第12話:暴走『久々に観光した気がする!』


「おーっ!スカイツリーに来たね!」


 三人はスカイツリーの真下にやってきていた。観光のために列に並ぶ子猫を見送って、二人はダンジョンの前までやってきた。


「あぁ。それは良いんだが……。ダンジョンの前にいるアレはなんじゃ?」


「どうもこのダンジョンに挑んでリスポーンして一週間ダンジョンに挑めなくなった人たちです」


 そこには恨み言をグダグダ言い続けるだけの奴らがたむろしていた。すっげぇ邪魔である。


「どけ!おいどけと言っているのがわからぬか!」


「うるせー!アレは俺らの手でぶっ殺すんじゃい!入るんじゃねぇよ!」


 ナメた口を聞くそいつらに、少しキレた師匠は地面を思い切り踏みしめる。その衝撃だけでソレらは全員気絶してしまった。上にいた子猫は地震かな?と少しの揺れを感じた。


「な、なんかちょっとヤバい揺れ起きたような……」


「邪魔じゃ」


 気絶した奴らを蹴り飛ばし、師匠はズカズカとダンジョンに潜っていく。碑矩はと言うと師匠に気絶させられた奴らを端に避けて邪魔にならないようにしていた。あと一応救急車は呼んでおいた。


「ちょっと師匠。いくら邪魔でもアレはひどいじゃないですか」


「下らん。話が通じん奴というのはいつの世界にもどの時代にもいるわ。ブチのめせば全部片付く!」


「師匠ってたたまに思想がヤバいですよね」


 呆れた様子でダンジョン内に入っていく碑矩ら。入ってみて気が付いたが大してデカい訳でもヤバい何かがいる様子もない。……何もない。


「碑矩。……敵の気配はするか?」


「……無いですねぇ、師匠」


「って事はじゃ、既にこの場所は殲滅されていると言う事だ」


 その瞬間、碑矩の首を狙ってすっ飛んでくる何か。とりあえず受け止めてみるが、すぐに消えると今度は死角から飛んでくる手。


「ふむ、何かがいるようじゃな碑矩!」


「そうですけど……。コレ、モンスターの気配ですかね?」


「わからんのぉ。人の気配もするがモンスターのような気配もする……。まぁあって見るまでは分からんじゃろう!碑矩!一度離れるぞ!」


「わかりました師匠!」


 二手に分かれたところで、飛んでくる手も二手に分かれた。明らかにこちらの事を認識している様子。しばらく走っていると師匠の方の攻撃が明らかに激しく碑矩の方の攻撃が少なくなっていた。


