第16話 お母様の推理②

「わたくしには、足……黒真珠のアンクレットを渡された公爵様が、なんの役割をしていたのかが想像でしか語れません。……偽の実行犯たるピンク髪のメイドを会場に入れる手引きをした、会場に連れてきた足としての役割、でしょうか?」


 お母様ママがそのように言うと、部屋のドアが優しくノックされた。



「……入室の許可を出せ」


 そう言って王サマは宰相サマに命じた。宰相サマが胸ポケットからカードを一枚取り出すと、魔力を込め王サマに差し出した。


「……よい、開けてやれ」


 王サマが差し出されたカードに魔力を込めると、宰相サマに渡した。宰相サマが扉の向こうにカードをふわりと転移させた。


「……これはこれは。ご歓談中、お邪魔でしたでしょうか?」


 ドアを開けて入ってきた公爵サマが、いつもながら腰を低く問いかける。


「よい。ちょうど、公爵について話していたところだ」


 王サマの言葉に首をかしげる。


「私について……はて、どんなお話でしょうか」


「王妃の殺害未遂についてだよ。君がどのように関わっていたのか、推理しているのだ……スターナー伯爵家のみなでな」


 視線を向けられたので、お父様パパお母様ママに合わせてカーテシーしておく。ま、この貴族社会、美しくカーテシーしていれば、なんとでもなるっしょ。


「ほう……それで私にはどのような疑惑がかかっているのでしょうか?」


 ニコニコと相変わらず、好々爺な公爵サマが頷いて聞いている。それを受けて、意を決した様子でお母様ママが語り始めた。


「公爵サマは、足の役割を果たされたのだと予想しております。偽の実行犯たるピンク髪のメイドを会場に入れる手引きをした、会場に連れてきた足としての役割、といったところでしょうか」


「なかなか、調べ上げているようですね。確かに、私はそのような役割も果たしております。……しかし、私の真の役割をお教えいたしましょう。私の裏切りをお許しください、陛下」


 そう王サマに向かって頭を下げた公爵サマは、固有魔法である記録魔法を展開しはじめた。白い霧が立ち込めたと思ったら、映像が流れ始めた。












「して、公爵よ。王妃のためにひとつ頼まれてくれぬか?」


「娘のため、ですか?」


「あぁ、最近、側妃の母国から側妃を王妃にあげるように圧力がかかっておる。我が息子である第一王子を次期国王とする代わりに、王妃の座を譲り渡せ、と」


「……側妃様の地位を上げることで、第一王子殿下が王となった時のバランスをとるため、ですか?」


「あぁ、そうだ。だから、側妃には失脚してもらおうと思う。私が側妃を焚き付け、王妃を襲わせる。軽いけがをする程度だが、側妃を失脚させるには十分であろう」


「我が娘に怪我をさせ、側妃様をはめるとおっしゃるのですか?」


「あぁ、あれは私に惚れ込んでいる。私の王妃になるためだとか、うまいことを言えば、簡単に実行するであろう?」


「……ほかに、他に方法はないのですか?」


「時間がない。王妃を守り、公爵の孫である第一王子を次期国王とする方法はこれしかないのだ。……公爵には、私に引導を渡し、王位を譲る足としての役割も任せよう。私のみつけたに対して、そなたの記録魔法を用いて私の罪を証明してみせよ」


「……陛下のご意思のままに」


 公爵サマが頭を下げ、映像は終わった。 












「スターナー伯爵家の皆様、こちらが私の役割でございます」


 綺麗な礼をした公爵サマは、王サマに言った。


「私は、我が娘が生死の間をさまようことになるとは、知りませんでした。ですから、陛下のおっしゃったタイミングではなく、このタイミングで証拠を提出いたします」


「ほう……公の場で証拠を出さぬということか。私を国王の座に縛り付けようというのか」


「あなた様の望みは、国王からの退位でしょう。そうはさせますまい。年若い王子殿下にはまだ荷が重いはずです」


 にこにこしながら王サマと会話を交わす公爵サマは、さすが高位貴族という笑顔を浮かべていた。


「残念ながら、すでに私の退位は決まっている。私はスターナー伯爵家の皆に攻撃を加えようとしたのだからな……なぁ、宰相?」


「は、陛下のおっしゃる通りです。我々は、罪を犯しました」


「まぁ、ミシェル嬢。息子の嫁に来るというのなら、おぬしたちを襲った責任をとって国王の座を退いてやろう。気の狂った国王を裁いた優秀な令嬢が、次期王妃となる。……我が息子ながら、あの子は私よりも王にふさわしい素質がある。恐ろしいくらいにな」


 そう笑みを浮かべる王サマは、美しかった。


「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)

「幼い頃から心に決めた方がおりますの」(愛しい人を思い浮かべる顔)


 お父様パパお母様ママは、大きくためいきをつきながらも、止めることはなかった。

 王サマは一瞬目を丸くした後、噴き出した。


「ふ……ふはははは。時期王妃の座を断るのか。さすがスターナー伯爵家。欲がないな」


(いえ!!! 欲まみれの娘でございます!!!)


お父様パパ?)


(……私だけでない。お母様も同じ顔をしているぞ)


 お父様パパに言われて、お母様ママの顔を見ると、頷いていた。え、失礼なんですけどぉ!?


「こほん」


 お母様ママが一つ咳払いをして、話を戻した。


「高位貴族の多くは、黒に近い瞳をしておりますが、純粋に真っ黒な瞳は王家の血筋の者のみですわ。……王子殿下は碧眼でいらっしゃいますが」


「へ!?」


 驚きすぎて、思わず声を出してしまった。あの王子サマ、真っ黒の瞳をしているじゃん!?


「……息子は趣味で瞳に認識阻害の魔術を施しているが、元の色は黒色で間違いない……ミシェル嬢には、認識阻害の魔術が効いていなかったようだが、な」


(待って、待って、お母様ママが「皆様、黒い瞳をしていらっしゃる」って言っていたの、王子サマは入ってなかったの?)


(そもそも容疑者でもなんでもない高貴なお方だぞ!? 入れるわけないだろう)


(なーんだ……)


「こほん、つまりは、陛下が皆様に指示を出した黒幕、ということで考えておりますわ。わたくしの推察は合っておりますでしょうか?」


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