十五話 妖精


 空気を圧縮して撃ち出すとゴブリンが吹っ飛んでいく。固めた土の槍を地面から突き出すとゴブリンが串刺しになる。氷の槍を打ち出すと、刺さったところからゴブリンが氷漬けになった。雷の槍を打ち出すとゴブリンは黒焦げになった。水を圧縮してぶつけたらゴブリンはボウリングの球をぶつけられたように転がっていった。森なので一応火はやめておいた。雷も危ないかもだが。落雷で山火事とかたまにあるらしいし。


 結構使えるものだな。魔槍の方が慣れているので使うのは楽だが。今はたいして考えなくても扱えるし、あまり考える余裕のない時は魔槍を使う事になるだろう。しかし空気を圧縮して上からぶち当てたら楽にワイバーンを落とせたかもしれない。離れたところからゴブリンの上部にぶち当ててみると、ゴブリンはグシャッと地面に叩きつけられた。なんか一瞬で高重力を浴びたみたいだな。


 今度は高重力をイメージして使ってみると、しだちにゴブリンは立ち上がれなくなり、地面に磔になった。これも飛行系相手に有効かも。まあどんな生物にもある程度有効そうだが。


 人型の生物で実験というマッドな事をしながら進んでいく。シーラやリアナも色々試すように言っておいた。レベルが上がったおかげか、シーラは簡単な属性魔法、減速や脆弱がある程度使えたようだ。元々錬金術で魔法はある程度使うそうなので、慣れているのかもしれない。一方でリアナは今のところ成果はない。


 減速は相手がスローになるイメージ、脆弱は相手が豆腐やプリンになるイメージで俺も問題なく使えた。イメージ程は劇的な効果はないが。加速も試したが少し速くなった程度だ。ないよりはマシかな。強い魔物ほど魔法への耐性も高いらしいので、デバフはもっと鍛えないと通用しないかもしれない。いや、他の魔法もだな。


 マンティコアなどのマジックユーザーを想定して、ゴブリンマジシャンで封印を練習した。他の取り巻きを倒し、足を泥に沈めてから固め、動けなくする。魔法が使えなくなり、逃げようともがくゴブリンマジシャンを眺める。一度封印を使うと三分は魔法が使えなくなるようだな。デバフはバフと違って効果時間が短いな。幸運なんかは一日は持続するのに。他もデバフより長い。


 強力なマジックユーザー相手には俺は封印に集中する事になるかもしれないな。マンティコアだと十秒で切れたり、そもそも数回に一回しかかからないかもしれないし。後はリアナやシーラの攻撃がどれぐらい通用するかだが。


 前戦った感触からすると、二人の攻撃はミノタウロスやドレイクへもかなり効いているようだった。ミノタウロスもドレイクもゴールド級だ。リアナのメイスは相手をよろめかせ、当てた部位を打ち砕き陥没させた。シーラのシャムシールは相手の身体を容易く切り裂いた。


 成長速度からすると才能はリアナよりシーラの方が上なのかな。リアナはレジェンダリー装備の補正もあるし。回避はシーラの方が上手い。今まで一度も被弾していないし。まるで達人の見切りのようだった。俺には無理だな。


 結構時間がたったのでそろそろ帰るかと思った頃、リアナが魔法を発動させた。召喚だ。空中に現れた魔法陣から何かが現れた。ピンク色の髪に光る羽を持った小人の少女がふわふわと浮かんでいる。まるで妖精みたいだな。


「呼ばれるなんて何百年ぶりかしら、あんたたちは何? 冒険者ってやつ?」


「いかにも冒険者だ。そっちはなんなんだ? まるで妖精みたいだが」


「その通り、私は妖精のマギリウスよ。マギーって呼ばれているわ。で、あんた達は?」

 

 それから自己紹介をした。話を聞くと、いつものように妖精たちの住処でおもしろおかしく遊んでいると、召喚用の魔法陣が目の前に現れたらしい。そこで少しは暇を潰せるいい機会かと思い軽い気持ちで飛び込んだそうだ。


「ふぅん。で、何をさせたいわけ?」


「逆に何をしてくれるんだ?」


「幻惑でおちょくったり、落とし穴に落としたり、それから…」


 結構様々な悪辣な事ができるらしい。試しにゴブリンと戦わせると、そのままおもちゃにして遊んでいた。しばらくしてから飽きたと言って、ゴブリンを氷漬けにし、岩を飛ばして粉々にしていた。なんか普通に戦っても強そうだな。


「すごい能力だな。できれば力を貸してくれるとありがたいが」


「お菓子をくれるなら構わないわよ。森で取れる甘味には飽きてきてたの」


「それぐらいなら構わないが。貴族用の高いやつばかり求められると困るかもしれないが」


「そんなに無理は言わないわよ。暇つぶしも兼ねてるしね」


「そうか、それはありがたい。ちなみにどれぐらいこっちに居られるんだ?」


「召喚者が召喚を解除しなければ、召喚者が死なない限りいつまでもいられるわよ。その分召喚者の魔力は召喚に使用した分は回復しないけど」


「そうか、リアナはそれほど魔法が使えるわけじゃない前衛タイプだから大丈夫だと思う。リアナもそれでいいか?」


「構いません」


「じゃあ決まりね。何が食べられるのかしら、昔食べたクッキーは美味しかったわねぇ」


 そんな感じで仲間が増えた。俺やシーラも召喚を使ってみたが、シーラは普通の黒猫、俺はゴブリンだった。シーラは猫と戯れていたが、俺の方は速攻で魔力に還した。ここは美女の精霊とかドラゴンじゃないのかよ。それから少し皆で猫と戯れてから街へ戻った。マギーは自分を猫じゃらしがわりに猫をおちょくっていた。

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