5-2:戴天
勝手に頭を覗く形になって彼女には悪いけど、朝からフィルターを解除したままチャンネルを開けといてほんと良かった。
私の友達も、そうだそうだと私の頭をガンガンぶん殴ってくれてる。そうでしょうそうでしょう。
ほんと流石だ。やはり彼女は凄くてずるい。一発で一足飛びに核心的な情報をもたらしてくれる。
「『察知』さんが手掛かりを見つけました。今からこっちに来ようとしてます」
「いつ来る」
「1時間後くらいですね」
「思ったより近いな」
「それとなく連絡して打ち合わせをしておいてほしい」
「わかりました」
ようやく進展して、スミレさんも、どことなく元気になったようにみえる。
よし。これでようやく私たちも先に進めそうだ。
二人は『察知』さんと『熱気』さんと合流し、現場に向かうこととなった。
スミレさんが三人の魔法少女を愛車のハイエースに乗せて走っていく。
……変な意味はない。うん。
今回、私はお留守番だ。あのあと急に細々した情報が増えてきたからまとめなきゃいけないし。
戦えない二人の護衛としては『熱気』さんが十分すぎるくらい有能だから問題ない。
彼女は歩くサーモセンサーだからね。下手したら私より護衛性能は高いかもしれない。
さて、仕事をしなきゃな。
……。
……。
……。
「やあ」
……?
「はじめまして」
「!?」
ここは私の部屋だ。
仮にも魔法少女の協会本部の一室。
そこに。
いるはずのない、見知らぬ少女がいた。
……いや、知っている。一方的に。つい最近、幾度となく写真で見た。
その写真では横たわった入院着姿だったけど。
高校の制服を着た、サイドテールの小さな女の子。
私たちがずっと探していた女の子が、ボストンバッグを持ってそこに立っていた。
「あ……なたは……」
「いや、君とは先にフラグを立てとかないと詰みかねないからね。こっそり会いにきたんだよ」
「何が……?」
「それに君はさ、話がわかる子だって知ってるから。気も合うかなと思うよ」
この一瞬のやりとりだけでわかった。この子はおかしい。
会話をしているようで、会話が成立していない。
私の頭も最大限の警鐘を全力で鳴らしている。
「残念なんだけど時間がないんだよね。私も次に行かなきゃいけないからさ」
やる、か……?
いや先に二人に連絡をしたほうが……。
「じゃあ早速、お話しようか」
違う、無力化が先だ。
あまりにも唐突すぎて隙を晒してしまったけど、この子がその気なら危なかった。
もう既にこの子の魔力核は掌握している。
これで、いつものように────
(手っ取り早くいうけど)
っ!?
魔法通信の使い方を知られてる? 何故? この子は一度も協会と関わってないのに?
やっぱり駄目だ。危険すぎる。この少女は駄目だ。
後で怒られてもいい。このまま処理を、
(君はもう一度、─────────?)
──え?
・・・
「あなたは一体……」
「私はただのおじさんだよ」
意味がわからない。
纏っている雰囲気は得体が知れないけど、見た目はただの少女だ。
「……あなた、いや、なんて呼べば、名前は」
「名前とか、どうせ呼ぶ気ないならおじさんで充分でしょ? 私は君の家族じゃないし」
……そんな心まで知られている。気持ち悪い。
私たちはこの子のことは何も、名前すらも知らないのに。
「もしくは、『未来』」
少女がバッグを持ち上げて、部屋を出ていく。
私はそれを見送る形で、フラフラとついていく。
「私は『未来』の魔法少女」
バッグからローファーを取り出して玄関で履く。
そういえばこの子は、結局どこから入ってきたのだろう。
「絶望の『未来』の全てを否定するもの」
玄関を出て、こちらを振り返る。
「なーんてね」
得意げな表情で笑った少女は、その一瞬だけ、年相応に見えた。
疑問はまだいくつも残っている。
それでも、今の時点の情報だけで、私は止めようと思えば彼女を止められる。
……止めてどうする?
これからも、終わりの見えない戦いを続ける?
これからも、誰かの涙と血と命を零しながら?
それよりも、彼女がもたらす救いを大人しく待つべきでは?
彼女が世界を救う。その結果、彼女自身がどうなったとしても。
彼女は……そこに触れなかった。
でもきっと、彼女の末路は名も無き英雄だ。
……きっと、スミレさんは悲しむんだろうな。
それでも。私はきっと動けない。
私は、これからどうすればいい?
どうすれば、いいんだろう……。
・・・
責務を果たさない者は責められて当然なのだろうか。
そんな者に、未来を生きる資格なんか、あるのだろうか。
・・・
>『魔法通信』
『伝達』の魔法少女によって構築された『情報伝達』による魔法少女の情報ネットワーク。
協会に所属すると使えるようになる。というか、使う人は自動的に所属扱いになる。
脳内の情報を貼り付けるような形で送信するので、映像以外に音声やテキスト、画像も送れる。
使い方は、送りたい情報を思い浮かべて、送信!と念じるだけでいい。
慣れると電話のように使うこともできる。
使用するための条件は『伝達』の魔法少女に直接対面することだけ。
この時、『伝達』の魔力の一部が譲渡され、その魔力を介して通信が行われる。
ここまでが他の魔法少女に開示されている内容で、実は情報を思い浮かべた時点で既に送信はされている。
それが相手に届かないのは中継サーバー役である『伝達』の魔法少女が弾いてるだけ。
もちろん、その気になった『伝達』の魔法少女には筒抜けとなる。
相手の魔力も利用するので意外と通信の消費魔力は省エネだが、規模が規模だし元の基本消費がでかいので魔力不足になることもあったり、極度の通信過多になると本人のコンディション次第で稀に昏倒することもあったりして鯖落ちする。
魔力変換は使って代償が起こると魔法通信自体が破綻する可能性が高いので使えない。
というかそもそも使えたとしてもトラウマ的に多分使えないと思われる。
また、『情報伝達』の魔法による情報の受信は基本的に拒否ができない。
『伝達』本人は不要なノイズを魔法操作によるフィルターで弾いているが、意図的に大量のそれをぶち込むことで相手の脳を直接攻撃することもできる。
強制的に洗脳まがいのこともできるし精神汚染もできる。実際はかなりダーティな魔法。
>『魔法少女協会』
この国のほとんどの魔法少女が名前を連ねており、魔法にまつわる費用の資金援助、魔法通信と情報、いざというときの保護、などなど様々な恩恵を受けている。
所属条件は魔法通信を使うということだけ。来るものは拒まず、去るものは追わずに監視、危険な輩はこっそり処理。
魔法少女の必須義務は情報提供のみで、魔物との戦いは努力義務。魔法通信の裏仕様も考えれば、はっきりいえば実質何もしなくても何も言われはしない。
ただし、協会の指示に従わずとも罰則はないが目をつけられやすくはなる模様。
正式メンバーは現在本部にいる3名だけで、かつては『熟考』と『幸運』の2名だった。
その後、『幸運』と入れ替わるように『比重』が入り、しばらくして『伝達』が入る。
そこからずっと三人体制だったものの、活動規模的にメンバーを増やすべきかを考えているらしい。
次のメンバーの最有力候補は『察知』だが、勧誘はまだされていない。まだ先の、もうこない話ではある。
あと、これ以上同居人が増えるのを内心でめちゃくちゃ嫌がってる人がいるので、仮に加入したとしてもリモート体制になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます