第6話
本当はもっと言い返したかった。
…でも、会社には入所当時からお世話になっているし…、期待してもらっていて、私を売り出すために沢山お金を使ってくれていることも知っている。
木嶋さんだって言葉は冷たいけど、いつも完璧なスケジュール管理で私が何不自由なく働ける環境を整えてくれているわけだし。
私に拒否権なんてないのは分かってた。私は与えてもらったお仕事を精一杯するだけ。
…でも、せめて…
雑誌のお仕事だけは続けさせて欲しかったな…、なんて。…往生際が悪すぎるかな?
女優のお仕事が嫌いなわけではない。
…ただ、苦手なのだ。
演技レッスンを頑張って、台本を読み込んでセリフを覚えて…。やらなきゃいけないことは精一杯やった。
そのおかげで、視聴者さんには「原作のヒロインそのもの!」とか、「ヒロインに共感した!」という声をいただけたし、
出演作の監督さんからは「美波ちゃんを起用してよかった」って言ってもらえて。
嬉しかった。…嬉しかったんだけど…。
ただレッスンを受けたとおり…“上手”に演技しようとしていた私には…どんな賞賛も…素直に喜ぶことはできなかった。
自分が体験したことのないことを表現するのはすごく難しいことで…
なんとなく【こんな感じだろう】で演技している私は…カメラの前で“嘘”をついているような気がして褒められるたびに罪悪感を感じてしまうのだ。
もちろん、私の演技に対する評価は決して良いものばかりではなく…、
「どの役演じても愛田美波にしか見えない」とか、「ビジュアル再現度は高いけど演技で台無し」とか…
そんな意見を見るたびに落ち込むけど…「だよね、私、女優じゃなくて“モデル”だし」って…少しホッとする自分もいたりした。
ヒロインが恋に落ちる表情、照れる表情、ドキッとする表情。
そんなの…私には分からない。
分からないから…嘘をついて、分かったつもりで演技するしかないんだもん。
愛田美波。22歳。
職業、モデル兼…烏滸がましいけれど一応…女優もしていたりします。
が、しかし…
近々、女優一本になるかもしれません…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます