十一話 ワイバーン
次の日の朝、ギルドへ向かう。結局迷宮は今のところ手を出さない事にした。課題が多いからだ。迷宮の中には入らずに、たまにキマイラがいないかを見に行くぐらいでいいかな。
ギルド内に入ると騒然としている。何かあったのか?話し声に耳を澄ます。どうやら西でマンティコアという魔物が出たらしい。これだけ騒がれるという事はかなりの魔物なのか?
受付で適当な依頼がないか聞いてみると、その前にランクの昇格手続きとなった。俺はゴールド、リアナはシルバーである。実績が加味されたとか。
「そういえばなんか西でマンティコアが出たって騒ぎになっているみたいですが」
「はい。どうも、ゴールドの冒険者が三人、シルバーが二人、民間人も五人ほど犠牲になったそうです」
「ゴールドがやられたんですか。どんな魔物なんです?」
「老人のような顔に鋭い牙、ライオンの体、蠍の尾を持った魔物です。氷結、加速、減速、脆弱の魔法を使います。尻尾からは毒針を射出してきます。知能も高いので危険な相手です。野生の動物や植物、他の魔物を食する一般的な魔物ではなく、人肉が好みですので、積極的に人間を狙って姿を現します。プラチナランクの中でも厄介な魔物ですね」
「いろいろ使うんですね。脆弱というのは?」
「防御力を低下させる魔法ですね」
「厄介な相手ですね。例のダンジョンから出てきたんでしょうか」
「その可能性が高いですね。商人や普段護衛依頼を受けているゴールドの冒険者達も二の足を踏んでいますね。物価も上がりそうです。それはそうと依頼ですね。ちょうど今話題にあげた西への護衛依頼がありますがいかがでしょう。他パーティとの合同になりますが」
「合同ですか、あまり大人数で行動したくは無いんですよね」
「そうですか。ユウト様なら西も大丈夫だろうと思ったのですが。では東への護衛依頼はいかがでしょうか。そちらでしたらユウト様のパーティのみで受注できます。基本報酬が金貨5枚、危険手当でもう5枚となります。五日間ほど東に進んだ先にある街です」
護衛依頼を受ける事になった。昼の鐘がなる頃に東門へ集合とのことだ。パンや果物、屋台のシチューや串焼きなど、五日分の食料を買って収納していく。護衛依頼なので転移で街に戻るわけにもいかないしな。テントなんかの野営道具も用意しておく。宿には護衛依頼を受けた旨を伝えておく。
昼になったところで東門に向かうと、それらしき馬車が3台あったので声をかける。
「商人のイーサン様の馬車でしょうか」
「はい、護衛の方でしょうか」
「今回護衛させていただく事になりましたユウトと申します」
「よろしくお願いします。先頭の馬車の御者を勤めますイアンです」
御者とは言うが武装している。護衛も兼ねているのかな。引退した冒険者とかかもしれない。他の馬車で作業をしている者たちも武装している。
しばらくすると商人らしき男がやってきた。
「護衛の冒険者の方ですかな? 私はイーサンと申します」
「私はユウトと申します。こっちはリアナ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。時にユウト様は転移や収納をお使いになるとか、それぞれどれぐらいの性能なのでしょうか」
「そうですね。まだ真昼から日が沈むまで歩いたくらいの距離で同時に二人しか試していませんが、それぐらいなら何回使っても問題ないかと思います。収納は限界が分かりませんが、リザードマン二十体分、キマイラ一体分なんかは軽く入ると思います」
「それは凄いですね。非常時はご協力をよろしくお願いします。通常報酬や危険手当とは別で報酬をお支払いします」
「分かりました」
簡単に、手に負えない事態になった時の段取りを決めた。ついでに聞くと、この一行は高級食品をメインに運んでいくそうだ。貴族向けだろうか。魔道具で劣化を防いでいるらしい。商人ギルドからレンタルしているマジックバッグも一つあるらしく、それはイーサンさんが持っている。
準備ができたのでイーサンさんの乗るらしい箱馬車に乗せてもらう。残りは帆馬車だ。本来は護衛は御者台に別れて乗ったり、帆馬車の後ろに乗ったりするらしいが、魔法で広範囲の索敵ができると言うと、疲労を温存するために箱馬車に乗ってくれとの事だった。中に入ると座り心地のいいソファーがあった。
手続きを済まして街を出る。何度かオオカミが近づいてきたので始末した以外は何も起こらなかった。ゴールドランクの相手ではないので危険手当はでない。他には草を喰む草食動物を見かけたくらいだった。温厚な魔物だったかもしれないが。
日が沈む前に野営の準備をする。テントを設置し、食事の用意をする。といっても買ってきたものを小さなテーブルの上に置くだけだが。
イーサンさん達は焚き火を用意し、何かを煮込んでパンと食べていた。
「ユウト様は商人になれば大儲けできそうですな」
「少し手を出していますが大したコネも知識もないので、あまり本格的にやるつもりはないですね」
「それは勿体無い。まあわざわざ冒険者をなさっているという事は何かご事情もあるのでしょう」
起きている間は索敵が使えるので、自分は深夜の見張りを担当する事になった。後は分担である。しかし、警報装置のようなものがあれば楽だな。
試しにニ立方メートルくらいの範囲を指定し、ゴブリン以上の大きさの生物が侵入したら音を鳴らせないか試してみた。リアナに近づいてもらうと、ビーッビーッとアラームのような音が鳴る。
「それは一体?」
