9

司会進行の声が遠くに聞こえる。何処かおかしい。先程まではなんとも無かったのに……。嫌に汗が出る。気分が悪い。今にも何かを吐き出したくなるような、胃から戻って来るような。手が震えて動悸もしてきた。ハァハァと息を荒げると、彼女が俺に気づいた。


「ねぇ、大丈夫……?顔色わるいわよ?」


小声で話しかけてくる彼女に心配させまいと、口を開いた途端。


ゴボッ!


出たのは言葉よりも血液だった。


「きゃああああああ!!!!」


彼女の悲鳴に周りの視線が此方に向う。すぐさま駆け付ける親族と式場関係者、彼女は取り乱し泣いていた。その場に倒れ込んだ俺の目に映ったのは、周りを囲う人々よりも目の前に落ちていたサプリメントだった。


あぁ。


そうか。


してやられた。


朦朧とする意識の中、空いていた弟の席が目に入ると、昔に買ってやった玩具の指輪を見せつけてイタズラに微笑む赤いワンピースを着た弟がいた。


「ハハ、しょうがない…なぁ……ホントに、お前は、、、」






【病める時も、健やかなる時も──────】






死の間際、全ての荷が下りた様な気がして、俺は笑いながら瞼を閉じた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヤメルトキモ 冬生まれ @snowbirthday

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