第23話 誘拐
「まて、誰なんだ? この圧倒的美少女は」
魔力封じの枷で手足を拘束され、無事にアジトに到着したようだ。……別に、これくらいの枷なら魔法で引きちぎれるけど……。そう思っていたら、誘拐犯たちは話し合いを始めた。暇だし、床にでも座っているか。とりま、もふもふの生き物の観察をしようっと。
「いや、俺たちは、王子を連れてきたはずなんすけど、いつの間にか入れ替わってました!」
「入れ替わるはずなんてないだろう!? 王宮に侵入して誘拐なんて、聖獣様をお借りしたからできただけで、何度もできないことなんだぞ!??」
「じゃあ、二回くらいなら、できる可能性あるっすか?」
「んなわけあるか!」
(もふもふちゃーん、こっちおいでー。かわいいねぇ、ちょっとだけ、ちょっとだけ、撫でるだけだからさぁ。ほら、減るもんじゃないし)
(もふもふちゃーん、ぐふ、ぐふふふふふふふ)
愛らしいもふもふちゃんは、丸まっていた。ピンと立った二つの耳。ふわふわもふもふの全身真っ白な体。大きくてたくましい肉体。ちらっと見える真っ白な肉球。額の間には黄金の角が生えていてその周りには小さな魔石が埋まっている。魔力は膨大で、尻尾とたてがみは虹色に輝いていてふさふさ。伝説級の魔物、フェンリルとユニコーンを足して割ったようなビジュアル。圧倒的優勝。そう思っていたら、顔を上げた。
⦅お主……気持ち悪いぞ⦆
(しゃべった! 意外と偉そうな声だけど、そのギャップがまた愛らしい!! 萌えってこれ!? ほしい!! 持って帰りたい!!!! 虹色に輝く瞳も最高。くりぬきたい。)
⦅お主……我は国と契約しておる。お主ごときが我と契約するのは無理じゃ。我の存在は、周辺諸国には秘匿されているが、国の繁栄に役立っておるのだぞ?⦆
(なにそれ。動物虐待。そんな契約、ぶっ壊してあげる!)
⦅我は聖獣だぞ? 動物ではない。それに、我のま、まて。我は我の仕事に誇りを持っておる!! って、こら、話を聞けい!⦆
(あ、壊れたよ? なんか言った? これでうちの子になれるね!)
⦅人間ごときがなぜそんな簡単に……? 我は国土の繁栄をやりがいとしておったのに……。この契約は、一〇〇年に一度再契約を結んでおる。一〇〇年間隔じゃないと人間は魔力を用意できぬというからな⦆
(え、そうなの? ごめんごめん。でも、もふもふの契約国って、隣の国でしょ? まじでやばい国だから、やめておいたほうがいいんじゃね? 繁栄させても平民には還元させてないみたいだし?)
⦅人間の都合は知らぬ。我の名はもふもふではなく、ジュレインじゃ! まったく、失礼な人間じゃな⦆
(わたくし、ミシェル・スターナーは、聖獣ジュレインと従魔契約を締結することをここに誓います)
⦅ふん、人間ごときが我を従魔にできるわけなかろう?⦆
魔力の枷をさりげなく破壊し、普段は抑えている魔力を解放する。ジュレちゃんの魔力があるから、
⦅ま、まて、なんじゃ。その膨大な魔力は!? く、飲まれる。まさか我が従魔にさせられてしまうのか!? 幼体になってしまうぞ……まて、それ以上はやめろ、我、人型になってしまう!! やめろ、やめてくれぇぇぇぇぇぇ!⦆
(え、聖獣が幼女になっちゃったんだけど。まじウケる)
⦅我、お主の使い魔になっちゃった……我、我、我⦆
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
突然泣き始めた幼女に、誘拐犯たちはいっせいにこちらを見る。
「うわ!? 突然美幼女が増えたぞ!?」
「ほら、先輩。俺たちは王子を連れてきたんすよ。こうやって、いつの間にか入れ替わるんす。俺たちのミスじゃなくて、聖獣様の力かなにかじゃないっすか?」
「聖獣様にそんな力があるわけないだろう? ……ってあれ、聖獣様はどこにいった!? さっきまでここにいただろう!?」
「……本当っすね。ちなみに先輩、聖獣様を逃がしたとしたら、俺たちどうなるんすか?」
問いかけた下っ端に、先輩誘拐犯が答えた。
「消されるに決まっているだろう? 契約があるから、遠くには行けないはずだ! ほら、探すぞ!!」
(ジュレちゃん? ご主人サマが慰めてあげるから、こっちにいらっしゃい?)
