キス
金髪の髪を揺らし、クスッと微笑むのは莉羅だ。
表の姿は学生で、隠された姿はアイドル……そんな同級生の彼女が今、目の前に立って俺を見つめていた。
「正人を見かけて声をかけようとしたんだよ? そしたらさっきの暗がりに入って行って、そこで女の子を助けてたね」
「……全部見てたのか」
「だから言ったじゃん。全部ってさ」
そ、それじゃあ……あの恥ずかしい台詞も全部!?
まさか見られているとは思わなかっただけに、急激に恥ずかしくなって俯いてしまった。
「でもあくまで見てただけ。だから何を言ってたかは分からないよ」
「……そか」
なんだ……なら良いかと少しホッとした。
とはいえこうして誰かを助ける瞬間を見られたのは確か、母さん以来だったかな?
ずっと俺を見上げて微笑んでいた莉羅だったが、あっと声を出して俺の背後を見た。
「?」
それに釣られて振り向くと、暗がりから出てきたのはさっきの女の子。
彼女は辺りをチラチラと見回し、何かを探すようにしながら駆け足で離れて行った。
「あれ……もしかして俺を探してたのかな」
「そうじゃない? 誰だってあんな所を助けられたら気にもなるでしょ。あたしだってそう……まだ彼氏のことが分かってなかったのに、君が気になって仕方なかったんだから」
「っ……」
気になって仕方なかった、その言葉に強く肩が震えた。
今までの俺ならそれを聞いても嬉しいくらいにしか思わなかったはずなのに、瑠奈との会話が経たこともあって別の意味にも聞こえてしまった。
瑠奈があんな行動をした以前に、莉羅も俺と距離が近かった。
無理やりに俺を女の子に慣れるためしてくれているんだと思い込んだけど、たかがそれだけのためにあんなことを普通はしないはずだから。
「ねえ、ちょっとこっちに来てよ」
「お、おい!?」
女の子にしては強い力に驚く間もなく、莉羅に手を引かれた。
とはいえどこかに連れて行こうという意図はないらしく、近くのベンチへと無理やりに座らせられた。
「莉羅……?」
「あのさ、今から話をしたいと思ったからこうしたんだけど。もしかして用事とかあった?」
「いや特には……後はもう帰るだけだったから」
「なら良かった。まあ話したいことってのはもちろん瑠奈のこと……さっきまで瑠奈の家に居たんでしょ?」
「……おう」
莉羅の質問に淡々と頷く。
これに関しては既に彼女は知っていることなので、別に隠したり誤魔化したりもする必要はない。
「何があったのか聞くのを野暮だとは言わないでね? 正人のことは気になっちゃうし、たぶんあの子も隠してとは言ってないでしょ?」
「それはまあ……な」
それに関しては、瑠奈にも隠してとは言われていない。
あの様子だと今日の夜にでも莉羅に連絡くらいはしていそうだが……それよりも早く、こうして偶然に俺は莉羅と出会ったわけだ。
それでも内容が内容なだけに、スラスラと言葉は出てこなかったが、全てを見透かしていると言わんばかりに莉羅は口を開いた。
「さっき肩を震わせたよね? あの反応である程度分かったんだけど、うちに来た時以上に意識したでしょ?」
「えっと……」
「あたしのこと、意識したでしょ?」
その問いかけに、俺は思案する余地もなく頷いた。
全くもってその通りだったのもあるが、隠したところで莉羅にはすぐにバレてしまう……何となくそれは分かっていたからだ。
「素直だねぇ♪ でもその反応ですぐに分かったよ――きっと瑠奈が気持ちを伝えるくらいはしたんじゃないかってね」
「……………」
「やっぱりかぁ。少し意外だけどねぇ……何だかんだ、元カレとのことがあったばかりだしすぐはないと思ってたから」
そこまで言って莉羅は立ち上がった。
そして俺の正面に立った彼女は、ゆっくりと俺の太ももの上に跨るようにして座った。
「ちょ、莉羅!?」
