我が魔力に慄け異世界 お前らが召喚したのは、地球最強の魔法使いなんだが

おいげん

第一章 この素晴らしきゴミ世界

第1話 異世界召喚だと? 面白い、行ってやろう

 卓越した科学は、魔法と変わらない。

 大昔か、それとも最近だっただろうか。偉い人はそう言っていた。


「だったら本物の魔法使いはどういう扱いなんだろうか」


 俺は歩いている。


 180㎝の身長と、75㎏の体重。

 デカいほうだとは言われるが、取り立てて珍しくもない体型だと思う。

 猫背気味だとは指摘されるが、どうしても目立ちたくないのでこうなってしまった。


 俺は歩みを止める。


 目の前に子猫がいた。近寄ってくる重そうな車の音も同時に耳に入ってくる。

 にも拘らず、子猫は道路の上で無防備に足を舐めている。

 目が合う。ああ、これは俺がやらないといけないな……。


術理展開メソッド空間切除キャッスリング:セカンダリフォルダからプライマリフォルダへ――範囲指定完了—―Run】


 空間を切り取り、つなげ、再配置する。

 これは魔法だ。


 子猫と同質量の空気を圧縮して送り込み、場所を入れ替える。

 これは科学である。


 結果、俺の手の中には子猫がいて、道路には何もない空気だけが残った。


 数秒後、蛇行運転をしているトラックが通過していく。


「あぶなかったな。もう道路に出るなよ」

「にゃおん」


 ざらりとする舌で俺の指を舐め、子猫は藪の中へと立ち去って行った。


 俺はまた、歩き始める。

 ポケットに手を突っ込み、無造作に足を踏み出す。


 俺は四条理御しじょうりおんという。 


 世界でたった三名しかいない、本物の魔法使いだ。


 古代の血脈を連綿と受け継いだ、この惑星の最大戦力の一人だとも言われている。 

 西洋魔術・東方陰陽・北方印術・南方呪術・教会聖術……etcetc。


 俺はこの大地で認識される、ありとあらゆる魔法理論の結晶であり、科学と融合を果たしたハイブリッドの人類らしい。


「とは言っても、生まれたときから研究所に隔離されてきたんだけどな」

 術式・歴史・技術・思想・技能・能力・心的負荷……。

 数え上げればキリがないほどの訓練を受けてきた。


 気が付けば、俺は不世出のモンスターと呼ばれるようになっていた。


 このままでは危険と言われ、俺は人々と関わるために高校へ通うことになった。

 人とのコミュニケーションは、俺にとって新鮮で楽しいものだった。


 俺は人間が好きになった。

 嫌なこともあるし、顔をしかめることだってある。


 だが人間はそのすべてを内包し、やがて思い出として抱えて生きる。

 それはとても儚い美だと思う。

 

 学業も一息つく頃、俺に調査依頼が舞い込んできた。


 俺だって金銭がないと生活はできない。

 人から奪えばいいという理論は、野蛮で未開だと思う。大いなる力を持つ者は、大いなる責任が伴う。


 俺は半分公務員扱で、所属は宮内庁になっている。

 調査すべき案件は、魔法がらみのことだ。

 

 昨今、連続で発生している神隠し事件。上司は魔法関連の事件であると断定した。


 不可解に消える人々の所在を確かめ、残された痕跡を手繰り、犯人を生死問わず止めるために、俺は駆動する。


「ここか……近いな」


 高出力の魔道エネルギーは、眼前にある刑務所から発せられていた。

 ここは確か、有数の凶悪犯が移送されてきたと聞いているな。

 死刑執行を欧州連合や米国から押し付けられた、とかなんとか。

 法的手続きはどうなっているのか不明だが、相当に圧力がかかっていたのだろう。


「さて……と。相手も馬鹿ではないな。現にこうして、居なくなってもいい人物を見繕ってきている」


 各国の王族や、閣僚の子弟が行方不明となっては地球は大混乱に陥る。下手をすれば魔女狩り同様に戦犯を探し、戦争が始まるだろう。


 誰もそのようなことは望んでいないし、させやしない。


術理展開メソッド風精透過ゴーストハート


 気配遮断能力を増強させ、誰にも知覚させずに侵入する。


「む……魔術的封印が成されている。なるほど、人払いの錠前がかけられているのか」


 初歩的な術式だ。鍵などはあってないようなもの。

 扉の前にある格子に描くは【エイワズ】のルーン。移動を意味する、古き文字だ。

 

 欧州に伝わる古の紋様が、封印されている扉を難なく開ける。


「これは……」


 囚人が利用するであろう大食堂に、紫色の大きな魔方陣が展開されている。

 茫然自失とした囚人が四名、禍々しい光とともに姿を消していく。


「召喚魔法……次元の守りを突破してきているのか。致し方ない」


 俺は駆け込みで魔方陣の中央へ移動する。


 船酔いにも似た酩酊感が襲い、思わず中身をぶちまけそうになるのだが、この際構ってはいられない。


 地球はこのような召喚に対して、対策を執るようになってきた。


 まだまだ未発達で発展途上だが、一応時空を超える移動に関しては魔力的ファイアウォールが働くようになっている。


 だが今回の相手は、どうも手慣れているらしい。

 地球にセキュリティホールがあると、しっかり見抜いているようだ。


「この俺を召喚か。面白い、行ってやろう。現地でどんなツラを拝めるのか楽しみだ」


 力がみなぎる。

 

 魔力で身体強化をかけたような、能力の異常な高まりだ。一説に異世界転移をすると、特殊な能力が付与される場合があると聞いてるが……。

 

 さて、地球最大戦力と呼ばれるこの俺に、異世界は平等に力を与えてくれるのかな? 実に厄介なことになると、警告してやりたいところだ。

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