エロゲーの3Dモデルを動かすためダウナー系美少女と疑似セッxをすることになった
剃り残し@コミカライズ連載開始
第1話
『ローレンベルト、必ず生きて帰ってきて』
スタジオにヒロイン役を務める声優の音声が響く。それを、あたかも自分に言われたかのように、ローレンベルトになりきって頷く。
『あぁ。必ず生きて帰ってくるさ』
ローレンベルト役の声優の音声が同じようにスタジオに流れた。
全身黒タイツのような形状の、モーションキャプチャ用の服を着た俺が、王道RPGの主人公ローレンベルトになりきって頷き、口パクをする。
そして、目の前に立っている、ゆったり目のパーカーを着た、無表情な女の子を抱きしめる。ヒロインはピンク色のロングヘアだが、目の前にいる女の子は金髪のショートボブ。それでも背の高さはほぼ同じでどちらも166cm。
『絶対に生きて帰ってきて』とヒロインの声が響く。
『絶対に生きるさ』とローレンベルトが答える。
『死なないで』とヒロインが言う。
『死なないさ』とローレンベルトが答える。
『元気で生きていて』とヒロインが言う。
『元気で生きるさ』とローレンベルトが答える。
こいつら、いつまで生きるか死ぬかの話をしてるんだ、と思いつつ、ローレンベルトのセリフに合わせて頷いたり、口パクをしたり、女の子を抱きしめている腕を強くしたり弱くしたり、と動作をつけていく。
「はい! オッケーでーす!」
監督がそう言うやいなや、俺は自分が抱きしめていた女の子から離れる。
「今日の収録は以上になります。また明日、お願いします。
スタッフの人が近づいてきて、俺と、俺が抱きしめる役を務めてくれていた女の子、
詩音は無表情なまま小さく胸の前で手を振りながら「や、大丈夫です」と対応した。
詩音は今日の撮影は先に終わっていたのだが、ローレンベルトがヒロインを抱きしめるシーンでリアリティが出ず、ヒロインとの背格好がほぼ同じという理由で控え室から引っ張り出されてきたのだ。
「お疲れさまでした」と挨拶をして詩音と二人で控え室に向かう。
骨組みが組まれ、天井からカメラがいくつもぶら下げられているここは、3Dモデルを動かすためのモーションを撮影するためのスタジオ。
俺と詩音はモーションアクターとして、ゲーム内の人物やVTuberになりきって剣を振り回すような派手なアクションや殺陣をしたり、ダンスをする。
その動きは複数台のカメラによって撮影され、画面の中の3Dモデルが同じように動く、という仕組みだ。
「
詩音が真顔で尋ねてくる。彼女はモーションアクターの仕事の前、地下アイドルをしていたらしい。ダンスも歌もそこそこ上手かったのだが、あまりの無表情さや塩対応っぷりにクビにされたんだとか。
彼女と同じ現場になるのはこれで三作品目。毎回、大作RPGの仕事が来るので、それなりに顔を合わせることも多い。
「あるぞ。詩音はないのか?」
「や、あるけど別の現場。ウマが走るゲームのPV撮影だってさ」
「あぁ、じゃスタジオの中を走り回るのか」
「そ。だるぅ……リテイクかかる度に走んないとなんだよね」
詩音は常にテンションが低く感情の起伏も少ない。詩音の仕事は女性キャラクターを時に可愛く、時にセクシーに動かすことだが、表情は別でスタッフが動かすためこの人格でも務まっているらしい。
雑談をしながら控え室の前に行くと、俺達が契約をしているモーションアクターの事務所『アクターズモーション』のマネージャーの
本人は地毛と言い張っている人工パーマが今日もクルクルしていて、そばかすと丸メガネが似合う若い女性社員だ。
「真岡さん、
「お疲れ様です、竹原さん」と俺が返事をするとほぼ同時に「おつかれーっす」と砕けた挨拶を詩音がした。
「お二人にお願いしたい案件が有りまして……どうでしょうか?」
この人はいつもこうだ。詳細を何も言わずに仕事を受けさせてくる。だが、モーションアクターの仕事はいつでも潤沢にあるわけではない。こうやって仕事を取ってきて、俺達に回してくれるだけありがたいことだ。
「詳細はまた後日ですよね?」
俺が尋ねると竹原さんが苦笑いをしながら頷く。
「あはは……毎度すみません。情報を小出しにしかできなくて。先方からは男女のペアでお願いされています。お二人で受けていただけないでしょうか?」
「ん。私もオッケー」
「ありがとうございます! それでは、後日!」
竹原さんはそれだけ言うと、スタジオの出口の方へ向かっていった。
「今度は何だろうな。ソシャゲか、FPSか、バトロワか」
「男女ペアっていうくらいだしRPGじゃないの?」
「かもなぁ……」
近年のゲームではゲームキャラの3Dモデルを動かすために人間の動きをキャプチャすることが一般的になっている。
だから、今日と同じようにその手の仕事なんだろう、と二人で勝手に想像しながらスタジオを後にした。
◆
後日、指定されたオフィスビルに詩音と二人でやってきた。オーディションもなく、ほぼ仕事が貰えることも確定。なんでも後日に後回しにする竹原さんの敏腕っぷりに舌を巻く。
今日はスタッフからの企画説明と顔合わせが予定されている。
10人強が集まった会議室。少し待っていると会議が始まり、暗くなった部屋でプレゼン資料がスクリーンに投影される。
「えー、ご関係者の皆様、お集まりいただきありがとうございます。では早速『貞操逆転! キラキラ☆ムラムラ♡ハーレム〜貞操逆転世界で男枠wwwって馬鹿にしてくるけど俺のマグナムチンポに勝てるの?〜』の制作キックオフミーティングを始めさせていただきます。プロジェクトリーダーを務めます、
メガネを掛けた中年男性が淡々と説明を始める。
……ん? チンポとか言ったか、今。
改めてスライドに書かれている作品のタイトルを確認する。
『貞操逆転! キラキラ☆ムラムラ♡ハーレム〜貞操逆転世界で男枠wwwって馬鹿にしてくるけど俺のマグナムチンポに勝てるの?〜』
どう見ても全年齢向けじゃない単語が並んでいた。
「ではまず本プロジェクトの体制の説明から。今回のゲー厶の根幹は3Dでヌルヌルと動く濡れ場シーンです。その濡れ場のモーションアクターとして、主人公の
スタッフ達の視線が俺たちに集まる。
濡れ場シーンのモーションアクター……つまり詩音とセックスするフリをする仕事ってことなのか!?
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