「生物が近づいてきたら音が鳴る魔法を作ってみました。後は寝ている間に維持できるかですが。この野営地を囲むように貼っておきます」
「確か魔道具にそのようなものがありましたな。自力で作成できるとは凄い。ではユウト様の見張の番になったら外から中に入らせてみましょう」
魔法を発動したまま先に休む。意識が薄れていく。
アラームの音で目が覚めた。成功したらしい。見張の交代を告げられる。それから何事もなく過ぎ、次の日の朝になった。
しばらく進むと、事前に聞いていたハーピーやドレイクなんかの生息地に近づいたので警戒を強める。ドレイクはワイバーンやドラゴンよりは格下の、翼のないドラゴンに似た生き物だ。無属性のブレスを吐く。エネルギー衝撃波のようなものだ。
ハーピーは人間の女性の上半身に、手は翼、下半身は鳥で、鉤爪を持っている。たまに人間の男を攫って繁殖に利用するとか。猛禽類のように急降下して襲ってくるらしい。
索敵を発動しながら窓から外を眺めていると、高空から何かが四体ほど飛んでくる。急いで声をかけて馬車を降りる。
あれは、ハーピーだな。聞いていたような見た目だ。ハーピーはこちらに気付いたようだが、特に何もせずそそくさと飛んでいく。面倒がないのはいいな。いや、戦闘経験を積むチャンスだったか。
少しがっかりしていると、ハーピーがやってきた方角から何か大きなものがやってくる。あれはなんだ?と思いながら一応何か来た旨を周囲に伝える。
「あれはワイバーンだ!」
一気に慌ただしくなる。あれがワイバーンなのか。火炎を吐き、尻尾には毒があり、突き刺してくるという。リアナやイーサンさん、周囲の者たち、馬にも各種魔法をかけておく。うん、魔力は問題ないな。
牽制としていくつか魔槍を撃つがかわされる。もっと近づいてからでないとダメだな。
ワイバーンはこちらに近づくと、炎を吐きながら急降下してきた。馬たちがいななきを上げる。魔法で壁を作り出しブレスを防ぐと、身体を翻し尻尾を突き出してくる。尻尾は弾かれたが壁にヒビが入った。再度壁を生成し直す。ワイバーンは羽ばたきながらこちらを伺っている。
商隊のものが魔法を飛ばしたり、矢を射かけているがあまり気にしていない。少しは鬱陶しそうにしているが。
しばらくそうした後、ワイバーンはこちらに首を向けたまま周囲を旋回しだした。マズイ。急いで壁をいくつも設置して周りを覆う。ワイバーンは周囲を回りながらこちらにブレスを吐いてきた。しばらくそのまま回り続ける。一応ある程度は防いでいるが、周囲の気温が上昇していくのを感じる。
火炎耐性があるから問題ないとはいえ、積荷に悪影響が出るかもしれない。早くケリをつけたいな。
しばらく様子を伺うと、ワイバーンはブレスが打ち止めになったらしく、炎を吐くのをやめ、再度その場で羽ばたきながらこちらを伺いだした。良いタイミングだ。転移する。ワイバーンからは死角になる位置だ。
まだ商隊の方を伺っているワイバーンに全力で魔力を注いだ魔槍を撃ちこむ。頭は狙いずらかったので身体の中心を狙った。槍は狙い通りとはいかなかったがワイバーンの翼の付け根を吹き飛ばし、飛んで行った。悲鳴をあげてワイバーンは墜落する。
ワイバーンは地面に落ちてのたうちながら、再びブレスでも吐こうとしているような体勢をとっていたが、そこでリアナが颯爽とメイスを構えて殴りかかり、頭部を弾き飛ばした。しかしワイバーンは再び悲鳴をあげながらも身体を捩って尻尾をリアナに突き出す。リアナはメイスを引き戻し尻尾に当てるが、尻尾から噴き出た毒液らしきものがリアナに降りかかっていた。
再び死角に周り、リアナ相手に尻尾を振り回して躍起になっているワイバーンに向かって全力で魔槍を放つ。リアナに当たらないよう角度は調整した。撃ち出された魔槍はワイバーンの背中から胸元を貫通した。ワイバーンは悲鳴をあげて崩れ落ちる。一応油断できないので動かなくなった頭に魔槍を撃ち込む。死んだか。
近づいて収納を試すと、問題なくワイバーンはその場から消えた。リアナに近づき、浄化と解毒、快癒をかける。毒を浴びていたし、何発か尻尾を貰っていたからだ。
「毒を浴びていたようだが身体は大丈夫か?」
「特に問題はありません」
「一応何か異変を感じたらすぐ言ってくれ」
状態異常耐性の魔法はかけてあるとはいえ、俺がくらったら少し危なかったかもしれない。リアナはチートくさい鎧にも耐性が付与されているし問題なさそうだ。毒が散らばったらしき地面を眺めると、そこだけ生えていた雑草が腐り落ちている。ヒヤッとした。
索敵を使いながら周囲を確認するが、特に問題はなかった。馬が少々興奮している様子だったが宥めすかして出発する。
「まさかワイバーンがこの辺りに湧くとは、生きた心地がしませんでした」
「交易を行う商人も命懸けですね。冒険者よりはマシかも知れませんが」
「このようなことはあまりありませんがな。ルートの危険性を事前に調査し護衛を手配しますので。こちらの所属の者たちもそれなりに自衛はできますし、キマイラやドレイク一体くらいならなんとかなります。しかし危険というのは確かにそうです。その分それなりに儲けられますがね」
その後、ふと思い出したので紙製のトランプを取り出し、三人で暇を潰した。索敵は発動しながらだが。イーサンさんにも売り出す事を一応宣伝しておいた。まあイーサンさんは高級品を扱うようだし、あまり意味はないかもだが。
その後は特筆すべき事は何もなく街についた。
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