第26話 突然の自己PR

「あの、俺、この二人の先輩で、リ、リーダーをさせてもらってるジャンっす!!」


「先輩って、あんなふうに喋れたんすね」

「……」


 がっちがちに固まった手下①に、あたしは助言する。


「ジャンじゃなくて、手下①だぞー!!」


「っうす、手下①っす!」


「……ミシェル。ジャンのままでいいんじゃないか?」


 お父様パパの突っ込みは無視して、自己PRを続けさせる。……少し疲れたな。


「ミシェルお嬢様、こちらお嬢様ご愛用のソファーでございます」


 ムサルトがあたしのお気に入りソファーを取り出し、さっと地面に布を敷いた上に設置する。手を取ってエスコートしてくれて、座らせてくれた。よっしゃ、寝転がるか!


「さすがムサルトね。あたしの婚約者なだけある!」


「婚約者ぁ!?」

「婚約者っすか!?」

「……」


「ムゴン、ショック死するな! 俺たちには貴族のお嬢様なんて手が届かないぞ!?」



「……あの、ムサルト? 一応念のために聞いておくが、雇い主の私の椅子は……? というか、収納魔法なんて使えたっけ?」


 お父様パパの問いに、ムサルトは小さくため息をはき、どこからか木の椅子を引きずってきてお父様のまえにどんと置いた。


「……これでいいっすか? あぁ、収納魔法はミシェルお嬢様の婚約者に決定してから身につけました」


 ムサルトはめんどくさそうに説明して、即座にあたしの斜め後ろに戻った。


「……私にそんな態度をとっていると、ミシェルの婚約者から降ろすぞ?」


「え、まじ遺憾」


「大変申し訳ございませんでした、旦那様。こちらが旦那様ご愛用のクッションでございます。椅子は今、清浄魔法できれいにいたしましたので、どうぞおかけください」


「……ムサルト。清浄魔法なんていつのまに……いい、答えはわかっているから答えなくてよい」


「はっ」


 すごい速さでお父様パパの近くに飛んで行ったムサルトは、お父様パパの椅子を調え、あたしのところに戻ってきた。ほめておくか。


「ムサルト。あたしたちの婚約のために頑張ってえらいえらい。……あ、ごめん手下①、続けて続けて」


 ムサルトの頭をなでながら、手下①に声をかける。


「この空気の中っすか? まぁ、続けます。俺は、前職では組織を結成しリーダーを経験したっす。リーダーとして部下たちをまとめ多くの計画を成功させたっす。大口の契約では、国との契約を獲得し、職務を遂行したっす。まぁ、国に裏切られたんすけど。そこで、ご主人様に声をかけていただき、働こうと思ったところっす。どちらかというと、作戦を立てたり、指示を出すことが得意っす」


「ほう……なかなかいい人材じゃないか」


「でっしょー? あたしの影的な手下的な感じで使いたくって!」


「影……? ちなみに前職では何を? あ、ムサルト。ミシェルだけに紅茶をふるまうな。私にも用意しろ」


 ムサルトの用意した紅茶を楽しんでいたら、お父様パパがムサルトにおねだりした。まったく、世話がかかるんだから。ムサルト、用意してあげて。


「犯罪組織、三羽の鷹っす。そっちの国でも名は知られているくらいだとおもうっす」


「ぶぅぅぅうーーー!! ごほ、ごほ、犯罪、組織三羽の鷹だとぉ!? 少人数なのに確実な仕事をこなし、失敗は絶対にありえないと有名な暗殺・誘拐組織じゃないか!?」


お父様パパ、汚い。紅茶、こっちまで飛んだんだけど」


「ミシェルお嬢様、お拭きします」


 あたしがムサルトに磨き上げられ、ムサルトはめんどくさそうに清浄魔法を使ってお父様パパの吹きこぼした紅茶を消し去った。


「あ、俺たちのこと、知ってるっすか? 今回の仕事は、報酬が魅力的だったんすけど、俺たちの始末が目的だったみたいっす。こちとら、隣の王宮にまで侵入して王子の誘拐を決行したのに、切り捨てるなんてひどいっす」


「……参考までに、始末が目的とは?」


「聞いてくれるっすか!? 借りた聖獣は消えるし、誘拐したはずの王子は聖獣の使いかと思うほど美しい令嬢と幼女に代わるし……失敗したってことにされて消されるところだったっす。アジトもぶっ壊されたんすよ?」


「……そ、そうか。大変だったな」


(ミシェル!! お前、お前が聖獣を幼女にして、殿下と入れ替わったせいで、隣国の犯罪組織が崩壊しているぞ!? アジトも壊したのか!?)


(え、あたし、言葉にされるといいことしてない? アジトはジュレちゃんがドラゴン取ってほしいって言うから、仕方ないじゃん?)


⦅我のせい!?⦆


「あの、手下②も、頼んだ仕事は絶対にミスせずにやり遂げるし、手下③も無口だけどいい奴っす! 二人がいないと確実な仕事ができなかったんで、三人一緒に雇ってほしいっす!!」


「ははははは」


 疲れたように笑うお父様パパと、手下①の言葉に感動している手下②と手下③。いい光景~。


「……先輩!」

「……」




「とりあえず、ミシェルお嬢さまがお疲れになると困るので、国に帰りましょうか?」


 ムサルトがどこからか馬車を取り出し、エスコートしてくれた。




「見つけたぞー!!!!」



 馬車に乗り込もうとした瞬間、森の影から人が飛び出してきた! え、何? めんどい。

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