四話 武具店 リザードマン
まずは解体用のナイフを買いに行くため武具店に向かう。場所は先程聞いておいた。着いたので中に入ると、様々な装備が並んでいた。カウンターにいる女性に声をかける。耳が少し尖っているし、肌が少し褐色だから、ダークエルフのハーフとかだろうか。
「解体用のナイフを探しているのですが」
「解体用ね」
案内されたので向かうとナイフや短剣等が並んでいる場所についた。
「この五種類から選びな」
どれがいいか分からなかったので、鑑定してみると、こころもち死体限定で切断力が上がる付与が付いた鉄製のものが1500マールだったのでそれにする。等級はコモン(一般品)。
「あんた頭と足には何もつけないのかい?」
「つけた方がいいですかね?」
「そりゃつけた方がいいさ。その服は付与付きのようだから良いが、他は攻撃されたら危ないだろう」
「何か良いのはありますか?」
「予算はどのぐらいだい?」
「それなりにあるので少し高めでも大丈夫です」
「あんたのランクは?」
「シルバーです」
女性はその場から離れ、しばらくしてから装備を持ってやってくる。
「こいつはドレイクの革で出来ている。斬撃にもそれなりに強いし、衝撃吸収の効果がついているから打撃もある程度防げる。30000マールだ」
高っ。まあ命には代えられないし、買うか。防具はこげ茶色で、フライトキャップのような見た目だ。昔の飛行機乗りが使っていたような物に似ている。側頭部から首の横までが垂れた革で覆われている帽子だ。これはぐるりと輪っか状に金属で補強されているし、後頭部にも革が垂れているが。首まで覆えるのは良いな。ランクはアンコモンだ。
「買います」
「じゃあ次はこれだ」
茶色の革製らしき基礎部分に、足のラインに沿って金属で補強されたブーツだ。鑑定してみるとこれもランクはアンコモン、器用さが上昇するようだ。
「足捌きが良くなるよ。ミノタウロスの革にそれなりの合金で補強してあるからある程度は大丈夫なはずさ。こいつは40000マール」
「買います」
この際だから買ってしまう。手痛い出費だが仕方ない。
「装備に金をかける奴は長生きするよ。当たり前の事だがね。半端な娼館通って性病貰いながら金をドブに捨てる奴や、ギャンブルにのめり込む奴よりはね」
「あ、ありがとうございます」
「装備してみな、サイズ補正も付いてるから大丈夫なはずさ」
装備して頭や足を動かしてみるが違和感はない。大丈夫そうだ。
「全く似合わないって訳じゃないが少し浮いてるね。服に合わせて黒くするかい?少しはマシになるはずさ、サービスしとくよ」
「お願いします」
どれぐらいかかるんだろう。下手したら依頼をこなしに行くのは明日になるな。特に期限が短い訳じゃないから大丈夫だが。料金を支払うと女性は装備を持って奥に行き、手ぶらで帰ってくる。
「少し待ってな」
少し、という事なので店内の装備を眺めて暇を潰す。へぇ、鎌なんてのもあるのか。ショーテル並の変な武器だな。十分程装備を眺めていたら声をかけられた。早いな。
「うん。さっきよりはマシだね。着け心地が悪くなったら持ってきな。手入れをするか他の装備を見繕ってやるよ」
「ありがとうございました」
店を出る。他に買うものはあったかな?転移で街に戻れるなら野営をする必要はないし。別にいいか。あ、一応転移が使えるかは試しておくか。街の入り口に転移する。できた。おおっと、いしのなかにいる、とならなくてよかった。まあ転移先が安全かどうかはある程度事前に分かるようになっている。それでも心配したが。
いきなり現れたので少し視線を集めながら門を通り外に出る。身分証を出したからか、外に出るだけだからか、特に通行料はとられなかった。ついでにいつからいつまで通行できるのか聞いたら、日が登ってから沈むまでだそうだ。
これ街の中に入る時に門をスルーして転移したらどうなるんだろう。怒られるか、目をつけられるか。一応控えておくか。後で聞いてみよう。
外に出て気づいたがこっちは西門だった。南に門があるのかは知らないが回り込まなければ。また街に入ると無駄に金がかかるかもしれない。左に進路を向け、外壁のそばを通っていく。途中野営地のようなものがあった。街に入り損ねた人が使うんだろうか。
ぐるっと回っていくと門はあった。西門よりは人通りは少ないな。貰った地図を取り出し見てみる。南に進んで丘を越えたら東に湿地帯があるらしい。行ってみよう。
異世界の風景を眺めながら歩をすすめる。途中で多少は警戒しようと思い、杖を取り出して索敵の魔法を発動しておく。あ、遠くに四足の生き物が数体いる。何人か人もいるな。
距離が近くなってくると、冒険者らしき物たちが狼の群れと戦っていた。すでに何体か倒しているようだし苦戦しているというほどでもない。通り過ぎよう。遊園地のアトラクションを見ているような感じで歩をすすめる。
しばらくすると丘が見えてきた。ようやくだな。空を見ると、大体15時くらいかな。日が沈む前に戻らないといけないのであまり時間がない。ふと思いついたので強化の魔法を使う。身体が軽くなった。走ってみる。少し身体の感覚が変わったのでコケそうになったが、風のように走れる。
東を見ると木々が見えたので近づく。近づくにつれて地面がぬかるんでいるように感じる。森の中に入ってみると、いくつもの沼地がある。植生も少し変わっているようだ。索敵に反応があったので近づくと、泥だらけのイノシシのようなものがいた。話に聞いたマッドボアだろうか。
マッドボアは泥の中に口を突っ込んで何かをしている。こちらが杖を構えるのと同じタイミングでこちらを向いた。