「うわぁぁぁん」
「このガキ、どうします?」
下っ端が指さすと、ジュレちゃんはあたしに向かってよたよたと歩き出した。そんなジュレちゃんをそっと抱き留める。仕方ない。淑女の笑みをかますか。にこりと微笑み、あたしは言う。
「謹んでお受けいたします」
「この子が見てくれるそうっす!」
「そうか、すまないけど、頼んだ美しすぎる嬢ちゃん。って、こんな麗しくて愛らしい、か弱そうなご令嬢をいつまでも魔力封じの枷で拘束……ってあれ? 取れている」
「先輩、粗悪品をつかまされたんじゃないっすか?」
「そんなわけ……まて、もしかして、今回の件、俺たちを摘発するために使ったのか? そうなると、聖獣様がいなくなったことも、こんなにも美しい嬢ちゃんに入れ替わっているのも納得だ。もしかして、この美しい嬢ちゃんは、聖獣様の使いか? やべぇぞ、消される前に早く逃げねーと」
そう言って、誘拐犯たちは荷物を担いだ。
「巻き込んですまないな、嬢ちゃん。俺たち、ずらかるぜ。ここは、国境付近だ。王国に入っちまえば……」
ん? もしかして、合法的にあたしのしもべができるチャンスじゃね? 王宮に入り込めるならいろんな使い道がありそうだし、誘ってみるか?
⦅ふぇ、我のご主人さまが怖い……⦆
(ジュレちゃん、あたしの使い魔としてあたしの領地を繁栄させてあげるし、エサは好きなもの用意してあげるからね?)
⦅……我の大好物は、ドラゴン肉じゃ。人間ごときには簡単に用意できぬだろう?⦆
ジュレちゃんの言葉を受けて、あたしははるか上空をちょうど飛んでいた天空のドラゴンを撃ち落とした。
どっごーーーん!
「アジトが壊れたぞ!?」
「俺たちを処理しにきたんだ、早く逃げるぞ! 嬢ちゃんも、早く逃げろよ!?」
(ジュレちゃーん、今日のごはんですよー?)
⦅もしかして、国の聖獣よりも待遇がいいかもしれぬ……? 我、ご主人様の使い魔になると毎食ドラゴン肉を食べれるのか?⦆
(バランスよく食べないとだけど、ドラゴンくらいならいつでも調達してあげるよ?)
⦅我、ご主人様についていくぞ!⦆
そう言って、ジュレちゃんが泣き止み、ジュレちゃんのちょうど目の前にドラゴンが落ちた。
あっけにとられる誘拐犯たちに、淑女の笑みを向けたあたしは、立ち上がり、カーテシーをする。
「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」
「ど、ドラゴンの……幻覚……っすか?」
「ひっ、ご貴族のご令嬢!? た、確か貴族って魔法が使えるって……」
「先輩、もしかして、この人の家に送り届けたら、感謝されて、雇ってもらえるかもしれないっす! 庭師でも、伯爵家の使用人になったら、伯爵家の所有物になるっすよ! 守ってもらえるかもしれないっす!」
「そもそも、こんな幻覚魔法を見せられる方から逃げられるはずがない。……スターナー伯爵家と言えば、誘拐し損ねた王子の国か……嬢ちゃんが王宮に突き出さなければ、なんとかなるかもしれねーか? 俺たちが誘拐犯ってこと、内緒にしてくれるか?」
視線を受けて、あたしは微笑みを浮かべる。
「謹んでお受けいたします」
「恩に着るよ。でも、雇ってもらえるのか?」
「また、両親に相談してお返事いたします」
あたしはさいっこうの笑顔を向けた。まっかせといて! あたしの専属として、手足のように使ってあげる!
「……先輩、俺、お嬢様についていきたいっす」
「奇遇だな、俺もだ」
「……」
あたしの笑顔で気絶しないなんて、使いやすそう! 最高じゃん!?
こうして、あたしの手下が一匹と三人増えた! 一人はめちゃくちゃ無口で一言も発してないけど、あたしに見とれてるっぽいから、いい感じっしょ!
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