「ふふっ♪」
ガシッと足も腰へと回すようにしてきたので、完全に逃げられない。
周りに沢山の視線があるというのに一切それを気にした様子がない莉羅は、真剣でもありながら微笑んでいるようにも見える綺麗な表情でこう言ったんだ。
「あたしも君のこと、大好きなんだよね。これは恋……間違いなく、君に向けた純粋なまでの好意だよ」
「……莉羅」
莉羅から向けられた言葉に、俺はやっぱりかという気持ちだった。
冷静に考えて今までのやり取りに好意が介在しないわけがなく、瑠奈と同じように莉羅も俺のことを好きになって……くれてたってことだ。
「助けられて、君じゃないかって近付いて……そこからもうあたしは正人のことしか見えてないんだよ。正人はあたしの救世主……あたしの全てを守ってくれた人だから」
「……大袈裟だよ、俺は――」
「大袈裟なんかじゃないよ」
耳元で囁かれ、さっきよりも体が震えた。
「大袈裟なんかじゃない……君を好きになったのは必然だった。あたしが危ない目に遭ったのも全部、君に出会うためだったんだって思うくらいなんだから」
「……………」
「色々、想像したんだよね。君とのことを考えると体が熱くなって、もっともっと君と一緒に居たいって思うようになった……自分でもビックリするくらい重いなって思うけど、でもそれが何だって言うの? 誰かを好きな気持ちなんて重いくらいがちょうど良いんだから」
正直、好きと言われるのは嬉しいことだ。
相手が自分にとってどうでも良いなら話は別だが、仲良くなって……しかもその相手が超絶美人となれば、嬉しくないわけがない……これに関しても瑠奈と全く同じ気持ちだ。
しかしやっぱり、今の俺にとってはあまりにも何をどうすれば良いのか分からない状況であるのは変わらない。
「あたしが言うのもアレだけど、正人はとても大変な立場だと思うよ。それもこれも、あたしたちに好かれちゃったせい」
「……悪いこととは、思ってないけどな」
「悪いと思われちゃったら悲しいし、そう言ってくれるのは嬉しい。だからね? あたしたちが取れる選択って、ハッキリと君をあたしたちに夢中になってもらうことなんだよ。きっと瑠奈もそう言ったんじゃない?」
俺は頷いた。
「これからも仲良くしつつ、それでいて仲を深めていく……だからこれからよろしくね正人――あたしに夢中にさせてあげるから。いつものあたしも、アイドルとしてのあたしも全部君のモノ……だから君の全部、あたしがもらえる日を楽しみにしてるからね」
それはもはや、圧倒という言葉がピッタリだった。
この状況が俺にとってすぐにどうこう出来るものではないことを分かっていると言いつつも、こちらの逃げ道を封じてくる言葉……そして畳みかけるような終わりの宣言。
これ……本当に言われているのは俺なのか?
ボーッとした自分の間抜けな表情は、莉羅の瞳を通してそれが俺だと嫌でも実感させられる。
「だからさ、一旦まずはあたしを意識してもらおっか」
「え?」
ニヤリと笑った莉羅は、そのまま顔を近付けてきた。
時の流れが遅くなったと錯覚してしまうほどに、あまりにもゆっくりに彼女の顔は近付いてくる。
「莉羅――」
「ぅん……っ」
逃げるのは、当然無理だった。
彼女の足は俺に絡みつき、腕も首の後ろに回され、豊満な弾力も胸元にこれでもかと押し付けられ……俺の体の全てが莉羅を感じていた。
そして今、彼女の唇が俺の唇に触れていた。
それは間違いなくキスと呼ばれる行為だと、俺はぼんやりとした頭で理解するのだった。
“奪われる存在であるのなら、自らの傍に置けば良い。そうすることで絶対に奪われないよう、守れば良い……それで全てが解決するのだ”
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