確か体表の泥を硬質化させて鎧にするんだったか。後は泥をそのままかけてきたり、硬質化して礫にして飛ばしてくるとか。案の定、土玉を打ち出してきたので魔法で防ぐ。使うのが初めてだったが上手くいってよかった。先に練習しとけば良かったかな。下手したら命に関わるし。気が緩んでいたんだろうか。ひとまずは防げたのでよしとする。
土玉を防いでいると、焦れたのか土の鎧を纏って突進してきた。真横に転移して避けてから魔槍を撃ち出してみる。少し威力は抑えた。
槍はマッドボアの頭部に命中し、貫通した。ふぅ、なんとかなったか。近づいて、さて、解体するか、と考えたところで収納できないかな、と思いついた。試してみよう。あっさりと収納できた。まだまだ入るんだな。これ、解体用ナイフいらなかったんじゃ・・・。まあおかげで防具を買えたからいいか。それにもう余り入らない可能性もある。その場合は使うかもしれない。
より森の奥に進んでいると、三体の人型が索敵に反応した。冒険者かリザードマンかな。少し足元が歩きづらくなったので魔法で泥を固めながら歩く。少しマシになったな。
近づくとリザードマンだった。人型のトカゲ、手には鋭そうな鉤爪が生えている。鉤爪に突き刺した何かを食べている。お、こちらに気づいた。三体が示し合わせてこちらに一斉に向かってくる。速い。後方に転移し、一番近い一体に魔槍を撃ちこむ。手加減なしだ。槍はリザードマンの頭部を爆散させて遠くに飛んで行った。うわぁ、スプラッタだ。
残りの二体は思わず足を止めた。こちらに恐怖を覚えたらしい。すると、かなりの高音量で警戒音のようなものを発しだした。かまわずに今度は少し手加減して魔槍を撃ち出す。二本同時だ。一本は頭部を貫通し、もう、一本は首にあたり頭部を切断した。
少しズレたようだが上手く行ったようだ。倒れたリザードマンを収納できるか試したら、全部可能だった。まだ入るのか。
あと二体か。いくべきか、いかざるべきか、それが問題だ。考えていると索敵に反応があった。五体、しかも一体は他よりも大きい。危険か?感覚的にはさほど魔力を消耗したようには感じない。これならいざという時はなんとかなるかな。
こちらに向かってくるので待ち構える。一体が視認できたので魔槍を撃ちこむと、頭部を貫通した。すると他のリザードマンはまた警戒音のようなものを発する。なんだ?お、動きが変わったぞ。どうやら木々に隠れながらこちらに向かってくるらしい。それなりに知能はあるんだな。
今度は最大威力で魔槍を打ち込む。魔槍は木を粉砕し、その向こうのリザードマンをしとめた。だいたいで撃ったが当たるものだな。残り三体。また警戒音が聞こえる。動きが早くなった。そしてどうやら三方向から同時に向かってくるようだ。
三方向に向けて魔槍を撃ち出すがなかなか当たらない。マズイ。転移するか、と思ったら二体が姿を見せたので、両方を狙って魔槍を撃ち込む。瞬間、現れた大きな個体が跳躍してこちらに飛んでくる。嘘だろ。いきなりの事に驚いて反射的に後方に飛ぶ。泥を固めるのを忘れていたのでぬかるみにハマって倒れてしまった。
急いで体を起こすと、鉤爪が迫る。グァッ。鉤爪が肩から頭にかけて当たり、吹き飛ばされて再び泥に浸かる。痛い。再び鉤爪が向かってくる前に転移で距離を取る。今度はちゃんと逃げられた。
すごく痛いな。防具は貫通はしていないようだが軽く打撲は負ったかもしれない。首まで覆うタイプで良かった。頭部だけだとちょっと危なかったな。
もうトンズラするべきなのでは、と思いながら確認するとリザードマンは二体になっていた。さっきので一体仕留めたのか。こちらを見たリザードマンが再び姿を隠そうとするので、ふと思いついた事をやってみる。固まれ!
広範囲で泥を硬質化させた。足が泥に浸かっていたリザードマンは一時的にその場で動けなくなった。今だ。先に身体が大きいリザードマンに魔槍を撃ち、仕留める。その後もう一体を仕留めた。ふぅ、なんとかなったな。
増援が来るかもしれないので死体を収納して、さっさと街に転移する。アドレナリンが切れたのか、打たれたところがさらに痛み出したので治癒をかけてみる。痛みは消えていった。
泥だらけだったので、浄化で装備と全身を念入りに綺麗にする。その後コップを取り出し冷えた水を入れ、飲み干す。
空を見ると日が沈む直前のようだ。急いで門に向かう。ギルド証を出し門を通ると、通行料は50マールだった。ついでに門をスルーして街中に転移してもいいか聞いてみた。
「いちいち調べられないから街中に転移されても仕方ない。まあ許可なく人様の建物に侵入したら罪になるがな。特にお貴族様に同じ事をしたら、処刑か、よくて奴隷落ちだな。まあそれなりに金があるところは皆、転移妨害の措置がしてある。貴族は言わずもがなだ。後は転移を使用した可能性が高い犯罪が発生した時は、様々な場所、特に冒険者ギルドや魔術師ギルド、情報屋で転移が使用可能な人物がいないか聞き込み、調査に入る。そんなところだな」
「ご丁寧にありがとうございます。気をつけます」
「転移を使える黒髪の冒険者、覚えたからな。一応報告は上げさせてもらうが、悪く思うな」
まあそうなるよな。街中に転移したら即罪になる、よりはマシだが。
宿に転移し中に入る。ギルドはまだ開いてるかもしれないが疲れたので休みたい。夕食を食べてからさっさと部屋に入り、泥のように眠った。
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