迷子と出会い
第6話
「すまん、ティラ」
「えっ」
「諦めてくれ」
「どうして! だって、連れて行ってくれるって言ったじゃん!」
「本当にすまん」
「父さんなんて、大嫌い!」
ティラは、そう吐き捨てると、拠点であるNー3基地を飛び出した。
基地は山の中腹に掘られた地下にあった。
昨日、基地に到着すると、地上班部隊の特派員達と挨拶を済ませた後、急に引き締まった顔になった父さんは、彼らと話があるからと、ティラを先に寝かせた。
仕事モードの父さんの顔を初めて見て、少しこそばゆい気持になりながら部屋へと向かい、夜も遅いので言われるままベッドで眠ったのだ。
だから、今の今まで何かトラブルが起きてた事など全く知らなかった。
昨日の時点で、きっと分かっていた事だ。なのに、父さんはベッドの前で『明日は快晴だとラジオで言ってたから、明日は電車に乗って海を見に行こうな』そう言って額にキスを落としおやすみを言ったのだ。
行ける訳なかったのだ。今日になって出掛ける準備も済ませて、今更行けないなんて、そんな無責任なこある!
こうなったら、わたし一人で行ってやる!
そう怒りの勢いで、後先見えていないティラは無我夢中で山道を下っていた。
何処に行けば電車に乗れるのかは分からないが、街へ向かえばきっと何とかなると思ったのだ。
麓に街がある事は昨日空から見ていて知っていた。
街に着いたティラは、初めて見る大きな建物に驚いた。
全ての物が浮島の大きさを遥かに上回る。建物も道幅も。そして人の多さにも驚かされた。こんなに人がひしめき合って居るのかと。
天族の人口はとても少ない。
地族の人口は約81億人と言われているが、天族は約5万人強だ。地族の0.00062%にしかならない。
ティラは、街の空気と大きさに圧倒され、暫く立ち尽くしたまま行き交う人達を見上げていた。
地族の体が大きいのは承知の上だが、この多さに少し恐怖を覚えた。幾ら体術を習ったとしても、何人もの地族に襲われたら絶対に勝てない。
そう思うとティラは大通りから外れ細い通りに入り込むと駅を探して歩き出した。
基地へ戻ろうとは考えなかった。どうしても海を見に行きたかったから。
ティラは道路標識から駅の名前を見つけると、それに従い歩みを進めた。
暫く歩くと目的の駅へと到着した。
父さんから聞いた話では、電車に乗るためには、行き先までの切符という券を買わなければいけないのだが、ティラは券売機の前で立ち尽くしてしまった。
「どうしよう……」
券売機はティラの遥か頭上に見えるのだが、背伸びをしても全く届かない。
ティラの身長は地族の6~7歳程しかないため、券売機まで手が届かないのだ。
翼を使って羽ばたいてしまえば楽勝なのだが、ここで翼は出せないし、ぴょんぴょんと飛んで券売機の前にある棚に手を掛けようとするが上手く掴めない。
よじ登る事も出来ないのかと途方に暮れた時、側まで近付いて来た地族の女性が話しかけてきた。
「一人? 何処まで行きたいの?」
「海まで」
「海? それじゃあ
「そう」
「じゃあ1800円ね」
そう言って彼女はティラを抱き抱えて券売機の前まで持ち上げた。
ティラは慌ててポシェットから財布を取り出し、千円札2枚を出すと券売機に吸い込ませた。
1800と表示された所を指でタッチすると 切符がぴょこんと飛び出し、百円玉が2枚ジャランと落ちてきた。
ティラはその二つを両手でそれぞれ握り締めると、女性はそれを見届けティラを下ろした。
「ありがとう」
ティラがお礼を言うと、彼女はにっこりと笑って『小さいのに一人でお出かけなんて偉いわね』と頭を撫でてきた。
上手い具合に、彼女はティラを地族の子供だと思ってくれたようだ。
この分だと、ティラは難なく海まで行けるかもしれない。
駅への入り方も勉強してきたから大丈夫。ちょっと背伸びをしなくてはいけないけど切符は改札口の機械に吸い込まれた。
「よし」
だが、切符の飛び出し口は上にあり届かない。
「おっと」
後ろから来た地族の男性がぶつかりそうになり声を上げた。
ティラが振り向くと、その男性がティラの切符を掴んで渡してくれた。
「ありがとう」
「どうも」
そう言うと男性はティラの横をすり抜け足早に去って行った。
それを見送り、ティラは辺りをキョロキョロと見回し案内板を探す。この駅は大きくて幾つものホームがあるようで、海岸南口に行くにはどのホームへ行けばいいの分からなかったからだ。
「え〜と。海岸南口、海岸南口っと……あっ有った!」
3番線と書かれた文字の下に海岸南口方面と書かれていた。
ティラは3番線ホームに続く階段を駆け上がると、そこには丁度、電車がホームを通過する所と出くわした。
「うわぁ〜、すっごい! これが電車!」
大きな四角い箱が何個も繋がって凄いスピードで目の前を過ぎ去って行った。
でも、アレ? ここから乗るんだよね。あのスピードの電車に乗り込むにはどうしたらいいの?
勉強した電車はちゃんと止まって扉が開くから、そこから乗り込むって教わったのに、扉も開いてないし、動いてるし。もしかして転送装置があってそこから乗り込むのかと辺りを見回したがそれらしき物は見当たらない。
「あの〜電車には、どうやって乗るのですか?」
ティラは、今までの地族の反応から、子供が困ってると優しく助けてくれるのだと学習したので、側に立つ、先程助けてくれた人より少し若そうな男性に声を掛けた。
ティラが見上げているのに気付いた男性は、怪しげな顔で辺りを見回し耳に付いた小さい物体を外すと、
「えっ? 何?」
ティラを見下ろしそう言った。
「海岸南口まで行きたいの」
「次の電車に乗れば終点だな」
そう面倒くさそうに言うと、また小さな物体を耳に付けた。
ティラはその小さな物体が気になり辺りを見回すと、かなりの頻度で耳に小さな物体を付けてる人がいた。
何あれ?
「それなんですか?」
そう声を掛けたが聞こえていないみたいだ。
周りの音を遮断するアイテムなのだろうか?
他の人に聞いてみようかと後ろを振り向くと、さっきは猛スピードで通り抜けた電車が徐々にスピードを下げて止まると扉が開いた。
これなら乗れるじゃん!
ティラはパタパタと駆け出し扉の開いた電車に飛び乗った。
車内は空いていて、七人くらいが座れる横並びの椅子に一人で座ると、地面に付かない足をブラブラとさせて、向かいの窓から見える景色に見入っていた。
流れる景色は、大きなビルが幾つも行き過ぎ、次第にビルの数が減っていくと、田畑と共にぽつんぽつんと家が建つ、のどかな風景に変わり出した。
その後トンネルを二度程潜り、最後の駅にたどり着いたのだが、そこは目指していた海岸南口ではなかった。
「
車内アナウンスはそう告げていた。
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