二度目の人生は追放貴族。信長の知恵でスローライフを目指します
雨宮 徹
第1話
「おい、アレン! これはどういうことだ!」父であり暴君である国王は、手に持った届け出をピラピラと振る。届け出は「ライラ村への移住申請書」だった。
王宮中に怒声が響き渡ると、臣下たちは、「巻き込まれるのはごめん」とばかりに逃げ出す。
「何って言われても……。父上、俺はライラ村に住みたいんだ」
ライラ村。それは、この王国において辺境の村で、牧歌的だと評判だ。そう、今度こそスローライフを送りたい。二度目の転生先が暴君の息子というのは勘弁だ。
「坊ちゃま、ここにいれば、不自由なことはありません。なぜ、ライラ村に住みたいのですか?」執事のヴィンセントの問いかけは、俺を責めるものではなく、単純な疑問のようだった。暴君で父親である国王とは違って。
口が裂けても「スローライフが送りたいから」などとは言えない。そんな理由ではザイル国王はライラ村への移住を許可しないだろう。なにせ、俺が次の国王になっても困らないように、帝王学をはじめ、様々な教育を施してきたからだ。
このままでは埒が明かない。俺は覚悟を決めた。最終手段を使うことを。俺は拳を握ると、思いっきり国王を殴りつける。「坊ちゃま、いけません!」とヴィンセントが止めに入り、二度目の拳は空を切った。
国王は立ち上がるなり殴り返してきた。痛ってぇ。さすが暴君。やられたらやり返す。拳には拳を。「これを徹底したから、国王にまで成り上がったのだろうな」とどうでもいい事を考える。
「……。分かった、お前の望みを叶えてやろう。お前を王宮から追放する! せめてもの情けだ。行き先はライラ村だ! ただし、お前にはびた一文やらん。寂れた村で野垂れ死ぬがいい」
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「坊ちゃま、いきなりどうしたのですか。辺境の地への移住を希望されるなんて」
「……。いつか、処刑されるのが怖いから」
俺はスローライフ以外のもう一つの理由をヴィンセントに伝える。民たちは国王の圧政によって苦しんでいる。彼らは国王の打倒を目指して、レジスタンスを結成したとも聞く。もし、彼らの作戦が成功すれば、間違いなく国王一族は処刑される。今のうちに縁を切れば、間に合うに違いない。
最初の転生では部下である明智光秀に裏切られて殺された。二度目の転生先では処刑なんて、まっぴらごめんだ。
「ヴィンセント、お前はここに残れ。王宮の唯一の良心として、国王をいさめて欲しい」
俺についてきて一緒に貧しい生活を送って欲しくはない。
「いえ、私は坊ちゃまに付いていきます。お生まれになった時から、私の命は坊ちゃまのものですから」彼のまなざしは真剣そのものだった。
「それに、坊ちゃま一人では村では生きていきません。ライラ村は貧しいですから、自給自足が当たり前なのです。王宮で育ったあなたが一人で村で暮らすことは、死を意味します」
「さっきから二人ともライラ村を悪く言い過ぎじゃないか?」俺は首をかしげる。国王といいヴィンセントといい、俺とは違う認識らしい。
「なるほど、分かりました。坊ちゃまの情報は古いです。あそこは、国王の圧政の影響で衰退したのです。つまり、坊ちゃまが移住すれば、間違いなく歓迎されません」
「え、そうなの!?」
もし、本当なら国王がライラ村へ追放したのも筋が通る。島流しというより、実質的には集団的暴行による死刑に近い。
「私がついていくのには、他にも理由があります。私はあの村と縁があります。知り合いに頼れば、最低限の生活を送れるかもしれません」
「ヴィンセント、お前って奴は……」
俺は思わず抱き着くが、「苦しいです」と言われる。
「では、ゆるりと村へ向かいましょうか。もちろん、徒歩になりますが」
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俺がスローライフにあこがれるのにも理由があった。生前はブラック企業に勤め、パワハラの嵐だった。サービス残業は当たり前。そのくせ給料が低いものだから、一人で暮らすのが限界だった。中年になっても結婚できなかったのは、会社のせいと言っても過言でもない。そして、不運にもトラックにはねられて無事死亡。しかし、天は俺を見捨てなかった。そう、転生させてくれたのだ。
転生先は織田信長だった。もちろん、彼が本能寺の変で殺されたのは知っている。スローライフを送るべく部下に優しく接していたのに、史実通り明智光秀に殺された。しかし、俺は二度目の転生を果たした。今度こそスローライフを送りたい。そう願ったのに、今度は暴君の息子。どうやら、神様は俺を酷い目に合わせるのが好きらしい。それならば、その期待を砕くまで。さびれた村を再興してスローライフを送ることで。
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