第3話

「匡、…熱い。」



「その熱をねだったのは莉音さんなのに」



「…うるさい、私に文句言うつもり?」



「いえ、そんな。滅相もない。」




わざと顔を顰めて睨み上げれば、目を細めて、ゴツゴツした男らしい手が子供を嗜めるように繊細に私の髪をすく。



「ちょっと意地悪でしたね。お嬢の言うことは絶対、ですから…何なりと?」



「…」



ちゅ、っと頬に触れる可愛いキスは、お子様扱いで嫌なのに。こんな小さなことにもときめく私の心臓は、弄ばれて可哀想。



甘やかされて、大事にされて…それがこいつの仕事だと分かっていても、私はこの時間が大好きで仕方がないし、ないと生きていけない。



「匡…熱いってば、」



「ん、それで…?」



「ねぇ、…分かってるでしょ?」



「さあ、間違えてお嬢に失礼なことをしたら困りますから」



「…」



いじけて突き出した唇を親指でなぞって、意地悪に口角の上がった彼の口は…



「ほら、…命令は、ちゃんと言葉にしてください?」



「…」



今日も従順に私からの命令の言葉を待つ。




ずるい人。絶対に自分からは動かない。あくまでも彼は、自分の意思ではなく、私の意志で動き、自分のしたいことではなく…私を喜ばせることに徹するのだ。



いくら彼から求められたいと願っても…、彼は私の求めるものに応えるだけ。




悲しい、悔しい、…でも、…だけど。






「ねぇ、匡…、触って?」





我慢の効かない私は、今日も青い瞳に目掛けてねだる。



甘い声色でお願いすれば…匡は昔から断れないことを知っている。




予想通り、「仕方ないですねぇ、」とネクタイを緩めた彼は…




「その代わり、声は我慢…ですからね?」



「…、」



「運転手に聞かせるわけにいかないでしょ…」




ゆっくりと私を押し倒し、重く響くエンジン音が背中に近づいた。





首筋に歯を立てられて…。

際限なく湧き上がる欲望の渦に溺れた私は、車内であることも忘れて、もっともっと…と彼を求めた。



そして、彼もまた、求められるがままに私に快楽を与え続け…二人同時に果てた時。

…彼は私の命令を遂行した。

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