第27話 中々に頭が切れる奴がいるな。面白い。

 やはり気になる。

 俺はフレリアやヘンリエッタと共に、今後の防衛計画を練っていた。

 

「やはりおかしい。二個大隊を無為に死なせ、敵の木偶を二体以上戦場に露出させた。そんなことをするほど、神聖ラーナ王国は物的・人的資源が豊富なのか?」

「ガイアスは兵器廠の町につながる要衝だ。陥落させるためにはあらゆる作戦行動が是とされるのではなかろうか」


 ヘンリエッタのあまり的を射ていない回答が来たが、仕方がない。

 もう三日も缶詰状態で議論しているのだ。俺もいい加減に眠くなってきた。


「人海戦術にしては少数であり、様子見であれば大勢すぎる。リオンが言いたいのはその不自然さですよね」

「そうだ。敵の木偶を実戦に駆り出して、能力を測っているのが第一の見解だ。しかし、評価試験にしては采配する敵将が大物すぎた」


 敵の意図が読み切れない。

 戦場で与えられたチート能力を見るというのは分かる。だが、激戦区に送り込んで、無為に討ち取られる危惧がある以上、あまりにもギャンブル要素が高い。


「ラーナに送っている間諜はまだ戻らないのか? もしかすると、俺たちは危険な見落としをしているのかもしれない。それこそ戦術レベルの話ではなく、戦略ないしは国家運営レベルでな」


 机上の空論に過ぎるが、俺ならば他の意図を持たせる。

 古来より、単発の合戦は計略の布石であると師から教わったしな。


 腕組みをして考えこんでいると、けたたましく扉がノックされた。


「何事だ! 現在会議中であるぞ!」

「王都より火急の報が入っております。どうかご容赦を」

「なに、王都からだと? よし、入れ!」


 ヘンリエッタが伝令から書状を受け取り、目を通す。

 その顔色ははた目からでも分かりやすいほどに、青く変色していった。


「ザクセン将軍、私にも見せていただけますか?」

「はっ、フレリア様のご指示を要する内容かと……」


 トップ二人の会話には入らない。内容は非常に気になるが、吉報でないことだけは確かなようだしな。知る必要があれば話してくれるだろう。


「なんという……まさか、これほど早くとは……」

「このままではガイアスが失陥します。引いては帝国の存亡に関わるかと……」


 不穏なワードが飛び交っている。

 一度味方をすると決めた以上、これ以上座視するのは不義理か。


「差し支えなければ俺にも情報を降ろしてくれると助かる。若輩者だが、何か考えの一助になれれば嬉しい」

「リオン、やられました。前回の無謀なガイアス攻めは……全て罠でした……」

「詳しく教えてくれ」


 フレリアは重い口を開く。


「先の防衛線を経て、人間勢力は神聖ラーナ王国を旗印として、六か国同盟を結成しました。各国の木偶――リオンの世界から呼ばれた人間は強力な決戦兵器として運用されているのは知っていますね?」

「ああ、わかっている。つまりは木偶を召喚しているクソ国家共が六つも固まって、宣戦布告をしてきたのだな」


 ヘンリエッタは居心地悪そうに俺を見ている。

 ……なるほど、そういうことか。

 俺という存在を中心に、大攻勢につながるロジックを組み立ててきたのか。


「リオン・シジョウ。貴官の存在によって、神聖ラーナ王国の木偶が『無効化』されたという情報が駆け回ったそうだ。つまり、各国が持つ最大戦力が陳腐化してしまう恐れがあるということだ」

「つまりはスパイクは『負けることが前提』で送られてきたということか。そこそこの大物を総司令官にし、ギリギリ負ける程度の塩梅で兵力を送ってきたのもそのためか」


 対魔族用に召喚された人間たちが無効化されたとなれば、ウェスティリア帝国に対して優位性を失ってしまうだろう。

 癪な話だが、俺が召喚時に敵の魔法を解呪したことがそもそもの始まりのようだ。

 

 有能な、しかも手練れの策士が居る。

 恐らくは召喚された人間が叛逆し、それを封じられない時の策を用意していたのだろう。


「帝都アリオーシュより、陛下の詔が発布された。国家非常事態宣言により、戦闘可能な全ての魔族を動員。帝国北部のペレグリン砦、帝国中央部のガイアス砦、帝国南部のシルフィン砦を最前線とし、その圏外を放棄すると」


