第14話

広い廊下に残された私と入山くんは、オフィスに向かって一緒に歩き出す。




「入山…くん?なんか緊張するね。」



「…別に」



全くこちらを見ずに、辛うじての返事だ。





反応は思わしくないものだけれど、気にせず、右手を差し出して、とびきり笑顔でご挨拶。





「私、高梨心愛。唯一の同期、よろしくね」



「…」





はい、無視か。



なんだか、雰囲気から見て私のこときらいっぽい。なぜかはわからないけど。




「入山くん、下の名前は?」


「…」



なんだ。なんだ。




「無視かー、人見知りかなー?

大丈夫ー、ぼくー?」



「……っ」




迷子の子に話しかけるごとく、大卒男に話しかける。もちろん入山くんは眉間にシワをよせ、尚更の警戒体制を作った。



どうだ、喋らざるを得ないだろう。

どやどや。



得意顔で見上げると、予想通り返事が帰ってきた。




「無視だよ。うぜーな、健斗だよ、入山健斗。」



これ以上会話をするのが嫌なのか、すんなり教えてくれた名前。




「健斗くん、入山健斗くんね!

じゃあ、健ちゃんって呼びまーす。」



「は?」




怪訝な顔の彼に、とびきり笑顔で



「私はここちゃんで良いよ?仲良くしよーよ、健ちゃん!」



とか、ふざけたら。



ビックリするくらい残酷なため息のあとに、なにかボソリと呟いた。




「俺、こんなやつに負けたんだ。最悪」



「んー?なんて言った…」



聞こえたけどね。



「あーもう、結構です。早くオフィス入りましょう。」




ほー、急に敬語。

嫌われたなー、私。でも、是が非でも仲良くならなければ!


ふんっ、と鼻息を荒くして、気合いをいれる。





…だって、同じ仕事するんだったらやっぱり仲いいほうが良いじゃない?






「高梨さん、早くしてください。一緒に入らないとなにかと面倒なので。」



「あ、はーい。」



苛立ちを見せる彼の背中を、苦く笑って追いかけた。




ま、今のところ、


健ちゃんとお友達作戦は長期プラン...っと。

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