第30話 はじめまして

 ひょこっと現れたジュレちゃんに驚いていたお母様ママであったけど、幻の果実の魅力には抗えなかったようで、ティータイムに移行した。手下三人組は、執事に連れられ仕事の基礎を教えられに行った。


 あたしとお母様ママの前に、切り分けられた果実が置かれる。お父様パパは紅茶を飲み、ムサルトはあたしのうしろに控えている。ジュレちゃんはあたしの横にいるけど、今日はウサギ肉のようだ。草食の肉も食べないと、バランスが悪いからね。


「この、ジュレちゃんっていう子は、隣国の隠された聖獣なのね?」


「我、領地の繁栄が得意じゃ!!」


 自信満々に胸を張るジュレちゃん。お上品にハイスピードで果実を口に運びながら、問いかけるお母様ママ。なにそれ、魔法?


「ジュレちゃんは、元いたところには戻れないのかしら?」


「ふぇ、我、ご主人様と一緒にいたい」


「さすがジュレちゃん! あたしの使い魔! よく言った!」


 あたしがジュレちゃんの頭を撫でまわし、褒めているとお母様ママから、ブリザードが吹き荒れた。


「ミシェルちゃんはお黙りなさい?」


「ひぃ!?」


 大人しくあたしは果実をかじりながら、成り行きをみている。お父様パパをちらりと見ると、まるで室内に飾られた木のように動かない。つよ。


「でもね、あなたみたいな聖獣は、普通の家庭で面倒が見られないの」


「我、元いたところに返されると、軍事兵器としてこの国に侵略になることになるかもしれぬ……我、我、ご主人様と戦うことだけは嫌じゃ!! ムサルト殿もこわい!!!」


 涙目でふるふると首を振るジュレちゃんは、愛らしい幼子のようで庇護欲がそそられる。


「それは……困ったわね。はぁ、仕方ありません。ミシェルちゃん? ジュレちゃんの面倒をちゃんと見るのよ?」


「よっしゃ! まっかせて! お散歩は、伯爵領の人通りのない森に連れて行くしぃ、ごはんもちゃんとあげるから!!」


 ばっちーんとウインクを飛ばすと、あたしはジュレちゃんの手を握った。


「これからも、よろしく!!」


「わ、我、ご主人様の顔面の威力が高すぎて倒れそう……あの者たちの気持ち、理解した」


「あの者たちって……?」


 お母様ママの笑顔はとってもまぶしくて、ぎぎぎぎと音を立ててこっちを見たお父様パパの顔はこわばっていた。


「うむ? ご主人様が倒した、隣国の暗殺組織の者たちじゃ!! なに、問題ない、記憶の改謬もすんでおる! 我々の仕業とはわからぬぞ!!」


 ジュレちゃんは、ウサギ肉をかじりながら、満面の笑みで言い放った。


 お父様パパは事情説明のため、お母様ママに連行され、悲鳴を上げながら去っていった。


 とりま、あたしは上空を飛んでいたドラゴンを魔法で撃ち落とし、ジュレちゃんを喜ばせた。


「ジュレちゃんって、もふもふには戻れないの?」


「ん? 戻れるぞ? ご主人様があの身体を維持するための魔力を、我に分け与えてくれたら」


「いいこと聞いた! あたしの部屋でもっふもっふさせて!!」




 そんなあたしを見ているひとりの影が屋敷の中にあるなんて知らずに。

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