははっ、ごめんね、びっくりさせた」

 「撮影、お疲れさまです!」

 「そんなにかしこまらないでよ」


 そう言って、木野慎太郎きのしんたろうは目を細めた。コンサートの時とは違い、ふわふわな金色の髪の毛は、ワックスでガチガチに固められている。明るいグレーのスーツが、髪の毛と肌色にとてもよく似合っている。今日の撮影テーマは、「社会人」らしい。ソロの撮影が一番最初に終わったということだった。


 「三森さん、申し訳ないんだけど、事務所にあるパスポート持ってきてくれないかな。前に海外撮影行った時に社長に預けたんだけど。急でごめんね」


 両手を合わせて、眉を下げて見せる。お願い上手というよりは、本当に申し訳なく思っているような表情だ。間近で見ると、とんでもなくかっこいい。快く承諾して、次の予定を伝える。


 先週一週間働いてみて気がついたのは、木野慎太郎はグループのムードメーカーということ。メンバーはもちろんのこと、周りのスタッフたちにも気兼ねなく会話して場を盛り上げている。あえて雰囲気をよくしようとしているというより、心からその状況を楽しんでいるように見えた。


 その彼の性格もあって、メンバーの中では彼と一番打ち解けた気がする。


 他のメンバーが撮影している間に、事務所へ向かう。社長室には、株式会社ユニバースの社長・藤樫隆也とがしたかやが一人いた。木製のしっかりしたテーブルに肩肘をつき、新聞を読んでいる。


 「失礼します。社長、木野さんのパスポートを受け取りに来ました」

 「なあ」

 「はい?」

 「世界征服ってできると思うか?」


 「えっ…?」

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