「なんだ?僕の方に対する攻撃が……」


「おい」


 と。碑矩は目の前に何かがいることを認識した。見た目は金髪蒼眼の、碑矩と同い年くらいの少年と言う感じだ。だが明らかに敵意をむき出しにしてきている。


「誰だ?」


「お前。強いな……?」


「まぁ。強いけれど。……なぜ今?」


「─悪い、殺す……!」


 そう言うと先ほどまで碑矩らに襲い掛かってきていた手が彼に集まっていく。そしてそれは一つにまとまると、巨大な手の形のエネルギー体に変化した。


「成程」


 どうやら襲い掛かってきていた物はこれだったらしい。そう判断した碑矩だがその手が三つに分裂すると言う光景を見て一瞬マジかと考えた。


「ッ!?」


 碑矩の頬を掠める一撃、ほほ肉が剥ぎ取られ奥歯が見える程になってしまう。碑矩はこの一撃で目の前にいる相手が相当強いということを認識し、を使う決意を固める。


「……ごめん」


 碑矩の目が、黒く黑く輝く。


 ◇


「攻撃の手が止んだな?」


 碑矩と離れ攻撃の手が止み、師匠は一人碑矩を追うかそれともこのまま攻撃してきた相手を探すかと考えていた。すると師匠の目の前に一人の少女が現れる。


「む?なんじゃ貴様は」


「ぴぃっ!?わ、私は食べてもおいしくないです!」


「ワシが取って食うように見えるか……ん?キツネ?」


「あっ!こ、これは……。それは……。つ、付け耳です!!!!」


「おい逃げんでもよいじゃろ!」


 パッと見は人間だったのだが、よく見ればもふもふの尻尾と狐耳が付いていた。そして師匠から逃げ出そうと走り出したので師匠は大人げなく全力で少女の元まで走った。


「ぴいぃ早いよぉ!」


「ホレホレ早よ逃げんかぁ~?ホレホレホレ」


「ぴゃぁっグルグルしてるっ!」


 煽る感じで少女の傍で回りまくる師匠。何故かティータイムをしたり残像と戦ったりともうめちゃくちゃである。


「まぁワシはお主を取って食おうと言う訳ではない。なぜこんなところにいる?」


「うぅ……。お兄様から知らな人とは話しちゃいけないと言われているので……」


「まぁまぁ。ワシだってお主のようなか弱い少女に危害を加えるつもりはないんじゃ。それに……お主の兄とやらにも話があるしな」


「な、なんでお兄様の事を……!?」


「さっき自分で兄と言っとったし」


 そんなこんなで話していると落ち着いたのか、少女は自分の名前を師匠に教えていく。


「私は『九重ここのえタマ』と言います!」


「そうか。ワシは師匠。師匠と呼んでくれて構わんよ」


「……。それで、この場所に何の用ですか?」


「まぁここが悪い意味で有名になっておったからのぉ。それで気になったんじゃ、そしたらお主を見つけた……。と言う訳じゃ」


「ふにゅぅ……。ここにはお兄様と私くらいしかありませんよ。ホントに何もないんですよ」


「?」


 ボスすらいないの?と疑問に思った師匠。あのアホ嘘を伝えやがったなとややキレながら、じゃそのモンスターとは……と考え、タマを背負い碑矩の元に駆け出す。


「ヤバいぞ碑矩が本気になる!」


「そ、その碑矩って人が~っ!本気になるとぉ~っ!」


「喋るな舌を噛むぞ!」


 そして碑矩の下にやってきた師匠。そこには碑矩がやったのだろう、タマの兄だった物が転がっていた。まだ生きてはいるが虫の息と言ったところ。


「碑矩ェッ!」


 今にも留めを刺さんとする碑矩を思い切り消し飛ばし、ズタボロの兄にシレッと回収していた『超絶回復薬エリクサー』を開封すると口から流し込む。


「大丈夫か!?」


「お兄様!!!」


「か……カハッ!!」


 肺にたまっていた血が口から出てきたところで、師匠は碑矩から二人を庇うように立ちふさがる。この状態の碑矩はヤバいのだ。絶対に近寄らせてはいけない。


「……。この場は一旦この二人を逃がすべきだな」


「……あれ……。お兄様の……?!」


 碑矩の背中からは、タマの兄が使っていた物と同じものが出てきていた。それを見た瞬間師匠は其の一『遠激・改エンゲキカイ』を碑矩に叩き込む。


「走れタマ!今の碑矩は危険だ!」


 防御していない腹部にモロ命中したと言うのに、全く意に介さず碑矩が走る。衝撃波が出るほどの速度で走ると、そのまま兄の命を刈り取らんと師匠ごと切り裂くように斬を放つ。


「ぴやぁっ!?」


「ナメるなよ碑矩。貴様とワシでは……!基盤の強さが違うッ!」


 斬が命中する瞬間、師匠は表我流其の二『きゃく』でその手をズラす。それはダンジョンどころか地上に届くほどの斬撃で、地上で気絶していた奴らもその衝撃で逃げ出す。


「おいおいおいおい!?」「も、もう知るか!俺はもう逃げる!」


 再度突っ込んでくる碑矩だが、師匠が片腕を降ろしたのを見て即座に真後ろに跳ねる。それからコンマ一秒も経たぬうちに、その場に先ほど碑矩が放ったような斬撃が現れた。


「チッ、既にられていたかッ!」


「おーっす!今日も俺チャンの撮影を……って、なんの騒ぎ~?」


「骸か!えぇい話は後!アレを止めろ!」


「ん-?」


 何とか入り口近くまで来たが、このままでは被害が出る。そう思っていた矢先、ダンジョンに侵入してきた骸の姿を見てコイツに丸投げすることにした師匠。


「あれっ、師匠の弟子じゃんなにしてててててて」


 飛斬で頭部を切断された骸だが、すぐに治ると碑矩を殴り飛ばす。


「ッていてぇなぁオイ!もー怒ったぞー!」


「ドケ」


「ん?アレかな暴走形態的なサムシング?初号機?」


 ちょあーとか言いながらカンフーっぽい構えを取る骸。その後ろで連れていかれる兄の事が気になったのか、一人師匠を追う『イチ』。


「骸。俺はあの少年が気になる。悪いが一人でやれ」


「ちぇー。おい『マクナ』、カメラ止めて」


「あぁ」


 そしてマクナにカメラを止めるように指示すると、骸はニヤリと笑う。


「さぁ……ショータイムだ!」


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