第31話 初登場!

「うわ、人間兵器が帰ってきた。絶対に部屋から出ないでおこう……」


 そう言った少年は、布団を頭まで被り、ベットの上で丸まった。


 ガタガタと震えながら怯えていると、真上の部屋から異音がした。


みし、ぎし、ばきっ


 少年が天井を見上げると、天井から真っ白い動物の足が現れた。


「めっちゃやばいかも!!」


 大の苦手なあいつの声が聞こえたと思ったら、女と聖獣が落ちてきた。


「あ、ごっめーん!!」


「うわぁぁぁぁあっぁぁぁ」


 血筋と思える華麗な条件反射で転がり避け、顔を上げると綺麗に微笑む絶世の美少女悪魔と目が合った。






「ただいま~! お姉サマのお帰りだよ! かわいいかわいいあたしの弟チャン♡」


 あたしは、部屋の隅で震えている弟を見つけ、そっと抱きしめた。突然天井が落ちてきたら、怖いに決まってるよね~。まじでごめ~ん!


「う、うわぁぁぁぁぁ、は、は、はなせ!」


「まったくもう、照れ屋サンなんだから!」



 ばたばたと暴れているものの、そう大して力を入れていないからか、簡単に捕まえられちゃうもんね!


「ちゃんと部屋の外に出て運動しないと、強くなれないゾ! お姉サマみたいに!」


 そうやって弟を堪能していると、部屋のドアが開き、お父様パパお母様ママが入ってきた。





「なにがあった……って、ミシェル!?」


 驚くお父様パパに、お母様ママがあたしに向かって、人質取った犯人に対して説得するかのように話し始めた。


「ミシェルちゃん!? 早く、早く、その子を離しなさい!! あなたの要求は呑んであげるから、ほら、ドラゴンを拾ってきてもいいわ! あなたのお母様は悲しんでいます!」


 続いて、お父様パパも語り始めた。


「ミシェル!! いい子だから、いい子だから、その子から手を放してこちらにきなさい! 早く!! ほら、するめがこっちにあるよ!」


「あたしは、人質を取った犯人かなにかか! それとも、野生の動物かなにかか!」


 思わず、ムサルトのほうを見ると、小さく首を振ってこう告げた。



「ミシェルお嬢様。こちらにおつまみセレクションをご用意いたします。お手をどうぞ」


「お前もか!」


 あたしは仕方なくムサルトの手を取り、ムサルトが用意したあたしのソファーにどかりと座った。



「ち、父上! 母上!!」


 我が弟は、お父様パパお母様ママのもとに駆け寄り、ぐずぐずと泣き始めた。


「こ、こ、怖かったです~」


「大丈夫か!? けがはないか!?」

「まぁ! 大丈夫? こんなにも長期間の接触は久しぶりだったから、ミシェルアレルギーの症状が出てないかしら? 息が苦しいとか、意識を失いそうな感じはない? 蕁麻疹が出てきたわね。誰か! 早く医師を手配なさい!!」


 え、なに? あたしが原因みたいな空気、やめてもらっていい?


「ミシェルお嬢様。本日のジュースは例の果実の生絞りジュースでございます。どうぞ、お召し上がりください」


 ムサルトは、あたしと家族たちの間に立ち、あたしの視界からそんな光景が見えないようにしてくれている。


「ほら、ムサルトが肉壁となって目隠ししてくれているわ。今のうちに、安全なお部屋に行きましょうね?」


「お前もそっち側か!?」


 お母様ママの言葉を聞いたあたしが、突っ込みを入れると、ムサルトは微笑んだ。


「ミシェルお嬢様。お先に、お部屋の修理をいたしましょうか。修復魔法をお手伝いいただけますか?」


「え、ムサルトがあたしの知らない魔法を知ってる! 教えて、教えて」


 あたしはムサルトの手を取り、修復魔法の説明をがっつりと受けた。天才ミシェルちゃん、もっと天才になっちゃったかも!



「父上……母上……あの姉上悪魔を手玉に取るムサルト義兄上は、なんと素晴らしいお方なのでしょう……。僕には、神のようにみえてきました……」




 そう言って、弟はどこかへ連れ去られていった。おっかしーな。小さい頃は姉上って言いながら後ろをついてきたし、一緒にいろんな遊びをしたのに……。


 ちなみに、天井はあたしとムサルトのおかげできれいに直ったよ!


「さすがミシェルお嬢様。一度で完璧に習得なさいましたね」


「もっちろーん! これで、何を壊しても大丈夫!!」


 ちな、もふもふしていたジュレちゃんは、落下してすぐ人型に戻って部屋の隅で寝ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る