第5話 実行犯への聴取

「ねぇ、お父様パパ。国王サマにお礼を考えておくようにって言われたけど、何がいいと思う? やっぱ、現金?」


「なんでお前はそうも楽観的なんだ。今回の陛下からの依頼は王命に近い。犯人を確実に見つけなければならないのに」


「ん? 見つけるだけでいいの? 一応捕獲用の縄、持ってきたけど……」


「阿呆娘! 容疑者一覧をちゃんと見たのか! どうひっくり返っても我が家の力では、疑いを持つだけで不敬になりかねない面々だろうが! まったくもう……まあ、今日は単なるメイドだから、そこまで気にしなくていいが……」




お父様パパが怖い顔で後ろに腕を組みながら、いつものように大声で言った。






「いいか。お父様との約束だ。復唱!」






「決められたセリフ以外、話さない!」


「決められたセリフ以外、話さない!」


「振る舞いはお淑やかに!」


「振る舞いはお淑やかに!」


「微笑みを絶やさない!」


「微笑みを絶やさない!」


「最後にお願いだから、平穏に犯人を捕らえること!」


「偉い人を縄にかける!」



 お父様パパに頭を思いっきり叩かれた。






決められた台詞


「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」

「よろしくお願いいたします」

「また、両親に相談してお返事いたします」

「ありがとうございます」

「まぁ」(困った顔)

「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)

「申し訳ございません」(真剣な顔)

「幼い頃から心に決めた方がおりますの」(愛しい人を思い浮かべる顔)

「光栄でございます」

「謹んでお受けいたします」

new! 「お父様。お願いしますわ」













 牢番に案内されながら牢獄に入ると、捕らえられたピンク頭メイドが、こちらをにらみつけてくる。


「ありがとうございます」


 牢番に満面の笑みでお礼を言うと、鼻血を出しながら去っていった。倒れないんだ。つまんないの。


「阿呆娘! 牢番で遊ぶんじゃない」


(だってお父様パパ、ここに入るまでいろいろ、手荷物とか調べられて面倒くさかったんだもん。美貌を使ったいたずらくらいかわいいものでしょ?)


(まったく……)



ピンク頭の牢の前にしゃがみ込み、笑顔を浮かべてあいさつする。


「わたくし、スターナー伯爵家が長女、ミシェルと申しますわ」

「よろしくお願いいたします」


ちらりとこちらを見たピンク頭は、あたしの笑顔を見て固まった。


(どうしよう。お父様パパ。こいつが壊れるのは想定外)


(聴取にきたのに、なにやってるんだ! 自分の美しさをいい加減理解しろ!)


(自分でも少しは整ってるなとは思うけど、自分の顔なんて見慣れているし)


(まったく……メイドがこっちに戻ってくるまで待っておくぞ)






数分後


「はっ! 天の国に招かれていた気がするわ!」


「ピンク髪のメイド殿。うちの娘が美しすぎてすまなかった」


「……! そうよ! あんたが私のことを見抜いたって聞いたわ! 隠匿魔法をかけていたのに! よくも……このかわいい私……え、私ってかわいかったはずよね?」


 あたしの顔を見て不安げになったピンク頭は、お父様パパのピンク髪のメイドという表現も気にせず、あたしの美貌に嚙みついてきた。


「よろしくお願いいたします」


 満面の笑みをピンク頭に向けようとするあたし。


(もう一度、この笑顔で気絶させてやろうか?)


(阿呆娘! せっかく話すようになった犯人をまた気絶させるつもりか!)


「な、なによ! その顔! ちょっと……いや、かなり顔がいいだけのあんたになんか、負けないんだから!」


「ありがとうございます」


(顔がいいって褒められたんだから、お礼くらい言ってあげないとね。ピンク頭もまあまあかわいい顔だけどね)


「お父様、お願いしますわ」


 細かい聴取をあたしが行うと、決められたセリフのルール違反になる可能性があるから、お父様パパにお願いして、情報の聴取を始めた。


「今回の王妃陛下殺害未遂について、ピンク髪のメイド殿の独断ではないだろう。背景にいる人物について教えてもらおうか」


「ピンク髪のメイドって呼び方、なんなの。まぁ、いいけど。誰に頼まれたかって? 知らないわよ。会っていたけれど、顔は見たことがないし。黒い瞳だけは覚えているけどね」


(黒い瞳だと、高位貴族では比較的多いから絞り切れないじゃんね?)


(そうだな。もしかして魔法で記憶を消されているのか? 痕跡を探れるか?)


(まっかせといてよ、お父様パパ! あたしに使えない魔法なんてない!)


 牢に入る時に魔法痕跡を確認する魔法をかけられたから、あたしはその魔法をさっさと真似する。



(うーん……魔法の痕跡はなさそうだけど)


(じゃあ、どのように“黒い瞳”以外の記憶を残さずにピンク髪のメイドと会ったのか……)


(ちなみに、隠匿魔法はピンク頭の能力か確認しといて、お父様パパ



「ピンク髪のメイド殿。隠匿魔法は、そなたの魔法だろうか?」


「そうよ。だから、私がこの役割になったんだもの。私ほどの隠匿魔法の使い手、なかなかいないのよ? うまくいけば、故郷の家族が飢えずに済むくらいの報酬がもらえて、弟の病気も治ったかもしれないのに……」

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