第22話 据え膳食わない童貞のカッコつけた言い訳

 ひよった。


 今の私に彼女の好意を受け入れるほどの器はない。溢れる。無理だ。


「どうしたの?したくなくなったの?」


 めっちゃしたいです。めっちゃくっちゃにしたいです。


「満足したからもういい」


 不満です。


「エイナルはね。私はまだ」


 持ち前の頑固さをこんな時まで発揮しなくてもいい。私を揺さぶらないで。


「パルマを大事にしたいから、今日はここまで」


「エイナルはね。私は乱暴にされたい」


 心臓が圧縮される。苦しい、楽になりたい。性欲め、出てくるな。


「……私は、パルマが私を好きなくらい、パルマのことが好きなわけじゃない。一方的に好かれているだけよ」


 出会ったばかりで、女の子で、その日のうちに好きになれるわけがない。こんな状態で手を出したらお互いに後悔する。


「それの何がいけないの?」


 この子は自己犠牲が強すぎる。自分が命を救われたから、イコール自分は相手の物。そんな極端な思考にはついていけない。


「釣り合わないの、私、重い女は得意じゃないの。軽い女が好き」


 よくもまあ思ってもいないことをペラペラと。付き合ったこともないくせに知ったようなことを言えるものだ。


「そう……」


「だから、私がパルマに釣り合うくらい、パルマのことが好きになって重い女になるまで、待ってなさい」


 偉そうなことを言う。何様だあんたは。待っていて下さいでしょうが。


「魔法、覚えられないよ?」


 この子の親の顔が見てみたい。どうしてこんなに我儘で、頑固な娘に育ててしまったんだ。いつか文句を言いに行ってやる。


「……後払いにするわ、だからいっぱい魔法を覚えて。その分、後で一括で払うから」


 これで許して下さい。積み上がった借金分はちゃんと払うから。


「……条件付き、利息分は毎日払うこと。キス払い。場所は私が決める」


 それって、何も変わってないわよね?新しい魔法をお披露目するたびにキスしなきゃいけないんだから。いや、追加で毎日しなきゃいけないことになってる?むしろ利息が付いた分私が損してるんじゃない?なんで私の方が不利なの?もうよく分かんなくなってきた。


 ……でも、ここが妥協ラインかな。とりあえずは今晩を乗り切れる。本当の意味で楽になれる。


「……私が重くなるまでは、低金利でお願いするわ……」


「そう、いい取引をした。稼がせてもらう」


 悪魔との契約が結ばれた。この夜、キス奴隷が誕生した。




 ⬛︎




『パルマを大事にしたいから、今日はここまで。キリッ』


「……」


『私、重い女は得意じゃないの。軽い女が好き。ドヤァ』


「……」


『私が重くなるまでは、低金利でお願いするわ。ズコーッ』


「うるっさいわね!眠れないでしょうが!」


『パルマも眠れない夜を過ごしているんだろうね、彼女が想定していたのとは別の意味で。可哀想だよ』


「……仕方ないじゃない。根性無しなんだもの」


 全部私が悪い。好意を受け取れない私が。


『それにしてもよくもまああの状態から我慢したよね。私ならワンナイトだし、ワンナイトがエブリナイトだよ。エイナが退いた時は歯軋りしそうになったもん。乱れるパルマとエイナが見れなくて残念』


「……何?あんたって女の子が好きなの?」


 そう言う話は今までしたことがなかった。機会がなかったのもそうだけれど、人の肉体を失ったサナに、そう言う話を振るのを躊躇っていたと言うのも理由の1つだ。


『わたしは精神的に未熟な男女が好き。幼くてえっちなのがいいよね』


 性癖の話じゃなくて恋愛の話をしているんだけれど……。


 サナの主観だと私とパルマも幼いに入ってるんだろうな。幼いのは否定できないな……。10年後の私だったら、今晩パルマと寝ていたのだろうか……。


 それにしても、やっぱりパルマにサナのことは伝えないとまずいな。キス奴隷になるのが決まったし、何年も隠して後から知られるよりも、今のうちに慣れてもらった方がいい気がする。


「ねえ、パルマにサナのことを紹介しようと思うんだけどどうかな?」


『いいんじゃない?でも魔法のことはどうするの?』


「それなのよね、いっそ、魔法のことは話さない方が良いかも。そうだ、回復魔法だけ使えることにするの。それなら色々と誤魔化せるんじゃないかしら?」


 お尻からの解毒は口から出したことにして、私が怪我を負ったから神様が助けるためにサナを派遣したことにすればなんとか辻褄は合う。合う?合うわよね?何か見逃しはないかしら?


『エイナがそれでいいなら良いけど、絶対いつかバレるよ。お尻から魔法を出さないと助からない状況はやってくる』


「その時は、私も覚悟を決めるわ。大丈夫、きっとパルマならそれでも私を見限ったりはしない」


『すごい自信だね』


「自信なんかじゃないわよ。信頼よ……あの子に好きって言われた時に、確信したの。この子は何があっても私についてくるって」


 そしてその重さに耐えきれなかった。今の私では無理だった。だから重くなろう。というか、勝手に重くなるはずだ。時間の問題だと思う。


『重い女は嫌いなんでしょ?』


「重さに釣り合わない、軽い女が嫌いなのよ」


 それにしても、惜しいことをした。本当なら今頃は……あーもう寝る!





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おなかの中のサナダムシが言うには、どうやら私は勇者になれるらしい スケキヨに輪投げ @meganesuki-

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