二話 冒険者ギルド


 日の位置から鑑みるに、午後に入って少しといったところのようだ。歩き始める。


 複数の馬車を連れた商隊や、旅人、冒険者らしき者たちとすれ違う。冒険者らしき物たちの中には、トカゲや犬の頭をしたものもいた。実にファンタジー。


 ひたすら歩き続ける。空が夕焼けに染まり出した頃、遠くに建造物のようなものが見えた。ようやく着いたか。近づくと大きな街壁と、門があった。門に近づくと馬車や人で列ができていたので並ぶ。


 しばらく並んでいると話し声が聞こえるが、何を言っているのか分からない。翻訳の魔法を発動しておこう。そういえばあの男性は最初から話が通じたな。魔法を使っていたのか。


「次の者!」


 呼ばれたので向かうと、騎士か兵士のような男が二人いた。一人が声をかけてくる。


「身分証を出せ」


「ありません」


「ふん、では銀貨5枚で500マールだ」


 貰い物の袋に手を入れて探す。硬貨らしきものが入った袋があったので取り出してみる。中を見ると金貨が沢山入っていた。うわぁ。一枚取り出す。


「これで払えますか」


「なに、金貨だと。少し待て」


 金貨を受け取った衛兵が、門の中に歩いて行き、袋を持って帰ってくる。袋を渡されたので受け取る。


「大銀貨9枚と銀貨5枚で9500マールだ。確認しろ」


 中には分厚く大きな銀貨と、五百円玉ぐらいの銀貨が9枚ずつ入っていた。取り出して自前の袋に入れる。


「袋は返せ。それとこれに手を乗せろ」


 魔法陣のような物が書かれた紙だ、スクロールってやつかな。言われるままに手をのせてみる。すると魔法陣は白い光を発生させた。うおっ。


「ふむ、問題ないか。賊の手下が買い出しに使わされたのかと思ったのだがな」


「いやいや、やましいことなんてないですって」


 何故かわからないが怪しかったらしく、魔法で何かをチェックしたようだ。


「もう行ってよい。次の者!」


 門を通り過ぎて街の中に入る。古代ローマ風なのか中世ヨーロッパ風なのか、知識がないのでわからないが、もしかしたらオスマン帝国風とかかもしれない。見慣れない外国風の建物が並ぶ。


 通りを見ると、あまり汚れていない。昔のフランスなんかは糞尿だらけだったとは昔本で読んだから少し警戒していたが。掃除夫でもいるのかな。魔法で綺麗にしてたりとか。


 あの人も冒険者を勧めていたし、ひとまず冒険者ギルドへ行ってみなくては、おそらくそこで身分証を発行できるだろう。しかし場所がわからないな。串焼きを売っている屋台があったので近寄る。


 一本5マールという値段の串焼きを3本注文して、ギルドの場所を聞いてみる。交差した剣と杖のシンボルがあるらしく、大体の場所を聞いた。支払いには銀貨を出してみた。おそらく銀貨が1枚100マールだろう。


 屋台のおじさんは少し面倒臭そうにしながらお釣りを渡してくれた。大きく分厚い銅貨が8枚に、小さな銅貨が5枚。串焼きは何の肉かわからないがジューシーで香辛料が効いていてかなりの味だった。喉が渇いたので近くでジュースも買って飲んだ。酸味が強かった。


 異世界らしい色んな種族を横目に見ながら街を進む。ギルドらしき大きな建物が見えてきた。武具を身につけた者たちが出入りしている。近寄ってみると話に聞いたシンボルがか正面にあった。中に入る。


 酒場と市役所が合体したような施設だ。酒場のようなところでは冒険者が思い思いに酒を飲み、食事をしている。


「割りのいい護衛依頼だったなぁ!」


「近くにまた迷宮が沸いたって話だぜ」


「俺がミノタウロスを仕留めた時なんてなぁ!」


 いかにも冒険者って感じだ。憧れる。酒場を横目に見ながら、空いてる受付に向かう。受付には品の良さそうな中年の女性がいた。


「あの、冒険者登録をしにきたのですが」


「はい、ご登録ですね。では初めに冒険者ギルドの制度についてご説明しますね」


 長々と説明されたがざっくり言ってしまえばファンタジーによくある冒険者ギルドだ。クエストを受けて達成すると報酬を得られる。ランク毎に受けられるクエストが変わる。薬草なんかを採取してきたり、魔物を倒してきたら素材を買い取ってもらえる。


 税金は依頼料や素材の買取額から天引きされているらしい。後は建前上私闘を禁止しているとか。非常時には半強制的に依頼を受けさせられるという話もあった。断れるが、ランクは降格されるらしい。他には罰金の話や、依頼を長い事受けていないと評価が下がるとか、細々とした話があった。


「登録には1000マールかかりますがよろしいですか?」


「大丈夫です」


 大銀貨を取り出し渡す。女性は側にあった箱から魔法陣が描かれたスクロールを取り出す。門で触ったものに似ているな。紙とペンとインクも用意された。


「では失礼しますね」


 女性がこちらを見ながらスクロールに触れると、ほのかに光が発生する。こちらは門と違い光がすぐに消えず、発光したままだ。女性はこちらを何度か見ながらスラスラと手元の紙に筆を進める。