 ヘンリエッタがあげた三つの砦は、三首の竜ヒュドラとも言われる最終防衛ラインだ。

 もうすぐ避難民でここもごった返すことになるだろう。そうなれば潜入している敵の間諜を捕縛することも難しい。


「ガイアス砦は指揮権をフレリア様に移譲。ダルシアン儀仗騎士団は正規の守備要員へと昇格とある」

「迂遠なことはよせ。上はなんて言って来てる」

「前線の将兵は持ち場を死守せよ、と」


 なるほど、その次元でまずいのか。

 第二次世界大戦期の日本軍なみに囲まれている状況なんだろう。援軍が見込めない籠城は自殺と同義なのだが、そこの辺りは理解しているのだろうか。


「他の友好的な国家が少しはあったはずだが、救援の報はないと思っていいんだな?」

「残念ですが、彼らを巻き込むわけにはいきません。我がウェスティリアが防波堤となって魔族の生存圏を維持している以上、道理としてはあってしかるべきですが」


 一応各国のデータは頭に入っているが、念のためだ。

 プラス・マイナス二つの要素を洗い出し、冷静に戦局を分析する必要がある。


「フレリア、帝国の全戦力をもって戦った場合、六か国同盟に勝てる見込みはどの程度あると踏んでいるんだ?」

「百戦して、一か二でしょう。物量・召喚・戦力投射範囲。全てにおいて後塵を拝す形になっていますから……」

「つまりは絶体絶命に近い、と」

「貴方を巻き込んでしまって申し訳ありません。リオン、今ならば―—」


 拒否する。

 俺は手で制し、断固として申し出を却下した。


「この大掛かりな戦の原因は俺にある。その当事者が逃亡するわけにはいかない」

「元をたどれば、この世界の戦いは貴方には無縁でした。勝手に呼びつけ、勝手に戦わせ、勝手に責任を負わせる……リオン、貴方はそれでも、私たちの友でいてくれますか?」


 俺は笑っていた、のかもしれない。

 ヘンリエッタが不気味なものでも見るように、俺のことを凝視していたから。


「友と呼ばれるには、まだ俺は大事を成し遂げていない。が、俺の心は魔族と共にある。不要だと言われぬ限り、命を懸けて仲間を守ると誓おう」

「なればこれより貴方は我らの親友です。互いに背を預け、互いのために戦う。貴方の誓いはしかと賜りました」


 最初から魂は揺れず、ただ凪の海なり。

 他者を思いやる気持ちを善性と呼ぶのであれば、理由なく迫害するものを悪党と称するのだろう。


 俺は悪に成り下がるつもりはない。

 この世界で俺が人間として貢献できることとすれば、きっとその地に落ちた名誉を挽回する切っ掛けを作ることだろう。


 戻って来た斥候が、敵軍の襲来を告げた。

 


「腐敗の権化たる魔の巣窟。これを打ち破るは爽なるかな、快なるかな! 我がヴァレンティナ王国の重装騎士団の前では、あらゆるものは平らになるべし」

「ふふ、滾っておいでですね、レンスター卿」


 マクシミリアン・レンスター。

 ヴァレンティナ王国内では魔族絶滅主義の最右翼であり、人間至上主義の象徴だ。


「うむむ、滾るというのは煩悩を表す言葉だ。神は万人よ平等であれ、我欲を押さえよと思し召しだぞ」

「そこには魔族は含まれないのですかな」


 剣が副官に突きつけられた。


「神への冒涜か、貴様。魔族は『殺処分』し、この世から『抹消』すべき存在だ。神は我ら人への試練として、彼の腐敗物をお残しになられたのだぞ」

「は、い……大変失礼いたしました」


 副官の返事に対し、にっこりと笑顔が返る。


「ん、よろしい! 人は言葉を誤ることもある。君も私も日々精進していかなくてはなぁ! んっんー♪」


 人間から見れば稀代の名将にして、人徳の騎士。

 魔族から見れば憎むべき怨敵にして、死の騎士。


 ガイアスに重たい蹄が響いてくる……。

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