十三話 シーラ


 目の前の少女が必死に食事をしているのを眺める。銀髪のボブカットの美少女だ。眼は薄い緑色。名前はシーラというらしい。額には銀色の石のようなものが埋まっている。


 目の前で倒れられたので心配したが、少女は空腹のあまり倒れていただけだった。今は近くにあったレストランにいる。


 リアナと顔を見合わせ、少女の食事が終わるのを待つ。食べ終えたので話を聞く。


「つまり錬金術の研究にのめり込み過ぎて金を使い果たしていて、しかも借金で奴隷落ちする寸前と」


「そういうこと」


 錬金術師として働く傍ら、迷宮産の魔法薬の再現の研究をして生活していたが、先日父親が亡くなった後に残された多額の借金が発覚。それなりの収入はあったが、とうてい期限までに返せる額ではなく、どうせ借金を返せないなら精一杯まで研究しようと夢中になっていたら、いつのまにか食費すらも無くなっていたそうだ。ちなみに母親は物心ついた頃にはいなかったらしい。


「ちなみに何の研究をしていたんだ?」


「若返りのポーション、蘇生薬、エリクサー」


「とても難易度が高そうな事は分かった」


「お肌をツルツルにするポーションと欠損治療もできる再生のポーションまでは作れたけど」


「お肌ツルツルはともかく欠損治療はすごいな」


「小動物にしか効かないけど」


「そうか。借金はいつまでに払わないといけないんだ?」


「明後日」


「ちなみにいくら?」


「魔銀貨一枚」


「大金だな」


「お金かしてくれない?」


「なくはないが…」


「お金かしてくれたらかわりにあなたの奴隷になる」


「なんで?」


「返せないと奴隷になる契約だけど、あっちは気持ち悪くて嫌。生理的に無理。あなたの方がマシ。ごはんくれたし」


 今は小動物限定とはいえ、一応は再生のポーションが作れるレベルの錬金術師なら将来的にはリターンがあるのか?少女を見つめていると、ふと額の宝石が気になった。


「そういえばその額の宝石みたいなのはなんなの?」


「第三の眼」


「第三の眼って、もしかして三眼族ってやつか?」


「正解」


 さっきちょうど話に聞いた種族だった。驚く。


「未来視とかもできるの?」


「できる」


「例えば誰かが罠に引っかかりそうになったら罠の発動前に止める事とかできる?」


「できるはず」


 あのエルフ女性もできるだろうと言っていたし、信用してもいい気はするが。でもレベルは低いだろうし、迷宮に連れて行ってキマイラやマンティコアの攻撃が掠ったら死にそうなんだよな。パワーレベリングしたり、装備をなんとかしないといけない。リアナの鎧はもうリアナの身体の一部みたいになっているから取り上げるのは可哀想だ。そもそも冒険者としてやっていけるんだろうか。


「鑑定で見た限りあなたはとても腕が立ちそう。奴隷を使い捨てるようにも見えないし。冒険者なら色々素材も入手できそうだし、たまに研究させてくれるなら」


「それはかまわないが」


「よかった。あっちだと金にならない研究はやめろとか言われそうだし。実際失敗だらけ」


 散々悩んだが、結局少女の要望に応える事にした。借金は商人ギルドを仲介して不正がないように契約しているので、商人ギルドへ行って借金を返す手続きをすればギルド証から借金の記載が消え、相手にも借金が返された事が分かるそうだ。


 なのでさっと商人ギルドへ行って手続きを終わらせた。少女が次は奴隷契約をしようと言うので、別にパーティに参加するだけでいいとも言ったのだが、こういう事はきっちりすると強く主張されたので受け入れる事になった。


 自前の隷属魔法を使ってもいいかな、とも思ったが、何処でスクロールを手に入れたんだと言われても困るので正規の手続きをした。


 職員立ち会いの元、ギルドの魔道具を使って不正がないか、本人の意思かが互いに確認された後、運ばれてきたスクロールを使い少女を奴隷にした。スクロールの代金は金貨一枚だった。


 尚、借金での奴隷は返せなかった額に値する働きをしたと認められれば、解放される事もあるとか。特に決まりがある訳ではなく、所有者の良心によるところが大きいらしいが。基本的には奴隷をどう扱おうが罪にはならないので運次第らしい。


 まあ捨て値の奴隷や犯罪奴隷でなければ、それほど使い捨てにはされないらしいが。それに解放されても同じ所有者に雇われたりもするらしい。


 犯罪を犯した奴隷も、時を経て善悪を判断するとかいう魔道具で黒扱いにならなかったら、善行を積んだと判断され解放されたりするらしい。こちらは美談として扱われるとか。


 よくわからないな、悪人正機というやつか。あいにく無宗教で神社や坊主にも縁がない身なので、知識として知っているぐらいである。特に美談とも思わない。それだと最初からずっと善人でいるほうが立派な気もする。山なし落ちなしではつまらないとかだろうか。それなら少し分かるが。


 それらは別として、いずれシーラを解放してもいいかもしれないな。残りたいと言えば面倒は見よう。あと解放はするかもだが、手は出すかもしれない。可愛いし。


 この世界に来て倫理観が欠けてきたというか、モラルが下がった気がするな。元々こんなものだったのだろうか。もう帰れないので気にしないことにした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る