第14話
掲げた拳を掴んだ大きな掌。細っこいと思っていたのに案外力強くて驚いた。
喚く余裕も無くなって、爆音で鳴る心臓に泣きたくなりながら……そんな弱い自分はやっぱり見せたくなくて目を逸らす。
「手、出さないんじゃないの」
「寝てるお前には断じて手ぇ出してない。でも、誰も出さないとは言ってない」
「は?」
「……変態、獣、最低。散々言ってくれたな、お前」
「なっ、」
「これから結婚するって相手に随分な言い草だ」
「……」
ベッドの縁に座っていたはずの海里はいつの間にかシーツの上に膝を立てていた。後ずさってもベッドボードに背が当たって逃げ場がない。
「顔、熱いけど……熱ではなさそう」
「かい、り……あの、」
「じゃ、いいよな。お前の純潔もらって」
「は?……んぅ?!!」
頬に触れた指先がさらりと横髪を掻き上げた刹那、25年間、誰も触れたことのない唇に柔らかな感触が触れた。
手練れのスピードに呆気に取られるど素人。頭が現状を把握しないうちにクイっと顎を上げられて、温い舌が口内に侵入した。
「んぅ、……んんっ!」
「はは、下手くそ」
ほんの少し唇が離れた瞬間、馬鹿にしたように笑う海里の声色は楽しそうに弾んでいた。
何これ、意味がわからない。何が起こっているんだ。
頭の中で、これは夢なのではないかと考えるたび、決して夢では味わえないリアルな感覚に引き戻される。
口内を我が物顔で蹂躙する彼の舌。嫌なはずなのに、頭がぼうっとして抗えない。
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