一難去ってまた一難
「……なんつう一日だったんだ」
今日は、あまりにも濃い一日だった。
何が濃かったかと問われれば、その答えはもちろん瑠奈と麗奈さんとのやり取り……マジかよと今でも信じられないが、これは紛れもない現実である。
「……好き……か」
瑠奈に告白された……好きだと。
これからも普通にしていい……その代わりに、夢中になってもらえるようにとことん攻めるとも言われた。
彼女の瞳には確かな決意と……何だろうな――執着のような物を感じたけど、まさか俺がそんな立場になるとは思いもしなかった。
「……なんつうか、これからどうすりゃええんやろな」
あまりの事態に、口調までおかしくなる始末ですよこりゃ。
「……うん?」
後少しで家が見えてくると行った所、ネトラセンサーが反応した。
その音を聞いた瞬間、一旦悩みを忘れるようにして体が動く……そりゃそうだ。
こうして悩むことも大事ではあるが、こいつが反応したってことはゲス野郎……ゲス女かもしれないがそれが現れたことに他ならないのだから。
「今行くぜ!」
そうして俺は、スマホの反応した場所へと急ぐのだった。
反応した場所は完全に家から逆方向で、随分と長く激しく走ったはずなのに体の疲れはそこまでだ。
このネトラセンサーに従って体を動かす時、やはり自分でも不思議なほど超人的な力を得ているように思えるな。
「見つけた」
まだ会話は聞こえてこないが、今の俺にはそれが現場だと分かった。
キッチリと制服を着こなした女子……うちとは違う高校の女子が、三人の体格が良い男子を前にしている。
少しずつ近付き、その会話が聞き取れる位置までやってきた。
「ふざけないで! あなたたちのせいで彼は学校に来たくないって……そう言ってるのよ!?」
「知らねえよ。つうかあんなヒョロガリのためにここまですんのか?」
「そういやお前ら、付き合ってんだっけ?」
これは……なるほど、イジメみたいな感じか?
「……なんだ? 凄く見覚えがあるな」
NTR……俺はそれが嫌いだ。
だがしかし、怖い物見たさもあるが何より絵柄も良くて見てしまうというのは、まあ今までに何度か語ったことだ。
だからこそこの後の展開が容易に想像出来た。
「そうだなぁ……あいつに手を出さないでおいてやろうか?」
「本当に……?」
「あぁ――お前が俺たちの玩具になってくれたらな」
「……はっ?」
はい来ましたこのパターンが!!
俺の脳裏に浮かんだのはよくあるやつぅ!
彼氏の身を守るために身代わりになる彼女……寝取られ漫画の導入としてはよくあるパターンだが、奴らの口にした玩具という言葉……それが意味するのは間違いなく俺の想像通りの物だろう。
「もし……もしあなたたちの言うことを聞けば、彼に手は出さないの?」
「おうよ。でも俺たちの言うことは聞いてもらうぜ?」
「くっくっく、胸もでけえし美人だしで言うことなしだ」
「おら、さっさとついてこい」
下劣に笑う男三人に、彼女は戸惑いを見せた。
こういう場合において素直に付いていくというのは考えなしだが、いくら守るためとはいえ迷いを見せるのは人として当然の反応であり、彼女がちゃんと漫画に登場し決まった行動をするキャラではない証でもあった。
「おいおい、彼氏を助けたいんじゃねえのかよ」
「ひっ!?」
男の手が女子の肩に触れた……あぁうん。
やっぱりその反応が当然というか、いくら彼氏を守るためとはいえおりこうに股を開くのはやっぱり漫画だけってか。
あの子もある程度は想像出来ていたにせよ、体を目的にされるとは本気で思っていなかった感じかな。
「……まあ良い、行くしかねえ」
ネトラセンサーの効力が発動しているのを感じつつ、この場面を収束に導くため俺は彼らの元に向かった。
「……あん?」
「誰だ?」
男二人が気付き、残りの男と彼女もこちらに気付いた。
そこでやっと彼女の顔を見れたのだが、これまた随分と美人さんで彼氏がとてつもなく羨ましく思えるほど……とはいえ瑠奈とのやり取りがあった今となっては羨ましいと言うのも変な話だな。
「通りすがりのヒーローだ。覚えておかなくてもいい」
