第20話 もう終わりました
2022年 5月20日
この日、ITTと二度目の技術的な打合せがあった。開始して間もなく、D棟4階教育系ネットワークが不調という連絡が入り、ラマが対応に向かう。
20分後、「障害解消、これから会議に戻りまーす」とラマが連絡を入れると、「会議は、もう終わりました」バクがいう。
頭上に「?」を浮かべながら部屋に戻ると、ラウンドテーブルに遠藤とバクの二人。
「なになに、どーしちゃったの?」とラマが聞くと、
「遠藤さんが書いた工事計画確認書と 彼らの提案が異なりすぎて話になりません。仕切り直し」とバク。
なるほど、そういうことかとラマが事情を飲み込むと、小さな沈黙のあと、
「私、足枷になってませんかね?」と、遠藤がおずおずと切り出す。
「や、とんでもないです。まさに言いたいこと代弁してもらえて、嬉しかったです。」
バクが感情を言葉で表現するのは珍しい。
遠藤が「工事計画確認書」を提出してから2ヶ月が過ぎている。その間、彼らは何をやっていたのか。彼らの提案書では規模を3棟に縮小したとはいえ、それでも3億弱の仕事だ。彼らはそれを欲しくはないのだろうか。
次々と現れる不可解な出来事は、30年をゴミ箱に捨てていなければ、確実に心を深く傷つけていただろう。<意外と間一髪だったのかもなあ> 眼の前の二人に対して軽い罪悪感を覚えながら、ラマは胸をなでおろした。
2022年 5月24日
ラマが出勤して鍵を開け部屋に入ろうとしたところ、何者かに後ろから羽交い締めにされ部屋に押し込まれた。
それほど親しくはない事務員だった。
「なんなんすか、あの改革準備室って奴ら。自分、昔からバカが嫌いなんすよ」
よほど不満を溜め込んでいたのか、一気に感情を吐き出していく。
彼は彼で、改革準備室による無茶な要求内容と要求の仕方にご立腹のようだ。
「キミは知らない時代だけれど、なんかバブルの頃ってね、ああいうの多かったよ」
ラマは、事務員の鼻息が落ち着くまで事情を聞くと、ふと遠い目をして語り始めた。
「平家物語の時代から『欲望と野心には際限がない』っていうし、ああいう人たちはいつの世にもいるみたいだよ」と、彼は事務員をなだめるように言った。
事務員はまだ不服そうな顔をしていたが、ラマは続けた。「朝熊さんが定年退職しても状況は変わらないんじゃないかな。彼だって雇われ店長みたいなものだから。当分は面従腹背で生きていくより、仕方がないと思うよ。面従腹従でゾンビみたいになっちゃうよりマシだろ?」
ラマは自分の言葉に大笑いした。しかし、相手がまったく笑っていないことに気づき、笑いを収めた。事務員の表情は変わらず、ラマの言葉が励ましになっていないのは明らかだった。
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