「お名前はユウト様。種族は人間。魔法使いとしての能力が非常に高い、と。どういった魔法をお使いなられますか?」


 こちらを見ながら鑑定の魔法のようなものを使っているのだろうか。聞かれたので説明する。一応隷属の魔法だけは省いたが。なんか犯罪チックだし。


「ははぁ、まだお若いように見えますが凄いですね。使える魔法の需要を考えると、どのパーティからも引っ張りだこになりそうです。もしかして宮廷魔導師の庶子だったり…あ、詮索してすいません。聞いちゃいけないですよね」


「いえ、大丈夫です」


「おそらくランクは最低でもシルバーになるかと思います。審査の結果次第なので確実な事は言えませんが。ギルド証の受け取りは、明日の昼以降にこちらの整理券をお持ちください。本日は以上です。ご登録ありがとうございました」


「あの、実は街に来たばかりで。おすすめの宿はありませんか?」


「そうですね。いくつかありますが、女性冒険者からも評判のいい、春の湊亭がオススメです。地図を書きますね」


「ありがとうございます」


「ここがギルドで、こっちが春の湊亭です。ああ、それと、最近スリが多いようなので、お気をつけください」


 地図を受け取り礼を言う。そういえばサンタクロースのように袋を持っているが、スリにあったら危ないな。収納しておこう。無事収納できた。


 ギルドを出て地図を見ながら宿に向かう。春の湊亭、ここか。宿の前には花が植えられた植木鉢が並んでいる。おしゃれなとこだな。扉を開ける。カランカランとベルがなる。


「いらっしゃいませ、ご宿泊ですか?」


 少女が近づいて声をかけてくる。可愛い。看板娘ってやつかな。


「はい、とりあえず3日ほどお願いしたいのですが」


「お一人様なら一泊150マール、三日で450マールですね。朝食は朝の鐘がなってから昼の鐘が鳴るまで、夕食は夕方の鐘が鳴ってから夜の鐘が鳴るまで。お湯は深夜以外なら5マールで利用できます。ランタンも貸し出しています。油は空の状態から満タンにするなら15マール。トイレはあっちです。男性用と女性用があるので気をつけてくださいね」


「わかりました」


 カウンターに移動して手続きをする。名前をつげ、料金を支払うと鍵を渡される。


「205号室の鍵です。もう夕食は食べられますがどうされます?」


「いただきます。その後にお湯とランタンを頼みます。あ、後拭くための布か何かありませんか」


「ありますよ。一枚10マールです。用意しておきますね。ではこちらにどうぞ」


 食堂に案内される。女性客が多いな。少し待つと、食事が運ばれてきた。パン、具沢山のスープ、サラダ、ソーセージ、タルトのような菓子、木製のジョッキに入った飲み物。


 食事を始める。パンは少し硬いが食えなくはない。スープも美味しい。ソーセージは、凄い。スーパーで売ってるレベルじゃない。サラダも新鮮だな。ひと息ついて飲み物を手に取る。ん、これ酒だ。蜂蜜の味がする。ミードというやつか。


 菓子以外は食べ終えたので、菓子にとりかかる。おお、これは美味い。果実の甘みと蜂蜜が練り込まれた生地のバランスが際立っている。ふぅー、ひとごこちついた。


「ミードのおかわりはいかがですか」


「それはいいや、水はあるかな?」


「水ですか?」


 少女が手をかざすと、目の前に水が発生し、チョロチョロと空のジョッキに注ぎ込まれる。


「魔法、か」


「できない人もいますからね。必要になればお声がけください」


「いや、できないわけじゃないんだ」


 ジョッキを手に取り冷やしてみる。内部の熱を奪い去るイメージ。できたかな。


「飲んでみて」


「? あ、すごい、すごく冷たいですね!」


 ジョッキを受け取り喉を潤す。うん、キンッキンに冷えてるな。


「どうやったんですか?」


「内部の熱を奪い去るイメージかな。科学的には熱を他に移動させるんだろうけど。雪とか氷の冷たさをイメージしてもいいかも」


「熱を奪う、科学的?ですか。ありがとうございます。練習してみます」


「こちらこそ、しばらく魔法を使ってなかったもんだから使い方を忘れてたんだ。ようやく思い出せたよ」


 食事を終えたのでタオルを受け取り、お湯が入った桶を持って部屋に向かう。冷やせるんなら逆も可能だろうし、入れ物さえ用意すればお湯をもらう必要もないかな。


 部屋に入り桶を置く。清潔感がある部屋だな。ベッドも確認するが、寝心地も悪くなさそうだ。


 服を脱いでお湯で体を拭く。そうだ、服も買わないとな。汗で汚れている服をまた着るハメになったか。あ、いやあれがあった。


 服に向けて浄化の魔法を発動する。確認すると、洗濯して干し終わった後のようだ。自分の身体にも使ってみる。お湯で拭くよりもさっぱりしたような気がする。まあ暖かい水で拭くのは心地よかったのだが。あ、タオルも浄化しておくか。


 服を着て、桶を返しにいってベッドに転がり、今日一日の事を考える。異世界か。あまり実感が湧かない。あの赤髪さんに合わなければ野垂れ死にしていたかもしれない。


 元の世界には戻れるのかな。すぐに戻らないと仕事はクビになるだろうな。天涯孤独の身だし、たいした知り合いもいないから、ここでやっていけるならそれでもいいのだが。


 そういえば貰った袋にはお金意外にも色々入れたと言っていたような。今日はもう疲れたから明日確認するか。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る