なんて……これはちょっとかっこ付けすぎたかもしれん。
ただ俺の予想に反して彼らはこちらを最大限に警戒……というより見るからにビビリ散らかしているというか、化け物でも見るような目をしていやがる。
「な、なんだてめえは……っ!」
「化け物……!? く、くるんじゃねえええええ!!」
「うわああああああああっ!」
男の一人に関しては逃げ出す始末……これはあれだ。
以前に母さんを助ける際にも似たようなことはあったが……まあそんなことはどうでもいい――今日もまた俺は、一つの悪い出来事をなかったことにするだけだ。
「とっとと失せろ、そんで二度とその子とその彼氏に手を出すようなことはするな。さもなければ――」
「う、うおおおおおおおおおおおっ!!」
いつものように脅しをかけようとしたが、一人が突っ込んできた。
近くの鉄パイプを手に向かってきたがその動きは酷く緩慢で、その足を引っかけて転ばせた。
……ほんと、何がどうなってんだか。
転んだ男に視線を合わせるようにしゃがみ、最後だと伝えた。
「もし何かしてみろ――お前の枕元に立って、一生呪いの呪詛でも吐き続けてやる」
「あ……うああああああああああっ!」
そうして男は一目散に逃げて行った。
最初に逃げた男と合わせてもう一人も既に逃げており、残っていた男も今ので居なくなってしまった。
今までの経験上、これで大丈夫なはずだが……一応彼女にも言っておくとするか。
「アンタ」
「は、はい!」
あぁうん……分かってたけどめっちゃビビられてる。
「アンタが悪いとは言わないが、たとえ彼氏のためとはいえあんな自分を犠牲にするやり方はやめろ。もしそれで取り返しが付かなくなった場合、更にそれが彼氏を苦しませることになる」
「で、でも……」
「もちろんそのやり方を否定するつもりはない。アンタがやろうとしたことは間違いであり正しいこと……大切な誰かを守りたいと考えての行動は非難されるべきことじゃない」
でもまあ、その行き着く先って結局誰も幸せにならないからな。
なるとすれば全部が思い通りに行くあの男たちで、やっぱりああいう間男というかそういう連中は痛い目に遭った方が絶対良いに決まってる。
「……あっ」
「おっと」
そこで緊張の糸が切れたらしく、彼女は足元をふらつかせた。
それに気付いてすぐ近付いて抱き留めたけど……この子、こうして近くで見たら分かったけどたぶんハーフだ。
目の色とか明らかに日本人のそれじゃないし。
「もっと周りを頼るべきだ、それこそ親とかな」
「……ありがとうございます」
「おう、良いってことよ」
これでもう大丈夫か、そう思うと思わず笑みが零れた。
しかし笑った俺を彼女はポカンと見つめており、不思議な物でも見たかのような表情だ。
「どうした?」
「……ううん、凄く恐ろしいと思ったのに……笑った顔は全然普通で、それが不思議に思って」
「ふ~ん? まあ良い、とにもかくにもあんなことはもうしないことだ」
「……………」
「しっかし、分かってたとはいえ事件続きだな」
「え?」
「男に強姦されかけるわ、その母親はストーカーに襲われかけるわ、アイドルは寝取らせ被害に遭うわでやれやれだぜ」
「え、えぇ……?」
おっと口が滑っちまった。
もうこの子は大丈夫だろうということで別れたのだが、最後の最後まで俺にお礼がしたいと言っていたけどどうにか逃げた。
「お礼が欲しくてやってんじゃねえっての」
そう、俺は礼が欲しくてやったわけじゃない。
でもこうやって助けられるという行為は気持ちが良い……そんな最高の気分のまま、改めて家に帰ろうとしたその瞬間だった。
「やっほ、正人」
「っ!?」
……え?
聞き覚えのある声に振り向くと、そこに居たのはやっぱり彼女――莉羅だった。
「見てたよ」
「え?」
「ずっと見てた」
……何をどこまで?
そう思わずには居られなかったが……この状況においてその言葉に得体の知れない恐怖を覚えるのも仕方のないことだった。
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