こちら対魔王軍情報部

千日越エル

第1話

 王の命に背いたものは磔刑に処す――。


 この国では誰もがそのルールに縛られ、生きていた。


 だがある時、そのルールが適応されないという事件が起きる。


 ひとりの罪人が、美少女だからという理由で磔刑を免れたのだ。


 全国民は戦慄した。


 美少女なら許されるのかと。


 誰もが美少女になりたいと願い、美少女になろうと努力した。


 そして美少女が美少女を産み、美少女を育て、互いを美少女に仕立て上げた結果、その国の住人は、全て美少女になったのです。





「――って、そんなわけあるかい!」


 俺考案のストーリーは、長身のクラスメイト、通称永田によって否定された。


「通称やなくて本名や!」


 そうとも言う。


「それにしても説明が適当やな。俺は長身ってだけかい」


 うるさい関西人に構わず、俺は本題に戻ることにした。


「俺はバリバリの関東人や!」


 あーもううるさい。生まれも育ちも関東だが、関西弁に憧れ関西弁を話す奇人である。これでいいか?


「まぁええか。奇人ちゅうのが引っかかるが」


 我侭で傲慢で舌足らずな男である。


「酷い言い草やな。つーか舌足らずではないやろ」


 馬鹿め、舌足らずは萌えるんだぞ?


「知るか!」


 ここは魔王軍討伐の策を練る対魔王軍情報部の部室。

 現在俺はこのアホとともに、有効な策を練っているところなのだが……。


「なぁ、もうおしまいにせぇへん? 魔王軍はどうせしばらく来ないやろ」


 その驕りが、まさかあんな悲惨な結末を迎える原因になろうとは……。


「不吉なモノローグすな! いいから帰ろうや」


 ええい待たれよ!


「なんや、もう話し合うことはないやろ」


 なんでやねん!


「適当なツッコミすんな! ツッコミはボケに対して行うんやで」


 だよね。


「そもそもツッコミのときだけ関西弁使おういうのが甘い」


 だよね。


「素人の証拠や」


 だよね。


「お前、俺の話聞いとんのか?」


 だよね。


「やっぱり聞いてへんな!」


 だよ……痛い痛い聞いてる聞いてます!


「嘘つけ!」


 ったく、ちょっと考え事してただけだっての。

 お前もなんか考えろよ。俺だけに考えさせやがって。


「お前が考えてるのは関係ない小説のストーリーやろ!」


 悪いか?


「悪くない。悪くないから、一人でやれや。ほなな」


 あ、ちょっと待て! おい、待てって……待ってください!


「何やねん。お前、家に帰りたくないだけやろ」


 何を馬鹿な、俺は妹なんてちっとも怖くないぞ!


「なるほどな、妹さんと喧嘩したんか。お前の妹さん、美人やけど怖いからなー」


 美人? あいつが?


「なんや、もっと素直になれや。ごっつ美人だと思うで」


 そうだな。正直、パンツの匂いを嗅ぎたいくらいだ。


「それは素直になりすぎや! もっとオブラートに包めへんのか!」


 スカートの下に履いている綿製品の香りを楽しみたいくらいだ。


「あんまり変わっとらん!」


 まぁ、表現の違いはこの際どうでもいいだろう。実際に楽しんでいることに変わりはない。


「ホンマにやってんのか! そりゃ妹さん怒るわ」


 俺の唯一の楽しみを奪っておいて怒るとはふてぶてしい……。


「ふてぶてしいのはお前や! ていうか唯一の楽しみて! 変態すぎるわ」


 ふっ、ははは……。変態? 変態だと、この俺が?


「なんや、馬鹿にしたような目して」


 馬鹿が。俺が変態なわけあるか。だいたい俺が変態なら、妹のパンツを食べている親父は何なんだ?


「ド変態や! お前の親父はド変態や!」


 そうだったのか……余計帰りたくなくなった。


「お前も同類やけどな」


 なぁ、お前から妹に謝ってくれないか?


「なんでやねん! 何で俺が謝らなあかんねん。意味分からんわ」


 頼む。妹にこう言ってくれるだけでいいんだ。本当は俺が嗅いでましたって。


「ふざけんな! いい加減帰るわ。さいならー」


 あー。

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